2000 OCTOBER
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特集

I Tで広がるビジネスチャンス
〜動きはじめた巨大市場〜

 インターネットに代表されるI Tの急速な進展は、電子商取引(EC、Eコマース)と呼ばれる新しいビジネスモデルを生み出し、現在、その市場は10兆円規模にまで膨らみつつある。I Tによるネットワーク技術の進歩が新たな流通革命の引き金となり、大企業だけでなく中小企業にとっても大きなビジネスチャンスがめぐってきたのだ。  現在、ECの主流となっているBtoB(企業間電子商取引)とBtoC(企業対消費者間取引)、そしてI Tを活用した異業種参入事業、経営の効率化に取り組む企業の実例を紹介し、I Tをビジネスに生かすための成功ポイントを検証したい。


企業実例

 

■ウペポ&マジ

 アパレル向けプリンターインクの開発で知られる京都の老舗染色企業、ウペポ&マジでは今年3月、日立製作所と千趣会との提携により、新たに「D-Fashion」を設立してAPS事業に乗り出した。登録企業のニーズにあわせてデジタルプリント商品企画を立案し、ネットワーク化された加工業者や素材メーカー、デザイナーなどへ発注するシステムで、ポータルサイトの仮想ショッピングモール、デジタルコンテンツの配信など4つのサイトから構成される。現在、インターネットビジネスの主流となっているBtoBだけでなく、カタログ販売によるBtoCをも視野に入れた取り組みが注目されている。

 

■クイック

 インターネットで新車が購入できるカーディーラーとして、自動車流通革命の一翼を担っているのがクイック。アクセス数は1日約7000件、平均客単価は300万円、年商は50億円に達するという。従来、1〜2週間という長い期間をかけて商談する必要のあった自動車購入手続きをすべてネット上で完結(処理)しようというもので、自動車検索から下取り車査定、登録、車庫証明手続き、保険の加入など、印鑑証明を除くすべての作業をスピーディーに行うことができる。また、購入後の保証や点検・整備、車検なども全国ネットの対応システムでカバー。インターネットカーディーラーの登場は、旧態然とした顧客テリトリー制を敷く既存店のあり方自体を問いかけるものといえそうだ。

 

■グローバルイングリッシュ社

 I T革命は既存の流通方式を激変させたばかりでなく、価格破壊という大きな副産物を生み出しつつある。グローバルイングリッシュ社では、インターネット上で英語を学ぶことができる激安サイトを立ち上げた。英語講座は初級から上級まで10コースあり、1講座45時間をたった2100円で受講することができる。しかも、英文の電子メールや手紙などの添削は無料という特典付き。英会話学校に通学する場合、通常1時間あたり1000〜2000円以上かかる。わずか20分の1という低価格を実現できた背景には、インターネットのスケールメリットを生かし、全世界で100万人もの利用者が見込まれているためである。今後、資格取得熱の高まりの中で、インターネットを武器に新規参入を試みる企業が増えそうだ。

 

■ソニー(http://www.jp.sonystyle.com)

 I Tへの取り組みが進んでいるといわれる家電業界だが、ソニーは平成12年1月に「ソニースタイルドットコム・ジャパン」を立ち上げ、いち早くインターネットでの消費者向け直接販売に乗り出した。カラーオーダーやAV機器などの製品を自由に組み合わせて購入することができるほか、ネット接続やユーザーサポートなども付加した総合サービスサイトとして注目を集めている。平成15年頃までには、ネット販売の売上高を全体の20%程度に伸ばすことを目標にしているという。成熟しつつあるパソコン市場において、今後インターネットを使った直接販売競争が激化していくのは間違いない。

 

■家具のアオキ

 大規模店の登場により中小家具店が苦戦を強いられる中、インターネット販売で年間8000万円以上の実績をあげているのが、京都市中京区にある家具のアオキ。100%無店舗販売を行っていることから、在庫費用ゼロ、人件費・配送費の削減などローコスト経営が可能となり、問屋経由の仕入れにもかかわらず、小売店の仕入れ値以下で販売することができるようになった。また、代金後払い方式を採用することで、高額商品を購入する顧客に配慮しているほか、不具合商品の返品交換などのサービスも怠らない。徹底した低価格とワン・ツー・ワンの顧客中心主義で成功を収めている中小企業の好例だ。

 

■シーエーエスツアー

 情報型商品を提供する旅行業は、将来のEC市場で最も成長する業界だといわれている。インターネット販売で22億円もの売り上げを見込むシーエーエスツアーもその一つ。販売商品を海外格安航空券(東京発のみ)に限定しているのが特徴で、広告費やサイト管理費などコストのかさむ部分を切り捨て、同業他社に比べて格安価格を実現した。航空券予約以外のサービスは一切行わないという徹底ぶりだが、とにかく格安チケットを入手したいというユーザー層を中心に、月間160万件以上のアクセスがあるという。インターネットのメリットを生かした販売商品特化型ビジネスとして注目したい。

 

■マイトリップ・ネット

 マイトリップ・ネットは、日立造船情報システムが100%出資するホテルの予約システムだ。主な取り扱い業務はホテル会員のアカウント設定、予約管理、HP情報やデータの維持など。システム会社の強みを生かして、社内サーバーなどを利用してデータベースシステムを構築したという。サービス利用開始2年目でアクセス件数1万件、推定売り上げも1000万円を突破した。近年の旅行ブームと相まって、今後ますます需要が伸びていくことが見込まれている。大規模既存店がひしめく旅行業への異業種参入ビジネスではあるが、業種・業態にとらわれない自由な仕組みが成功に結びついたといえるだろう。

 

■アスクル

 WebサイトやFAXでオフィス用品の注文を受け、全国の事業所へ配送サービスを行うアスクル。顧客の購買履歴に基づくデータベースを徹底活用することで、前年比売り上げ2倍以上の高成長を続けている。購買品目や金額、アクセス回数などをもとに、顧客を10〜20のグループに分けて、それぞれに細かなマーケティングを実施。潜在的なニーズに応じた販促キャンペーンやインセンティブ(優遇特典)などを行うことで、顧客満足度を向上させ、高いヒット率を実現している。注目のCRMの活用がワン・ツー・ワン・マーケティングを成功させ、顧客の囲い込みに結びついたのが成功のポイントだ。

 

■フェスコ

 オフィスビルや工場などの省エネ診断、施工、モニタリング事業を総合的に提供するのがフェスコ。朝日工業社など11企業が共同出資する日本初のエナジー・サービス会社である。本部と出資企業の間を、インターネットとイントラネット技術を融合したシステムで結び、顧客管理やプロジェクト管理、営業管理などすべて一元的に統括。一人ひとりの社員がそれぞれの企業にいながらにして、自社の最新技術やノウハウを提案できるのが最大の特徴で、必要に応じて、企業に属さない専門家や学識者がアドバイザーとして参加するシステムも整っている。業務に関する情報伝達をすべてオンラインで行うことを可能にした革新的なバーチャル・コーポレーションだ。


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