1999 JULY
NO.285
KYOTO MEDIA STATION

特集
ベンチャー戦略の時代―新事業成功の条件

考えることを“習い事”に
京都府起業アドバイザー
株式会社サムコ インターナショナル研究所
代表取締役 辻 理 氏

初めにアイデアありき
新事業創出に関する環境はここで数年、資金面での援助、産学連携のラボラトリー導入、起業家の育成など、産官学が一体となってベンチャー企業化を後押ししようという動きが急速に高まってきた。このところ大企業のサラリーマンからスピンオフや、脱安定志向の大学院生などからも起業の相談が増えている。
しかし、具体的にどう事業化すればいいのかわからないというケースもまた目につく。まず大事なのは事業コンセプト、平たくいえばどんなアイデアを持っているかだ。私の経験でハイテクベンチャーを例にとれば、保有している技術力がどの程度のレベルにあり、そしてアイデアにどれだけ優位性があるかがポイントになる。だからアイデアについて、私はいつも「それは既存のものと比べて何が違うんですか、どう違うんですか」と聞いてくる。
それと同時に、技術についてはこれから情報と時間(スピード)が大きなファクターになってくるだろう。一つの技術を開発しても今日の情報社会では、明日にでも真似されかねない可能性があるからだ。次のアイデアなり開発テーマ、さらに次の次といった段階まで想定しておく必要があるのだろう。それもよそがやるから自分もやるというのは、たんなるお付き合いにすぎない。これをやるんだという明確な方向があってこそ戦略といえる。
よく市場やニーズの把握がいわれるが、アイデアがマーケットを創出することもある。インターネットがそのいい例で、ニーズがどのくらいあるかはかつて誰もわからなかった。つまり、マーケットがそこに存在しているということは必ずしも前提条件ではない。私が創業間もない頃、国内では取引先が見当たらず、納入第1号が米国シリコンバレーだったという製品もある。当初からいまでいうグローバルスタンダードに合わせてやらざるを得なかったわけで、それが結果的には企業体質の強化につながったのかもしれない。このように、京都に、国内に市場が存在しているかどうかはそれほど重要な問題ではない。

 
“反対されたら本物”
また、資金の支援にあたっては、事業の革新性が高すぎると逆に理解してもらえないという面がある。そういった意味で、京都市の「目利き委員会」は非常にユニークな存在だ。実際に事業に携わってこられた企業化の直感力とか判断基準というのは、何にもまして説得力がある。そこでは格付けをしてAランクには認定証を出す仕組みだが、結果はどうあれ、そうそうたる大先輩の委員から“がんばってや”と励ましの言葉がかけられる。これなどは無形の起業家育成システムだと思う。
この間、米国経済誌の記者から「日本にベンチャービジネスは根づくのか」と取材を受け、「米国よりスピードは遅いだろうが、その形態は米国とは必ずしも同じではない。いわば日本型とも呼ぶようなもので、とりわけ京都ではそれが可能だろう」と答えた。京都のベンチャー企業や既存企業の“第2の創業”は何でもやる総合型ではなくて、ニッチに特化してそこにすべてを投入しているのに特徴がある。特化しているからこそ、その分野で突出したレベルにあるのだといえるだろう。
確かにベンチャー創出をめぐる支援施策は整いつつある。必要最小限の支援はもちろんだが、半面、勉強部屋と参考書を与えさえすれば人材が育つかというとそうではない。先の革新性でいえば、それが高いほど足を引っ張られるということもある。私は社内で常々「足を引っ張られたり反対されたら、むしろそれは本物や」と言っているが、それでもやるんだという本人の強い意志が一番大切だと考えている。
独立であれ、社内ベンチャーであれ、休日でも道を歩いているときでも絶えずアイデアを追い求める、そしてそれが面白くてたまらない、それがもう一つの成功の条件だと思う。
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