1999 JANUARY
NO.279
KYOTO MEDIA STATION

特集
新たな世紀に向けて
京都府内 環境ビジネスの現状

(財)京都産業情報センター
(『環・京・ビジネス フレッシュレポート』より)

環境ビジネスへの提言

1. 事業として成立する環境ビジネス
(1)さまざまな分野で進む環境ビジネスへの取り組み

 「環境ビジネス」の定義自体がいまだ明らかでないようだが、「環境保全」に対し直接的もしくは間接的に貢献する事業ととらえるならば、昨今の環境問題に対する消費者の認識の変化がさまざまなビジネスチャンスを生んでいると考えられる。また、このように広範に環境ビジネスをとらえるなら、製造業を中心とするものづくりの分野だけでなく、小売業、卸売業などにも取り組んでいるところがある。
 つまり、環境ビジネスと呼ばれる事業領域は、ものづくりやその関連産業、あるいは流通業など業種的発想ではとらえきれず、顧客志向の近代マーケティングの考え方から脱却する必要があるものと思われる。製造業という業種は、基本的に固有の技術を背景に独自の分野を切り開き、ビジネスとして成り立っているように一見見えるが、創出したものは直接・間接的に最終消費者へ伝達されて評価される。

(2)環境問題に目を向けだした消費者
 ビジネスの最終的な社会での存在理由は、最終消費者に満足を与えるかどうかということ。つまり、環境ビジネスが成立するかどうかは、最終消費者が環境問題にどれだけ関心をもち、購買意思決定の基準に「環境」を据えるかどうかである。今日の消費者が環境問題に大きな興味を持ち始めるようになった背景には、チェルノブイリ原子力発電所の事故やエネルギー多消費による地球温暖化などがあり、日本ではダイオキシン問題や環境ホルモン問題も大きな要因の一つといえる。国境が意味を持たない地球環境問題は、小さな子どもをもつ若い母親達にとっても重要な関心事である。
 実際、今回ヒアリングを行った中にも、直接的に消費者の生活に直結する課題に取り組む事業所があり、製造業の範疇に入る事業所でも最終消費者に直接訴えかけられる製品を開発・供給していた。

(3)環境ビジネスとして成立させるために
 環境ビジネス自体にまだまだこれからのビジネスとしての側面があるため、「環境ビジネスとして成立する要件」をまとめるにはやや無理がある。しかし、傾向としてあげるとすれば、
  1. 経営者の環境への問題意識が高いこと
  2. マーケティング力を備えていること
  3. 収益オンリーよりも環境問題に関するポリシーを企業理念として持っていること
  4. 消費生活者のライフスタイルを理解していること
  5. 自社の既存事業領域以外にも積極的にチャレンジしていること
  6. 情報収集意識が旺盛なこと
  7. 公的機関とうまく連携していること
 などがあると考えられる。
また、調査結果では、「事業規模」の大小は大きな参入障壁になっていないことが見てとれた。

2. 社会環境の変化が環境ビジネスの追い風に
 近年、環境保全に対する意識は世界的規模で高まりつつある。わが国においても市民レベルでの資源リサイクル運動やゴミ削減運動、省エネ運動など活発な社会的運動が各地で行われている。一昨年は「気候変動枠組条約第3回締約国会議」が行われ、特に開催地である京都では、多くの団体や企業において環境保全への取り組み機運や意識が急速に高まってきている。
 これらに対し、産業面の新たな事業という観点からとらえてみると、当センターが3年前の平成7年に京都府内の事業所にアンケート調査を実施した際、回答事業所の12.0%が「環境ビジネスに取り組んでいる、もしくはこれから取り組む」と答えていたが、今回の調査では30.3%が同様に回答し、18.3ポイントも上昇している。これは、企業の環境ビジネスへの取り組み姿勢が急速に進展し、昨今の厳しい不況下にあっても環境にかかる事業は根強いニーズに支えられ、積極的な事業活動を推進しているということである。
 また、環境ビジネスに取り組む企業の動機として「社会的責任ととらえているため」という回答が3割、「時代のニーズにマッチしているから」との回答が2割強あった。また、いくつかの企業の経営者が環境への取り組みの重要さを異口同音に述べていたことから、その背景に国民的な意識の高まりがうかがえる。
 環境ビジネスの採算性に対しては、約半数の事業所が「一応採算にのっている」または「近い将来黒字化見込み」としている半面、1割強の事業所が「採算にのらない」あるいは「わからない」と回答しており、見通しに厳しいものが見られる。また商品化までの期間を2年未満とする回答は約半数であったが、2年以上とする回答も4割足らずあった。
 環境ビジネスに採算性を持たせるには、必要人材の確保、研究開発、販売チャネルの開拓などにおけるノウハウの活用が重要であり、資金調達も含めた経営努力とともに中長期的な経営戦略も大切といえる。今後ますます地球規模で意識が高まり、新たな環境ビジネスが活発化して社会の要望に応えていくことが期待される。

