2000 JANUARY
NO.291
KYOTO MEDIA STATION

全国中小企業情報化フォーラム'99 −IN MIYAZAKI−
情報化で21世紀への躍進

西暦2000年を迎えた今、これまでの社会・経済の流れを見つめ直し、21世紀に向けた企業経営の方向性を打ち出すための指針が強く求められています。特にコンピュータ・ネットワークが今後さらに拡大し、社会の中で果たす役割が高まっていくことは間違いなく、企業の経営戦力の中により積極的に取り入れ、効果的な活用を図っていく必要があります。
そこで今回は、昨年11月8日・9日の両日、宮崎シーガイアにおいて開催された「全国中小企業情報化フォーラム'99」より、ネットワーク社会におけるビジネスのあり方を考えるうえで参考となる講演や事例発表の内容をご紹介いたします。
全国中小企業情報化フォーラム'99−IN MIYAZAKI−
基調講演
21世紀をひらくネットワーク経済
講師 東京大学教授・先端科学技術研究センター長
野口 悠紀雄 氏
○一変した米国の産業社会
現在、世界で一番大きな書店はどこにあるのかというと、オンライン・ショッピングの通信回線上にあります。米国の企業がインターネットで展開している“書店”の本の取り扱い点数は、最大級店舗のそれの10倍。米国では自動車の購入も個人の株取引も5割近くがオンラインで行われています。
インターネットはまた、従来はなかった企業間取引も可能にしています。その1つがBTO(Built to Order=注文生産)です。例えばパソコンはこれまで見込み生産で、技術進歩が速すぎるために不良在庫の発生が悩みのタネでしたが、DELコンピュータはオンラインによるBTOを導入したのが成功して、またたく間に全米1位のパソコンメーカーになりました。
あらゆる産業が新しい情報技術によって生まれ変わる、あるいは新しい技術を使わざるを得なくなるでしょう。西暦に紀元があるようにインターネット登場以前、以後という言い方がされますが、米国ではすでに経済の実体が大きな変化を遂げています。
1999年3月のフォーチュン誌によると、株式時価総額でみた全米企業ランキングはマイクロソフトが4,185億ドルでGEを抜いてトップに立ちました。10年前はIBMでしたが、いまは10位にも入っていない。パソコン関連では5位にインテル、10位には数年前に突如現れたシスコシステムズが入り、その時価総額は日本のトヨタを上回っています。

○e-ビジネスの特徴
新しい情報技術を用いるビジネスの特徴としてあげられるのは、まずスピード、つまり変化が非常に速いことです。“ドッグイヤー(イヌの1年は人間の7年に相当する)”という言葉がありますが、インターネットの世界はこの4、5年間で他の世界の30年間に相当するほど様変わりしました。大が小をのむのは昔のこと、いまは速い者が遅い者をのみ込む時代です。
2番目は小資本、小組織でもできることです。かつては大企業でないとできなかったことが中小企業でもできるようになった、というよりむしろ有利だといえます。オンライン・ショッピングしかりで、在庫を持つ必要はありませんからアイデアさえあれば誰でもできるということです。
3番目は「場所」の制約がなくなったことです。そこに通信回線さえあればどこでもいい。かのヘッジファンドのトレーディングルームがニューヨークのウォール街ではなく、森の湖のほとりにあったというのは象徴的な例でしょう。
4番は国境がないこと、インターネットにおける国境は言葉の壁だけです。

○変化する仕事スタイル
いまは自宅でもEメールやインターネットを使えばかなりの程度、仕事がこなせるようになりました。在宅テレワーカーなどのSOHO人口は、米国では4,000万人とも5,000万人ともいわれています。そうした人たちが実は90年代の米国経済の繁栄を根底で支えてきたのです。
SOHO現象は経済の動向や産業構造に大きな変化をもたらすことが予想されます。それは、これまでは経済が発展するにつれ、人口と産業が特定の都市圏へ集中していたのが、インターネットはこれを逆転させ、分散化させる可能性があるからです。

○なぜ日本は立ち遅れるのか?
米国が日本よりずっと前からパソコンを使っていたわけではありません。本質的な問題は社会的な制度や構造にある。米国のパソコン関連産業はマイクロソフトもアップルコンピュータも、新たに生まれた会社です。つまり、出発点はみんなベンチャービジネスでした。昔から存在した大企業はほとんどありません。
これとは対照的に、日本はいまだに大企業が支配する経済構造のままです。パソコン産業もまたそうです。一方はベンチャー、一方は大企業が主体、日米の最大の違いはそこにあります。
日本経済の高度成長は、大企業を中心とした製造業の発展に支えられました。日本の製造業はすでにでき上がっていた基本技術を改良し、効率化することでうまくいったのです。ところが、新しいタイプの産業は従来の製造業とは技術が異なります。ですから米国のように、ベンチャーが先行し、リードしていく仕組みの方が適合したわけです。
これからは“中小企業の時代”といわれるのはこうした技術の違いがあるからで、同時に経済構造も変わらなければなりません。しかし、それを基本から変えるのは難しい。90年代の日本経済の低迷の原因はそこにあったといえます。
新しい技術を自ら開発するのではなく、よそから持って来るという方向も考えられますが、今後はそれができるかどうかは疑問です。というのはマネができない可能性があるからです。製品開発のみならずビジネスのやり方についても特許の対象にする動きが米国では起こっています。

