1999 SEPTEMBER
NO.287
KYOTO MEDIA STATION

特集
高齢社会におけるビジネスチャンスと情報通信技術の果たす役割

高齢者ニーズと新規開発

今、高齢者が何を望んでいるかを知ることは、シルバービジネスへの参入を図る上で非常に重要だが、高齢者の意識が次第に変化しているため、従来通りの見方では的確にニーズをつかむのは困難だ。例えば、これまで高齢者向けの娯楽の代表格とされてきたゲートボールの人気は低下傾向にあり、一見すると若者向けだと思われがちなカラオケの人気が高齢者の間でも高まっているという。これは、高齢者が“年寄り扱い”されることに抵抗を感じるようになり、年齢を意識せずに楽しみたいと望むようになってきたことを示しているといえる。
また昨年末には、ダイヤル式のスイッチを採用したり文字を大きくしたり、高齢者が使いやすいように配慮した家庭用電化製品が相次いで発売されたが、各家電メーカーはこれらを高齢者向け商品とは呼ばず、ユニバーサル商品と呼んでいる。これは“高齢者向け”という表示に高齢者が抵抗を感じるのを避けるためだ。家電製品は多機能化に伴って操作がどんどん複雑化しているといわれるが、社会の高齢化を契機として、誰にでも使いやすい普遍的な商品が求められる傾向が強くなる可能性も高い。  このように、消費者ニーズが激しく変化する中で新製品を開発するには、さまざまな外部のノウハウを有効に活用することも重要だ。(財)京都産業情報センターの会員交流研究会の一つ、LSP(ライフ・サイエンス・パド)研究会では、手足を電気マッサージできる手袋やサポーターを共同開発し、製品化まであと一歩というところまできている。
平成9年春に同研究会を発足させた(株)ウラセの浦瀬一郎社長は当初、肩こりに効果のある女性用下着を開発しようと考えていた。ところが、勉強会を開いたり大学で鍼灸を勉強しながら研究を重ねるうちに行き着いたのは、導電性繊維を編み込んだ製品。これらは特に、ひざやひじの疲労に悩まされがちな高齢者にとって利用価値が高いものだ。浦瀬社長は「より完成度の高いものを目指して開発を続け、健康や美容、医療分野など様々な方面にPRするうちに、今度はニーズのほうがこちらに向かって出てきたような感じです」という。
健康、医療はもちろんだが、今後は美容というテーマもシルバービジネスの中で大きな位置を占めることが予想される。このことからも、LSP研究会が手掛ける製品の応用分野は相当に幅広いものであり、大きな可能性を秘めているといえるだろう。

高齢社会における情報技術の役割

このように、高齢社会に向けてさまざまなビジネスの可能性が模索される中で、コンピュータ・ネットワークによる情報基盤が果たす役割は大きく、新たな事業展開を図るうえでも極めて重要な要素でもある。
まずあげられるのは、高齢者に必要なサービスの提供手段としての役割。ここ数年は、医療費の伸び率が国民所得の伸び率を上回るようになり、特に老人医療費の伸びが著しいため、保健・医療・福祉分野の効率的な連携と情報化は不可欠の課題となっている。いずれの分野においても事務処理をはじめとしてさまざまな部門で情報化が進められているが、今後は在宅介護など高齢者介護の形態が分散化、多様化するため、高齢者とその家族、介護機関が別の場所にいてもコミュニケーションを確保できる情報ネットワークの形成が必要となってくる。郵政省が平成7年に取りまとめた「高齢化社会における情報通信の在り方に関する調査研究会」の最終報告では、
・在宅高齢者に対する医療、介護等の提供を行うシステム(遠隔医療相談システム等)  ・在宅高齢者のライフラインとなるシステム(広域自動緊急通報、見守りシステム等)
・介護家族の負担軽減に役立つシステム(徘徊保護システム、福祉相談システムシステム等)
・介護支援スタッフを支援するシステム(スタッフ) のほか、介護支援を行うスタッフや介護支援機関のための情報通信システムの整備が必要であるとしている。
また、高齢者が生きがいを持って積極的に社会参加しながら生活することを支援する上でも、情報通信技術は重要な役割を担っている。全世界と瞬時に情報交換し、コミュニティを形成できるというインターネットの機能は、どんな健康状態の高齢者にとっても貴重なものだからだ。
しかしながら、現時点ではパソコンを利用している高齢者の数はまだまだ少ない。郵政省と厚生省が共同で開催するライフサポート(生活支援)情報通信システム推進研究会が実施したアンケートによると、高齢者の約8割がインターネットやパソコン通信などをまだ利用していないという状況だ。その理由としては、インターネットやパソコン通信の内容、機器やソフトウェアの選別や使い方がわからない、利用方法を教えてくれる人がいない、始めるきっかけがつかめない、などが挙げられている。日米のインターネット利用者の年齢別構成を見ても、日本ではアメリカと比べて利用者の年齢層が20〜30代に集中しており、高齢者層の利用が少なくなっているのがわかる(図-4)。

