1997 SEPTEMBER
NO.263
KYOTO MEDIA STATION
特集
京都活性化のカギ握る京都駅ビル全面開業
歴史都市・京都の新しい顔、京都駅ビルが9月11日、全面開業した。百貨店やホテル、劇場などを備え、強力な集客力をもつ巨大施設の誕生は、地域にどんなインパクトをもたらし、京都の活性化にどうつながっていくのだろうか――。

21世紀へ多彩な機能を併設
4代目となる新しい京都駅ビルは、平安建都1200年記念事業の目玉として、京都府、京都市、京都商工会議所、JR西日本の四者が国際文化観光都市・京都の玄関口にふさわしい機能を持った新しい都市拠点にと取り組んできたプロジェクト。平成5年12月に着工、総事業費1,500億円をかけて建設を進めてきた。この投資額は京都市内に本社を置く企業の年間の設備投資額にほぼ匹敵するという。
地上16階、地下3階建てで、高さ59.8m、東西の長さ470m、南北の幅は最大で80m。延べ床面積23万8,000m2 はJRの駅としては国内最大規模を誇り、ステーション機能をはじめコミュニティー広場、コンベンション・ホテル、ショッピング、劇場、駐車場など「まち」としての多彩な機能を併せ持つ。
設計は原広司 東京大学名誉教授。外国人建築家3人を含む7人による設計コンペで同氏の作品が採用された。コンセプトは「門」。京都を日本の文化・歴史への門ととらえ、新しい駅ビルにその思いを託したという。

[広場・通路]
全面ガラス貼りでビッグスケールの吹き抜けが広がる中央コンコースの地上45mには、東西に渡り歩ける「空中径路」があり、百貨店やホテルと直結する通路にもなっている。駅の南北を結ぶのは全長240mの「南北自由通路」で、駅のメインストリートでもある。
西側の幅26m、171段の「大階段」の上に広がる「大空広場」、東側にはさまざまなイベントが催される「東広場」。ほかに「室町小路広場」「烏丸小路広場」などが設けられ、交通網の拠点だけでなく、人々が集うコミュニティー空間ともなっている。

[商業施設]
伊勢丹として西日本初出店となる「ジェイアール京都伊勢丹」(地下2階〜地上11階)は店舗面積3万2,000m2。“ファッションの伊勢丹”を前面に打ち出すとともに、西陣織工業組合と共同で開発したオリジナル商品や、青果卸会社とタイアップした生鮮食品など、地場産業との取り組みを通じて京都浸透を図っている。
京都駅観光デパートの専門店街「ザ・キューブ」(68店舗)は、京みやげ販売の歴史を継承しつつ、新たにファッションゾーンを取り入れた。京の和菓子・工芸品の「おみやげ小路」(地下1階〜1階)、「ファッションストリート」(地下2階)、展望自慢の「レストラン街」(11階)の3つで構成されている。

[コンベンション・ホテル]
「ホテルグランヴィア京都」の客室数は京都市内2番目の539室。フィットネス施設に室内プールもある。大小12の宴会場を備え、特にメインの大宴会場は市内最大級の1,400人収容。同時通訳の設備もあり、国際的なコンベンションにも対応できる。

[エンターテイメント]
駅ビルの中に文化施設として劇場やミュージアムを設置したのは全国で初めて。「シアター1200」は4階層吹き抜けの劇場(座席数925)で、年間を通じてジャニーズ事務所、吉本興業、ホリプロなどの協力を得て公演が行われる。8月のこけら落とし特別公演は人気アイドルの出演で「満席状態」だった。
また、京都の歴史や歳時記を最新映像技術で体感できるミュージアムシアター「ラテルナマジカ」や、天井いっぱいに広がるドーム型スクリーンを用い、映像・光・音を楽しみながら飲食できるカフェ&バーの「ドームシアター」もあり、若者向けの新しいスポットとして注目を集めている。