○ネットワーク経済に向かって
パソコンに関する技術開発で日本人が米国人に劣っているわけではありません。日本の教育は知識偏重で創造教育に欠けるといわれますが、米国の大学教育は日本以上の猛烈な詰め込み教育です。詰め込むぐらいやらないと想像力は生まれない。問題なのはベンチャーが活躍できないような日本の社会の仕組みです。雇用の形態や融資制度、税制などがベンチャー育成には不向きになっていることです、これらの仕組みが変われば、日本人の能力はもっと発揮されると思います。
それともう一つ、意識や考え方を変えることが大変重要です。技術が変われば考え方も変えなければならないのに、日本ではここがなかなか変わらない。特に大企業のトップの方々がそうです。経済活動は場所にこだわる時代ではないといいましたが、首都圏移転の論議などはアナクロニズムの最たるものです。通信回線があって安いコストで接続できれば、あとは生活環境のいい所がいい。そんな新しい時代に対応して考え方を変えなければ、21世紀の経済社会を開く可能性は十分あります。
全国中小企業情報化フォーラム'99−IN MIYAZAKI−
テーマ別研修会 製造業部門コース
講演
情報化の進展による製造業の経営戦略
講師 中小企業総合事業団 情報化推進アドバイザー
古長 勝人氏

情報社会の到来は社会の仕組みを変え、産業界の各分野にもかつてない影響を与えています。特にEC(電子商取引)の進展と、顧客と商品の変化という2つの動向は、中小製造業の企業活動の多面で従来とは異なるスピードと質の違う対応が要求されています。

○中小企業が勝ち残るには
中小企業、特に製造業の置かれている環境は様変わりしています。たんに厳しいとか、コストが下がっているとか、受注が減っているとかだけではありません。厳しい経営環境のなかで、さらに構造変化に対応しなければなりません。「発注元のコストダウンの要請が厳しい。かといって過去に設備投資にお金を使ってきているのに、どうやってその中から新しい体制を作っていくのだろうか?中小企業に勝算はあるのか?」などなど問題は無数にあります。じっとしていては、撤退を強いられるというのはまぎれもない事実なのです。厳しい経営環境のなかで、さらに構造変化に対応しなければなりません。製造業は、人材の問題、過去の設備投資の償却、過去の負債などの償却で、情報化への取り組みが立ち遅れがちになるのも事実です。
ただ、今は情報化の発展に引っ張られて、色々な仕組みが変わってきています。中小企業がいつまでも大企業の下請けに甘んじるだけが生きる道ではなくなってきています。特殊な技術や飛び抜けた何かを持っていれば、情報化の進展によって、直接、消費者に物を売る仕掛けやルートを構築できるようになるのです。

○企業を強くする情報システムの構築とは
低成長時代はこれからも続くでしょう。しかし、そのような状況であっても確実に収益を得る強い企業に変えること、それが情報化システム再構築のねらいです。
企業を強くする戦略の原点は「有視界経営」にあります。なぜ注文が減ったのかの分析を含めて、自社だけの実態ではなく、お客がどう動き始めているか、客先の企業の形態がどう変わってきているのか、取り扱い商品がどう変わっているか、ということを分析する。視界をいっそう広めて、そこから得られた情報を経営に瞬時にフィードバックして、上級管理職が経営方針と年度の目標数値を出す。3〜5年の長期経営計画も必要です。
次に、勝負する土俵はどこか?、相手は誰か?、武器は?、何を持ってよそに優位性を持っていくのかということを考えて情報化戦略を作っていく必要があります。取引先からネットワークを利用した受発注処理・メールなどの伝達システムを作る、お客様にその場で返事できる仕掛けを作る、他社に負けない合理的な一貫生産を低コストでやる仕掛けを作る、ネット通販の可能性を追求するなど、マネジメントサイクルがしっかりと行われるような情報システムの構築を目指すことです。その第一歩は、経営者自身が情報システム構築の確固とした意識を持つこと、そして強いリーダーシップを発揮して挑戦するか否かで、撤退か、発展かの岐路が決まるのです。

情報システムによる業務支援
管理者
○PCを用いて実態を見る
○業務APL.が経営分析
○管理の輪(Plan・Do・Check・Action)を回す

営 業
○情報共有
○営業の場を広げる
○顧客密着
 −コミュニケーションの密度、質の向上
○競合他社と差
 −レスポンス・差別化
○新規顧客開拓
 −ネットで支援
NEXT PAGE→

MONTHLY JOHO KYOTO