1998 FEBRUARY
NO.268
KYOTO MEDIA STATION
特集
経営戦略としてのアウトソーシング
―業務委託からネットワークの形成へ―


■ネットワーク化と連動して
今日、情報技術・機器が企業経営に大きなインパクトを与えていることは、改めていうまでもない。情報ネットワーク技術は、オフィスの生産性を高めると同時に、市場や顧客に関する膨大なデータのなかから特徴的な傾向を浮き彫りにしたり、意思決定支援など経営戦略に欠かせないツールを提供している。しかも、これら情報システムの進化が米国でアウトソーシングを促進させたように、その積極的な活用が、競争力に直結する重要なテーマとなってきている。
ところが、日本の企業の場合、情報システム部門を社内の組織に抱えたり、分社化して親子の企業関係にあることが多いため、情報システムの費用対効果については経営者側が厳しい目で査定できない側面を持っている。加えて、技術自体の進展がめざましいうえ、ネットワーク化されたシステムに対して効果を切り出すのは至難のワザに近い。こうした問題を解決する一つの方法が、第三者の専門家(企業)に委ねるアウトソーシングである。
“アウトソーシングの本場”米国の情報技術アウトソーシングの市場規模は、96年で約220億ドル(約2.8兆円)、96年〜2001年の年間平均成長率は20%という高い予測データがある(『情報化白書』97年)。米国市場でこのように成長が期待される理由は、スリムな経営体制と低コストで収益の向上を第一義とする企業風土と、アウトソーシングによる経営効果が大きいとの共通認識があるからだという。日米の企業風土の違いはあるとはいえ、いまは輸出企業はもちろん内需型の産業にしても、グローバルな競争市場にさらされる時代だけに、経営戦略が相互に影響を与えていくことは十分予想されよう。
現在の日本の「アウトソーシング業界」を本業別に分類すると、
△人材派遣系(人材派遣、業務の代行など)
△メーカー系(情報機器とシステムサービス)
△情報・通信サービス系(通信ネットワークをベースに応用をサポート)
△シンクタンク、コンサルティング系(経営システムの構築など)
 などが挙げられているが、すでにそれぞれの業務内容はオーバーラップしている。
そして、いま起こりつつあるアウトソーシングの波に共通するのは、コスト削減だけを求めるのではなく、専門性やノウハウの提供を積極的に求めている点だ。そこには、大企業と下請企業群に代表されるクローズドなタテ型(垂直統合)から、オープン化したヨコ型(複数企業の連携)へ、産業社会のネットワーク化へという流れが読みとれる。

情報システム部門への アウトソーシング導入のメリット
・情報システム部門への投資をコストとして明確に管理できる
 (費用対効果が計測できる)
・高い専門性と経験を利用できる
・新技術に柔軟に対応できる
・情報システム部門向けの教育コストを抑えることができる


■アウトソーシングの進化する方向
最近の経営上のキーワードは「変化」と「スピード」といわれる。高度化、複雑化する技術の変化に伴い、開発のスピードアップが求められている。技術進歩が速いハイテク製品などはめまぐるしくモデルチェンジを繰り返しており、商品寿命が短くなっているからだ。
研究開発から生産、販売、人材育成に至るまで、すべて“自前主義”でやろうとすれば、経営資源が分散し、強みが発揮できない。大企業ではOS(基本ソフト)の開発もハードの組み立ても、同じ人員管理体制や組織形態の下に置かれて、新しい動きに適応しにくいという面も目につくようになってきた。そこで広くアウトソーシングを進め、人材も外部から出入り自由とするようなオープンな状態にならなければ企業の存立が危うい――とする説も一部で唱えられている。
「バーチャル・コーポレーション」――直訳すれば「仮想企業体」。複数の企業が共同して一つの事業を進めることをいう。自社の競争力があるコア技術はしっかり保持し、それ以外の仕事については優れた企業が外部にあれば、そちらに任せて手を結ぶ。これは“系列”と似ているように見えるが、バーチャル化は参加企業の独立性が強く、協業という概念の方があてはまる。国境がボーダーレス化していく傾向が強まっているのと同様に、企業の垣根を低くし、変化に素早く対応するためにネットワーク化された企業の集合体ともいえる。
通産省の後押しで自動車、電力、造船、鉄鋼、建設などの業界ごとに取り組んでいるCALS(生産・調達・運用支援統合情報システム)も、その意味ではヨコ型のオープンシステムの思想に近い。たとえば、自動車各社は部品メーカー、整備業者、情報システムメーカーなどと共同で、新車の開発・設計や部品調達に関するデータの交換仕様を標準化し、参加各社がオンラインでやり取りできる方式を開発、2000年以降には販売やアフターサービスまでを含めた総コストを削減するシステムの実用化をめざしている。さらに電機や精密機械、航空機なども自動車と設計面で共通点が多いことから、将来は他業界と横断的な研究開発コンソーシアムに発展させることも検討しているという。

■パートナーシップの形成を目指して
数年前までは、アウトソーシングといえば後方支援機能と見なされていたが、現在ではBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)、ビジネスプロセス全体を見て経営を変革しようという流れの一環として、アウトソーシングが注目を集め始めている。導入の目的が「効率化」から「付加価値向上」、つまり双方にとってメリットがある補完関係へと変わりつつあるともいえる。
アウトソーシングを考える場合、「社内でやるか、外部に出すか」を判断する前提として、自社の強みと弱みをきちんと把握し、同じ経営資源を投じたとしてどちらがより多くの成果を生み出すかを見きわめることが必要になる。そして、何のために委託するのか、その目的と到達目標を明確にしておくことが大切だろう。
技術開発を例にとると、ユーザー側にはっきりしたコンセプトがなく、「大体こんなものをつくってほしい」とあいまいな委託をした場合、アウトソーサーは少ない情報のなかからあれこれ形にしようと試みる。そうして試行錯誤を繰り返すうちに、お互いにイメージや見解の相違なども発生しやすくなりがちだ。スピーディーで無駄のないコストパフォーマンスを実現するためにも、委託すべき内容を社内でよく検討し、具体的な青写真を描いておきたい。
アウトソーシングは、仕事を発注する元請け、仕事をいただく下請け、というような“上下関係”ではない。同じ一つの仕事を進める一種の運命共同体でもあり、アウトソーシングをうまく活用する第一条件として、委託先と同じ土俵に立つ対等なパートナーシップが求められてくるだろう。



INFORMATION
公的機関や専門業者に経営上の問題を相談し、外部資源として活用していくこともまた、アウトソーシングの一つの形です。
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