2000 MAY
NO.295
KYOTO MEDIA STATION

情報化が生んだ“漢字復権”
(財)日本漢字能力検定協会
    いまや年末恒例となった「今年の世相を表す漢字」。昨年は“世紀末”と、“末広がり”を願って「末」の字が選ばれたが、全国から募集し、京都・清水寺でマスコミ発表しているのが(財)日本漢字能力検定協会(京都市下京区)だ。
    漢字の学習は日本文化の理解につながるという目的で、名前の示すとおり昭和50年から漢字能力検定を実施し、以来「漢検」の名で親しまれている。7級から1級までの9ランク(準2級・準1級含む)。昨年(年3回)の志願者は、5年前の約3倍の延べ130万人に達した。漢検は平成4年、文部省認可の法人となったのに伴って同省認定の「技能検定」となり、大学入試などで能力評価の尺度としている大学・短大は全国で400校に及ぶ。さらに受験者は4歳から94歳まで、まさに生涯学習の身近な入り口となっている。
    デジタル時代の“漢字復権”は、一見、奇妙な現象とも思われがちだが、同協会の大野博史・広報部部長は「むしろワープロの台頭が追い風になった」という。漢字に正しく変換するためには読み書きの能力が求められ、漢字離れといわれている半面、インターネットやEメールなど自分で文章を書く機会が確実に増えてきている。「さすがに若者の間でも、iモードのやりとりでひらがなだけでは恥ずかしいという心理が働く」のだそうだ。
    ある調査では、子どもの頃、嫌いだった科目に漢字を挙げる中高年が結構多いという。「書き取りはよく宿題やペナルティーの手段に使われ、学校では漢字の面白さを教えてくれてなかった」と大野部長。協会では機関紙、一昨年末に創刊の漢字マガジン『La漢(ら・かん)』(隔月刊)やホームページで漢字パズル、四字熟語の1コマ漫画、漢読地名、漢字にまつわるエピソードなどを紹介しているほか、児童〜大人までを対象にしたゲーム感覚の学習ソフトや検定受検のための辞書・参考書・漢字に関する教養書を出版している。
    また、家族で漢検を受験し、全員合格したときは家族表彰があり、漢字の勉強という共通の話題を通して家族の会話が増えたという声も寄せられている。この4月には漢字と人間の歴史を楽しく学ぶ「漢字資料館」が京都事務局内にオープン、そのイベントスペースに、車体に漢字をあしらったレーシングカーを展示して話題を呼んだ。それは漢字が実用面ばかりではなく、デザインとしても機能するという遊び心のデモンストレーションなのだという。

道具とおもちゃで好奇心を育む
(株)木下製作所
    全国各地で地域おこしの一環として科学館・博物館、テーマパークなどの施設が相次いで誕生している。精密機メーカー、(株)木下製作所(京都市中京区)の工芸部は、そうした施設でよく見かける展示物――科学や機械の原理を遊びながら学ぶユニークな装置を手がけている。
    同社は明治時代に教育用理化学機器の製造を始めた老舗で、昭和62年にディスプレイ部門が設けられた。得意とするのは、ディスプレイと機械を組み合わせたMD(メカトロニクスディスプレイ)と呼ばれる分野。見学者に装置の内部の仕組みをわかりやすく紹介し、同時に体感してもらうMDは、メカトロニクスと空間デザインの融合から生まれたものだ。
    4年前からは、親子で身近な生活用品を通して科学への関心を深めてもらおうと、工芸部内でプロジェクトチームを編成してエデュテイメント展示物「知遊パレット」づくりに取り組んだ。今年の「エデュテイメントフォーラム」に出展したのは、「モーター」と「リサイクル」をテーマにした道具とおもちゃ。「モーターは20世紀の産業発達の象徴だったのに対し、リサイクルは21世紀の大きな課題。モーターの恩恵を知り、簡単に取り組めるリサイクルの知恵を身につけてもらいたい」(小林雅之・同部工芸グループ員)という出展ブースでは、家庭で普段使っている商品の内部の様子を見せたり、実際に手で操作もできるなど、訪れた親子連れの人気を集めた。
    宿野秀晴・工芸部長は「いまの子どもたちはボタンひとつを押せば用が足りる生活に慣れきっているせいか、とかく使い勝手に目が向いてしまう。モノづくりの考え方や、なぜという動作原理に興味を持つことが一番大切ではないか」と、出展の意図を語る。このほか「インターネット」と「音」、インターネットの利用方法や、音が体に与える影響を脳波を通して目で見せるパレットも開発し、各種イベントのエデュテイメント展示用にレンタルしており、さきの「モーター」はアグリパーク「丹後あじわいの郷」でも利用された。
    これらの開発にあたっては、ファミリーという視点に立つ。子どもの好奇心や探求心を引き出すきっかけは、「毎日、身の回りで起きているちょっとした不思議をめぐる親子の会話から始まることが多い」(宿野部長)という。
    だから、知遊パレットはいずれも“親子の交流体験”がベースになっている。
←BACK PAGE