1999 SEPTEMBER
NO.287
KYOTO MEDIA STATION

特集
高齢社会におけるビジネスチャンスと情報通信技術の果たす役割

21世紀を目前に控え、わが国では急速に高齢化が進展している。そして、これと並行して、高齢者をターゲットにしたシルバービジネスは急速に成長を続け、巨大マーケットを形成することが期待されている。今回は、来るべき高齢社会の到来を見据えながら、現在におけるシルバーマーケットの動向と今後の情報通信技術の役割について考えてみたい。
加速する日本社会の高齢化

平成10年度総務庁統計局の調査によると、日本の65歳以上の高齢者数は2,049万人で、総人口の16.2%に相当する。2015年には4人に1人が65歳以上になるとの厚生省試算もあり、欧米諸国に比べ急速に高齢化が進展していることがうかがえる(図-1)。このような高齢社会の到来に向けて、平成12年4月から介護保険制度が導入され、ホームヘルパーの派遣や看護婦の訪問といった在宅サービス、特別養護老人ホームへの入所などさまざまな施設サービスが検討されている。
しかし一方で、高齢者を取り巻く社会環境が多様に変化し、ますます元気な高齢者が増加しているのも事実。厚生省によれば、高齢者全体に占める要介護者の割合は全体の12〜15%程度で、80%以上の高齢者が元気に日常生活を送っている。また、平成7年度総務庁長官官房高齢社会対策室「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」によると、就業を希望する高齢者の割合は、60〜64歳では約64%、65〜69歳で約45%にのぼり、高齢者の社会参加意識もかなり高まっている。こうして、社会全体が高齢化への本格的な対応を迫られつつあることに加え、本年は国連総会で定められた「国際高齢者年」にあたることから、福祉・保健・医療分野はもとより、就労・所得保障・住環境に至るまで、豊かな長寿社会に向けた社会活動が一層推進されることだろう。

資料:総務庁統計局「国勢調査」

■国際高齢者年とは
1992年に開催された第47回国連総会において、1999年度を「国際高齢者年」とする決議を採択。「高齢者のための国連原則」(自立・参加・ケア・自己実現・尊厳)を促進し、21世紀に向けて政策や実際の計画・活動面に具体化していくことを目指している。すでに世界各国において、記念イベントやシンポジウムなどさまざまな社会活動が実施されている。

拡大するシルバーマーケット

高齢者人口が増加し、高齢者の社会参加が進む一方、高齢者を対象としたさまざまな商品・サービスにビジネスチャンスが生まれ、経済効果をもたらすことが期待されている。貯蓄広報中央委員会「貯蓄と消費に関する世論調査」によると、60歳代の貯蓄保有額は1世帯平均1,942万円、70歳代では1,842万円。これは、30歳代の608万円と比較すると約3倍以上の額にあたる。定年退職後、十分な「貯蓄」と「余暇」を手に入れた高齢者は、第2、第3の人生を有意義に楽しもうとする傾向にあり、消費意欲も旺盛なことから、いわゆるシルバービジネスの市場規模はさらに拡大していくものとして注目されている。
住信基礎研究所が昨年7月に行った調査によると、シルバービジネスに「すでに参入(もしくは検討)している」と回答した企業は33.4%で、上場企業の約3分の1の割合を占めた。参入分野別(複数回答)では、「福祉機器・介護用品の販売、レンタル」が44%と最も高く、次いで「福祉機器・介護用品の製造」「金融・保険商品」と続き、要介護者をターゲットとした介護・医療・健康分野に参入(検討)している企業が目立つ。来春から実施される介護保険制度の導入に伴い、これまで社会法人に限定されていた福祉介護業務が、民間企業に開放されるようになることも要因の一つだろう。

資料:住信基礎研究所

 ただし、同調査でシルバービジネスを展開していると答えた企業のうち、過去3カ年で売上高が増加したとする企業は58.8%と全体の約6割にのぼったものの、黒字に達したという企業は32.8%にとどまった。当面の取り組みとしては「新規の顧客を開拓」「既存の顧客に対して積極的にPR」などが上位に挙がり、多くの企業が顧客の獲得に力を入れていることがうかがえる。また、今後の展開における課題としては「利益が出にくい」「コストの引き下げが困難」といった採算面に関するものや、「シルバービジネスのノウハウが少ない」「高齢者のニーズがわかりにくい」などマーケティングに関するものが上位を占め、対応策としては「商品・サービスの高付加価値化」「商品・サービスの種類の拡大」および「病院、福祉施設、老人クラブ等との連携強化」などが多く挙げられた(図-3)。

資料:住信基礎研究所

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