1998 OCTOBER
NO.276
KYOTO MEDIA STATION
特集
京都の産業経済と情報化
京都学園大学 経済学部 学部長 教授
(財)京都産業情報センター 理事

波多野 進


◎京都産業情報センター20周年

 京都産業情報センターが創設されて20周年を迎える。そんなに時がたったのかと驚く。
 われわれが最初に京都の情報化を考えたときに何が念頭にあったのかというと、記憶に間違いがなければ、それはこれから情報化が産業振興・合理化・効率化の大きな柱になると予想されるときにあたって、京都の産業がそれに後れをとることのないようにしたいという意識であったかと思う。したがって、そのためには、京都で情報化を担う産業を育成すること、京都の中小企業が情報化していくときにその支援をする必要があるということである。具体的には、データベース構築・利用と産業現場でのコンピュータ利用の促進という2点をさしあたりの課題とした。
 京都産業情報センターは、全国に先駆けて設立され、この間、すべてが期待どおりに進んだわけでもないけれども、行政が中心になって運営される機関としては、いい仕事をしてきたと思う。
 それは、たとえば、その後のソフトウエア開発を担う「京都高度技術研究所」や、ベンチャー・インキュベータである「VIL」、また異業種交流や小売商業支援センターなどの事業の数々をみても分かる。新しい産業政策にかかわる事業をこの情報センターに集約し、相乗効果をねらうということも当初から想定していた動きであった。  こうしたことの結果、京都産業情報センターが全国モデルとして注目され続けてきたが、それは、その活動を支えてきた幾人かの人々のすぐれたイマジネーションによって可能になったことである。
 このように、京都産業情報センターは概括的にいってこれまで優れた活動の実績を残してきた。ただ、京都の中で中小企業の情報化をアシストするための情報産業の活動を振興するということについては、評価は控えめにならざるを得ないだろう。
 先にあげたVIL、高度技術研究所、さらに京都リサーチパーク、またいくつかの半導体、電子機器、ゲームソフト産業など、ユニークな企業の急成長をみた以外に、京都産業全体として目立った変化はない。情報関連企業群の急成長も、京都を情報産業の一大集積地とするほどの凝集力を発揮するというよりも、京都の産業集積と無関係に実現した感が否めない。むしろ、20年前に比べて情報産業の地域格差はなお拡大していると考える方が実態に合っているだろう。

◎京都産業の情報化推進のこれから

 さて、これから京都産業情報センターはどのような方向をたどるべきか。よく、初心に返れというが、20年前にくらべ、京都の今日の情報化環境は大きく変化している。変化した状況の中で新しく考え直した方がいいことも多いと思う。
 大きく変化した点は、まずネットワーク環境である。当初、情報センターのテーマとして想定した2つの課題がネットワーク環境の発展のため様変わりした。コンピュータネットワークの発達、特にインターネット利用によって、最新の統計や技術情報など一般に公開される各種のデータに低コストでアクセスすることが可能になりつつある。京都での本格的な統計情報利用促進という意味ではまだ課題が残っているが、一般的な意味では状況は大きく変化したといってよい。
 また、コンピュータ利用の促進については、ネットワーク環境の整備のもう1つの面でもあるが、パソコンの普及によって、事情は大きく変化した。他の地域との相対的比較では問題が残るが、裾野は広がったのである。
 第3に、京都の特性を生かしたコンピュータ利用やデータベース整備という点では、当初、製造業中心に考えていたものから変化して、最近のデジタル・アーカイブや商店街のデビットカード利用システムなど、大きく領域を広げてきている。
 こうしたことの背景として、日本の産業、特に都市産業のあり方が20年前とは異なってきたということが指摘される。さらに敷衍すれば、狭い意味での産業インフラというよりも、都市集積そのもの、文化や教育や社会制度が都市の産業のベースとしての意味を拡大しているという今日の状況において、「産業」情報センターという枠を超えていく必要が出てきているのではないだろうか。 以下ではそのような問題意識の下に、企業の情報化、地域の情報化、自治体の情報化について考えていく。



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