1999 JULY
NO.285
KYOTO MEDIA STATION

特集
ベンチャー戦略の時代―新事業成功の条件

活力ある経済社会を再構築するという観点から、官民あげて新たな産業の担い手を育成しようという動きが高まっている。新市場を切り開くのは、いつの時代でもリスクを恐れない企業家精神によってであるが、起業はベンチャー企業だけのものではない。今日では既存企業をベンチャー企業に変身させる“第2の創業”にも大きな期待が寄せられている。成熟状況から成長ステージへ、それは経済の停滞感を打破することにもつながる。

●いまなぜベンチャーなのか
経済の成熟化は、多様な生活価値を求める生活者を輩出し、それに伴ってさまざまなニッチ市場を生み出している。現在、我々のまわりには環境保全や規制緩和の動きなど、これまでのやり方の延長線上では対応できない多種多様な問題があり、新たな発想によって解決を図ることが時代の要請となっている。こうした状況こそ、事業創造のまたとない機会であるともいえる。
しかし、企業は何もベンチャー企業の専売特許ではない。既存企業においてもすでにある経営資源を生かして有利に取り組めるし、それによって成長エネルギーを供給することもできるからだ。又、地域にとってもベンチャー企業による起業が行われ、他方で既存企業による“第2の創業”が活発化し、「新しい産業化の波」を起こすことで活力ある地域づくりの方向が見えてくる。
いまは第3次のベンチャーブームといわれているが、過去2回(1970年前後と82〜86年)のブームは高度経済成長期のなかでスタートし、製造業中心の産業構造からの転換とともに終わりを迎えた。しかし今回は、長期不況に突入した95年頃から始まり、通産・労働・自治・文部省などの各省庁が垣根を越えて制度、政策づくりに取り組むというベンチャービジネス育成ムードの盛り上がりを見せている。いまこそ起業が最も求められる時代といっても過言ではない。

年表 ベンチャー支援インフラの動き
1995年中小企業創造活動促進法
新規性の高い製品やサービスを提供する企業を認定して支援
店頭登録特則銘柄市場(第2店頭市場)の開設
研究開発型企業は赤字でも株式公開が可能に
経済団体によるベンチャー支援提言
経団連と経済同友会が「新産業と新事業の創出」に関する提言
大学での起業家育成教育とベンチャービジネス・ラボの設置
96年各都道府県で「ベンチャー財団」設立
97年ストックオプションの導入
役員や社員に自社株を購入する権利を与え人材の流動化を促進
未公開株売買の解禁
国立大学教員の兼職禁止規則の緩和
98年有限責任投資事業組合の制度化
知的所有権機関(TLO)の推進
大学の知的所有権を民間に移転
99年新事業創出促進法

●展開プロセスと経営資源
ベンチャービジネスの体質は、製品やサービスの独創性にあり、新規事業に挑戦するのだから当然そこにリスクも存在する。
そのリスクを少しでも軽減するために、ベンチャー企業による起業にしろ、既存企業による“第2の創業”にしろ、その展開プロセスで最も重要な要件となるのが事業コンセプトである。明確な事業コンセプトが創造できるかどうかが、事業の成否を左右するといわれている。一般に新事業のプロセスは、新しい事業機会を環境変化のなかからつかみ、そのビジネスチャンスをとらえた事業コンセプトの創造と事業計画の策定、それにもとづく経営資源の獲得、事業の展開という各フェーズから構成される。事業コンセプトには、対象とする「顧客層」「どのようなニーズ」を「いかなる手法」で満たすのかが明確に示されていることが必要になる。  一方、新事業を資源面からみると、いうまでもなく全くの創業である場合と既存企業が新規事業を行う場合とでは明らかに違いがある。起業する事業と既存事業の関連性の程度によって保有している資源の活用の度合いが異なってくるが、通常、既存企業が起業するケースのほうが有利であると考えられる。
その経営資源には、「技術力」「人材」「販売チャネル」「資金」などがあげられる。
技術力については、事業コンセプトにもとづいてどの程度の技術が求められるかを見極めたうえで、不足する技術については大学、工業試験場などの研究機関との連携を図ることによって資源ギャップを埋める必要も出てこよう。人材は、研修や訓練による育成と、他企業などからのリクルートという2つの方法がある。最近は新規事業に関するセミナーの開催が多くなっているので、能力を磨く機会も増えている。
販売チャネルについては、特徴を持った製品はむしろ販売先のほうでも探し求めているケースが多い。したがって製品と販売は表裏一体ともいえ、強い訴求力をもつ製品やサービスを提供していくことが重要になってくる。
資金の調達は、起業化にかかわる公的支援やベンチャーキャピタルなどによる資金供給システムが充実してきており、以前ほど大きな制約要因がなくなりつつある。つまり、有望な事業コンセプトが創造できれば資金を獲得する機会が増えてきている。


●ネットワークの活用も
新事業の場合は苦労して描いた事業のシナリオや開発した製品を、第三者の立場に立って冷静に評価することはなかなか困難だ。このような短所をカバーするための補完機能を担っているのが公共のベンチャー支援制度だが、資金予算、外部資金の調達方法などについて精度の高い資金計画は欠かせない。
当初の事業規模は小さくても、果たされなければならない経営機能は大企業のそれと変わるところはない。大きく相違するのは、その機能を大勢で分担してやるか、少人数でやるかである。
そこで、不足する経営資源のネットワーク戦略を積極的に展開することで資源の結合を図る道もある。ベンチャー成功のカギは、他人のもっているノウハウ・情報をいかに利用するかも大切な要素となってこよう。

「京都府のベンチャー企業支援施策」
URL http://www.pref.kyoto.jp/sangyo/SOHO/venture.htm
中小企業創造活動促進法に基づく融資・投資・助成等を通じた支援など、中小企業の創造的事業活動に対する支援策を紹介している
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