3. ISO14001と環境ビジネスの関連性
 地球環境問題意識の高まりで、環境保全に取り組む企業が増加している。具体的な行動としては、
(1)ISO14001の認証を取得する
(2)環境対応ビジネスに取り組む
 があげられるが、今回の主題である環境ビジネスとISO14001との関係について考察してみる。
 平成10年10月現在のISO14001の認証取得事業所数は全国で1,237事業所、うち京都府域では27事業所にとどまり、全国的にはほぼ中間のレベル。しかし、その一方、京都府グリーンベンチャー研究交流会で活動している企業数は50社を超えている。全国的なデータは別としても、さすがにベンチャー企業が育つ「京都」だけあり、ビジネス化においては「京都で起業」がしっくりくるような感がある。
 今回の調査では、ISO14001と環境ビジネスとの直接的な関連はほとんど見られなかったが、ISO14001の認証取得を計画している企業からは、環境ビジネスに取り組むことで社員の環境に対する意識が高まってきたとの評価があった。
 これからの企業経営において、業種を問わず地球環境保全に無関心ではいられなくなってくるのは明らか。そこで、何らかの方法で経営の仕組みの中に環境保全システムを織り込むことが必要とされており、その一番明確な形がISO14001認証取得だといえる。そして、企業が環境管理に取り組む場合、経営者をはじめ、従業員一人一人が重要な役割を担わなければならず、教育も欠かせなくなる。
 一方、環境ビジネスに取り組む企業において、自社製品が環境保全に寄与していることが認識されれば、ISO14001などを導入する際の教育的効果も期待できる。逆に、ISO14001認証取得による環境管理システムの構築は、環境配慮型の商品開発志向を高めて環境ビジネスへとつなげていくことも期待でき、次のような関連が成り立つと考えられる。

環境ビジネス商品開発とISO14001認証取得


4. 提言
 「環境ビジネス」と呼ばれる事業にはまだ明確な定義がないようだが、社会環境の変化や消費者の環境に対する認識の高まりから、ビジネスとして成立する可能性が出てきたことは確か。しかし、「開発コスト」がかさむことや技術開発の困難性、開発期間の長期化などが問題点として存在するのも事実である。ただ、平成7年度の調査から3年を経過した本調査では明らかに進展が見られ、COP3の開催や容器包装リサイクル法の施行などを背景に、環境問題は市民レベルにまですそ野を広げ、環境保全が常識になる日も近いといえる。
 従来、企業の存立要件は利益追求を背景とする経済的理由によるところが多く、一歩進んでも地域社会への貢献までだった。これに対して、21世紀の企業には地球環境の保全という使命が求められ、グローバルな視点が必要になってくると考えられる。一企業の利益のためだけに環境を無視することが許されなくなるのなら、逆に環境問題に真剣に取り組み、ビジネスとして成立させることを経営戦略の一つとして検討していくことも必要になってきたといえる。

 今回の調査で話を聞く機会を得た14の企業は、まだ「環境ビジネス」自体が採算にのっているという状況ではなかったが、経営ポリシーとして取り組まなければ、という気概が感じられ、企業の社会性が非常に優れていた点は評価に値した。本来、企業は社会に必要とされて活動することで存立が許されるものであり、大きな社会的要請として環境問題に取り組むのは当然のこと。しかし、消費不況下で経営に苦しむ中小企業が環境ビジネスに取り組むには困難がある。そこで、こうした中小企業を社会全体が支援し、ビジネスとして成立する環境を提供することで、直接・間接的に環境保全が進められることが望まれている。

 環境問題は、待ったなしの状況にまできている。本調査ではある程度の進展が見られたが、まだまだ取り組みが加速してはいない。「環境ビジネスは採算にのるのか」という大命題に対し、いまだ事業として成立しているとは言い難く、「マーケティング力」不足の補完が当面の課題といえる。そこで、販路を切り開くきっかけを提供するため、環境ビジネスに取り組む企業群への有効な支援が求められる。また、製品の開発研究等に対する公的機関の指導・支援、産・官・学が一体となった環境問題への取り組み、そして各家庭、個人レベルでの意識の底上げが環境ビジネスをバックアップする大きな力であることをつけ加えておきたい。
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