1997 NOVEMBER
NO.265
KYOTO MEDIA STATION
特集
地球温暖化防止京都会議
「環境経営」の時代へ

地球温暖化防止京都会議(気候変動枠組み条約第3回締約国会議)が12月1日〜10日、国立京都国際会館で開かれる。会議では、各国の二酸化炭素(CO2)などの排出削減目標や政策措置など、地球温暖化防止に関する取り決めが予定されている。産業界はCO2削減へ具体的な課題を背負うことになり、環境保全と経済成長の両立を図る「持続可能な開発」の発想が求められてくるだろう。

■地球温暖化問題とは
各国政府にとって、これほど大きな難題はこれまで直面したことはなかっただろう。地球温暖化問題は、人類に与える影響の広さ、深刻さという点では、環境問題のなかでも最も緊急な取り組みを要する分野といわれている。
石油・石炭などの化石燃料を燃やすとCO2などのガスが発生する。これら「温室効果ガス」は、太陽熱を受けて地表から出た熱の一部を吸収して再び地表に放射し、地球の気温を一定に保ってきた。ところが18世紀後半の産業革命以降、排出される温室効果ガスの量が急激に増大。森林や海の作用によっても吸収しきれなくなり、地球全体の気温はこの100年間で0.5度上昇した。
世界の科学者が集まるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告によれば、各国の対策が現在のままだと2100年までに地球の平均気温は現在より2度、海面は50cm上昇するだろうという。これにより、異常気象の頻発や生態系の変化、沿岸低地の水没など地球環境への深刻な影響が指摘され、日本でも砂浜の70%が消失したり、病害虫が増殖したりすることなどが予測されている。このため、92年6月にリオデジャネイロで開かれた地球サミット(国連環境開発会議)で「気候変動枠組み条約」が結ばれ、地球温暖化に対する取り組みが本格的にスタートした。
しかし、各国の取り組みにもかかわらず、依然、大気中のCO2濃度は増加傾向にある。今日の文明を支えるエネルギー消費の副産物である温室効果ガスの削減は、経済の運営や生活に直接影響するため、排出規制に対しての抵抗が強いからだ。先進国の温室効果ガス排出量を2000年までに90年と同じレベルに抑えるという、同条約の当初の公約を達成できるのはEUの一部の国にとどまり、大抵の国は10%以上増えてしまう見通しだという。

96年のCO2排出 過去最多
WEC(世界エネルギー会議)が今年8月まとめた速報値によると、96年の世界のCO2排出量は65億1,300万tと90年以降で最も多く、前年比でも2.7%増と最大の伸び率を記録した。
先進国全体の90〜96年の伸び率は7.8%。先進国が2000年までに排出量を90年レベルに抑えるとする気候変動枠組み条約の公約実現の難しさを改めて示した。EUでも96年の排出が90年レベル以下だったのは、ドイツ、フランス、英国、オーストリアの4カ国だけ。一方、アジア・太平洋地域の発展途上国からの排出は90年に比べ37%も増加、世界全体の5分の1を上回るまでになっている。


■京都会議の意義
地球温暖化防止京都会議は、気候変動枠組み条約に基づいて開かれた95年のベルリン、96年のジュネーブに続く第3回目の締約国会議である。締約国数は166カ国・1地域(EU)にのぼり、それぞれの代表やNGOの代表ら約5,000名が参加。日本国内で開催される国際会議では最大規模のものであり、その内容においても文明史上に1つの転機をもたらすものといわれている。それは、先進国が2010年までに温室効果ガス排出量を90年レベルよりも削減するための具体的な数値目標について、「京都議定書」として法的拘束力のある形で取り決めることになっているからだ。
各国の意見は、国情を反映して様々に分かれ、それぞれに相当の隔たりがある。たとえば、EU案は2010年までに90年比15%削減(EU域内では国別に差異がある)、米国案は90年比一定割合の削減、ただし具体的割合はいわず、他国の削減量を購入できる排出権取引や、途上国との共同実施を求めている。一方、途上国側は合意と引き換えに資金・技術援助を引き出そうとし、三者の意見が火花を散らしている。さらに、地球温暖化は先進国によってもたらされてきたものの、将来においては途上国の排出量が上回るとの予測から、米国議会は「途上国にも削減義務を課さない議定書は批准しない」と反発。地球は1つだが、南北間を含め世界は必ずしも1つではない国際社会の複雑な構図をのぞかせている。
 こうしたなか、議長国である日本はこのほど削減目標について、(1)先進国は2008〜2012年の年平均排出量を90年比で原則5%削減(2)各国の事情を考慮し国ごとに目標を設定する――などを骨子とした案を発表した。国ごとの削減率は、GDP当たりの排出量、人口1人当たりの排出量、人口増加率の3項目のうち1つを選んで緩和できる「差異化」を盛り込んでいる。外務省の試算によると、対象の温室効果ガスをCO2に絞った場合、削減率は日本が2.5%のほか、米国2.6%、EU3.1%、先進国全体では3.2%になるという。
京都会議では、この困難な問題に対処する各国の指導者たちの“決意”が試される。日本は議長国としてのリーダーシップとともに、国際協力の重要性を訴える責任がある。それは決して容易ではないが、将来成し遂げていかなければならない変革への第一歩を踏み出すうえで、その意義はきわめて大きい。



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