1997 SEPTEMBER
NO.263
KYOTO MEDIA STATION
特集
京都活性化のカギ握る 京都駅ビル全面開業
“観光振興元年”、点から線・面へ
京都市内2番目の客室数をもつホテルグランヴィア京都の開業も、既存ホテルには“脅威”だ。駅ビル周辺では今春から平成10年にかけてグランヴィアを含め3カ所(計約1,300室)がオープン。既存の9カ所を合わせると総客室数は約4,000室、一気にこれまでの1.5倍にふくれ上がった。
その一方で、京都は観光都市としての転機を迎えている。ここ10年間の観光入り込み客数の増減をみると、平安建都1200年(平成6年)で一時盛り返したものの低迷が続いている。修学旅行生も少子化に加え、公立高校で航空機利用が解禁された結果、訪問地の多様化が一層進み、平成7年、京都を訪れた修学旅行生は101万人とピーク時の約3分の2に落ち込んだ。特に京都駅から離れた街中にある旅館の経営環境は厳しい。
このため、桝本 兼京都市長は「このままでは京都は歴史の大きな波の中に沈んでしまう。いまこそイノベーションに真剣に取り組む必要がある」と危機感を募らせ、年頭の会見で「今年を観光振興元年にしよう」と呼びかけた。
東京を訪れる修学旅行生は必ずといっていいほど東京ディズニーランドに立ち寄る。かつてのような「歴史学習」一辺倒では、いまの生徒は納得しない。今日、京都に泊まっても大阪の海遊館や神戸に足を伸ばすのが当たり前という。それだけに「シアター1200」は、人気タレントを擁する大手プロダクションが持ち回りで公演するということで、若者を引きつける新しい観光拠点としての期待は大きい。
また、京都府観光連盟では全面開業を機に新駅ビル9階に観光情報センターを開設。府内の観光地、イベントなどの情報・相談コーナーのほか、誰でもパソコンを使って気軽に観光情報を入手することができる。「京都駅が観光を含めあらゆる情報の受発信基地になるのでは」と同連盟の瀬 光義事務局長。昨年、京都市以外の府域の観光入り込み客数は過去最高を記録しており、「府内に点在する観光資源を点から線・面へと、自治体の境界線を超えて広域観光のルート開発を大いに進めるべきだ」という。

まちづくりの出発点
7月に駅舎部分が開業してから1カ月間の利用状況は、近距離乗車券(100km未満)でみると前年同期間比で10.9%増と順調に伸びている。全国高校総体京都大会に合わせてのオープンが功を奏したともいえるが、駅舎の見物客など“駅ビル効果”が底支えしていることは確かだ。
JR西日本ではさらに輸送力をアップさせるため、9月1日からダイヤ改正を実施した。昼間の京都〜高槻間の普通電車はこれまで1時間に4本しかなかったが、大阪方面〜高槻間で折り返していた電車を京都まで延長して1時間あたり8本に倍増。このほか奈良線でも宇治折り返しを城陽まで延長、嵯峨野線では園部発京都行きの快速電車を増発したり、京都発の電車を尼崎で宝塚線に乗り入れ、乗り換えなしで新三田への直行便も登場した。
景観論争も巻き起こした新京都駅ビル。とかくハード面ばかりが問題にされてきたが、内部は開放感のある空間をふんだんに取り込み、南北の行き来も便利になった。「まち」として人の流れをどうつくっていくか、ソフト面の充実がこれからの課題だ。京都駅ビル開発(株)は「今後、いろんなイベントを企画、市民に参加してもらい、にぎわいのある場に育てていきたい。その意味で駅ビルのグランドオープンは終わりではなく出発点」(営業部)という。
オープンイベントに続いて、全国の和装関係者が一堂に集う「きものサミット'97京都」(10月4・5日)の期間中、「シアター1200」などを会場に着物ショーや大茶会を開催。11月にはホテルグランヴィア京都で、観光文明学で知られる石森秀三 国立民族学博物館教授らを招いてシンポジウム「21世紀の京都観光を考える」が開かれる。

相乗効果どう生かす
京都駅の南北を貫く自由通路が開通したとはいえ、駅に集まる客を面的に広げていくには南北の駅前広場の整備も不可欠になる。北側は具体化しつつあるが、南側の八条口はいまだ構想の域を出ていない。八条口の再開発は将来の新都心「高度集積地区」(伏見区)への呼び水でもあり、京都経済界は「新京都駅の開業を契機に、高度集積地区から関西文化学術研究都市に至る南部地域の開発に弾みがつけば…」(京都商工会議所産業部)と期待を込める。
そして新駅ビルのにぎわいを地域全体にどう広げていくか。京都市内では6月に地下鉄烏丸線の延伸(北山〜国際会館間)、10月には東西線(醍醐〜二条間、12.7km)が開業し、南北、東西の地下鉄の大動脈が完成する。併せて二条駅前周辺では複合型映画館やアミューズメント施設の計画が進行中で、東映太秦映画村は今春、アニメ映像技術を駆使した屋内娯楽施設をオープンした。商業地域も従来の四条通を中心にした一極集中ではなく、多様性のある街へ変貌を遂げるきっかけとなる。だが、既存の百貨店が個性的な店づくりを進めなければ、パイの奪い合いに陥り、地域経済のレベルアップにはつながらない。
新駅ビルが誕生しただけでは、京都観光は復調しない。それが新世紀をにらんだまちづくりの起爆剤になるかどうかは、むしろ既存の商業・娯楽施設がそれぞれ独自性を発揮しながら“駅ビル効果”をどう生かすかにかかっている。




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