資料:「平成11年度版通信白書」(郵政省)

しかし、このことは一方で、日本にはまだまだ高齢者層にコンピュータ・ネットワークが普及する可能性があり、それに関連したビジネスが成長していく余地があるということを示している。また、近年の生涯学習に対する意識の高まりから、パソコンの操作を習得してインターネットを利用したいと望む高齢者は着実に増えている。高齢者を対象としたパソコン教室は好評を博し、インターネットを利用して多くの人々と交流を深めたり、起業に臨む高齢者も少なくない。将来的には、高齢者が情報通信システムを活用するための支援から高齢者を対象とした商品の販売やサービスの提供まで、幅広い分野のビジネスに応用の可能性は広がるはずだ。
社会全体が確実に高齢化に向かい、その構造や価値観が急速に変化していく中、高齢者が何を感じ何を求めているかを的確につかみ商品開発やサービスに反映させていくことが今後のビジネスには求められてくるだろう。そして、情報通信技術の社会的な役割はさらに高まり、産業・経済の牽引役として新たな可能性を生み出していくことが期待される。

【シルバービジネス分類表】
衣料、生活、身の回りの市場、おむつ関連、衣料・介護衣料、ファッション、カーペット・毛布・敷布・カバーなど、補聴器、 老眼鏡、入れ歯関連・歯科材料、鞄(介護関連)、靴(山歩き用)、杖、化粧品
食市場 、健康食・シルバー食、ブレンダー食、食事・食材宅配、病院給食
老人ホーム住宅、住居市場
《養護・保健医療施設》…ミニホーム・グループホーム、 有料老人ホーム、医療・保険・福祉連合施設、特別老人ホーム、デイサービス施設、老人保険施設、関連ソフト
《シニア・シルバー住宅、設備・建材》…シルバー マンション、シルバー住宅など
バリアフリーグッズ市場、車いすの製造・販売・修理、シルバー車両、シルバー家具、段差解消機、昇降いす、簡易トイレ・介護浴槽、車いす訓練シミュレーションソフト
健康管理市場(予防、健康維持・増進・回復、医療周辺・介護市場)
《健康管理》…健康診断・相談・予防・維持(ケア)、 健康増進(フィットネス)、健康回復(リフレッシュ)
《医療》…高齢者医療、遠隔医療、在宅医療、リハビリ、医療ソフト
《医療周辺》…医療費抑制・節約、医療周辺ソフト
《介護》…在宅介護、介護機器、介護ソフト、在宅サービス
安全・安心市場、緊急・救急搬送、高齢者捜査・通報、防犯・安全、安全・安心ソフト
生きがい、カルチャー市場、カルチャースクール、サークル、セミナー、交流サロン、生涯教育、プレエデュケーションプログラム
余暇、レジャー市場、旅行・観光・行楽、スポーツ、趣味・学習、娯楽
雇用、労働市場、起業支援、就業促進、技能訓練・習得支援
情報、ソフト市場、情報誌・データ提供、相談・コンサルティング、マニュアル・情報ソフト
財テク、金融、保険市場、介護サービス積立金、介護保険、リバース・モーゲージ、成年後見制度
葬祭関連市場、生前予約、葬儀仲介フランチャイズ、遺影写真電送フランチャイズ、、立体式納骨堂、霊園経営、葬祭関連ソフト
社会システム市場、流通・店舗・物流、商業施設、宿泊施設、住宅関連、ボランティア、人材育成・活用
〜シニア・シルバービジネス白書1998年度版より〜

←BACK PAGE

MONTHLY JOHO KYOTO