[公共施設]
新駅ビルには府民や観光客に便宜を図るための公共施設も設置されている。国際交流を進める(財)京都府国際センター(9階)では図書、ビデオ、パソコンを備えた情報提供コーナーや交流サロン、国際ボランティアルームなどを設け、府旅券事務所は8階に移転。(社)京都府観光連盟の観光情報センター(9階)、京都授産振興センターの福祉ショップ「ハートプラザKYOTO」(同)も設けられたほか、駅前にあった京都市観光案内所は南北自由通路のある2階に移転した。

[駐車場]
京都駅前の京都中央郵便局西側の別棟と駅ビル本棟の立体駐車場や地下駐車場を合わせて計1,250台の駐車が可能になった。こうした大規模な駐車スペースを駅ビルに設置したのは全国でも例がない。

メモ
初代の京都駅が誕生したのは120年前の明治10年。赤レンガ造り洋風2階建ての洒落た駅舎が文明開化のシンボルに。大正3年には2代目の駅舎が完成し、ルネサンス様式の外観と豪華な内部が話題を呼んだ。戦災は免れたが昭和25年に火災で全焼、同27年に3代目の駅舎が完成した。以降、東海道新幹線の開通(昭和39年)、国鉄民営化によるJRの発足(同62年)、関西国際空港の開港に伴う「はるか」の運行など数多くの歴史を刻んできた。
 現在、京都駅にはJR東海道線、山陰線、湖西線、奈良線のほか、東海道新幹線、私鉄の近鉄京都線、市営地下鉄が乗り入れ、1日の利用客は60万人を超える。


広がる商圏、百貨店勢力図は?

京都における大規模な集客施設は、昭和41年の国際会館、同50年の東映太秦映画村の開設以来のことである。新駅ビルを運営する第3セクターの京都駅ビル開発(株)では「商業施設だけで年間3,000万人の利用が見込める」と試算。稲盛和夫 京都商工会議所会頭も「京都が地域間競争で優位性を保つために今、新規ニーズや雇用を創出する可能性を秘めた集客・観光産業の見直しが求められている。京都駅が新たなゲートウエーとして京都再生に果たす役割は大きい」と期待を寄せる。
なかでも一番の話題はジェイアール京都伊勢丹の出店。これまで京都の百貨店といえば、大丸、高島屋、阪急、藤井大丸の4百貨店が集まる四条通と相場が決まっていた。ところが、伊勢丹出店の先手を打って既存の百貨店はここ数年で売り場の増床やリニューアルを進めたものの、消費税改正などの影響もあって売り上げは伸び悩んでいるのが実情だ。ジェイアール京都伊勢丹は商圏を京都市内をはじめ京都府南部、亀岡市、滋賀県、大阪府北部など広範囲に設定。大阪に流出していた大津、草津方面の客を京都で止め、商圏人口の底上げを図るというプラス効果の半面、百貨店業界では京都駅周辺地区と四条通地区の競合が予想されている。
京都地区の百貨店の売上高は昨年度約3,100億円。伊勢丹の初年度目標はその1割強の320億円。伊勢丹が30歳代までのヤングキャリア層をターゲットにしているのに対し、既存の大丸、高島屋はミドル層をがっちりつかんでいる。百貨店は店頭売りのほか外商も売り上げの柱だが、大丸と高島屋が二分しているうえ、京都はもともと地元志向が強い土地柄だ。したがって、伊勢丹の320億円という見込み額は「そのへんを勘案して低めに抑えた」との見方もある。
京都駅周辺では地下街の「ポルタ」、駅の北側には京都近鉄百貨店、南側には専門店ビル「アバンティ」があり、伊勢丹オープンで集客力が飛躍的に向上するのは間違いない。さらに、伊勢丹と前後してJR沿線に草津近鉄がオープン、大丸も京都駅の隣、山科駅前に山科大丸の出店(平成10年10月)を予定しており、滋賀県を含めた広域商圏での百貨店競争は一段と激化しそうだ。
「四条界わいと京都駅周辺の二極化にはまだそれなりの時間がかかるだろうが、競合意識が芽生えることが地域経済の活性化をもたらすのではないか」というのが京都商工会議所産業部の見方だ。「結果として価格・設備・サービスの各面で向上が図られれば、京都全体の魅力アップにつながる」。

京都地区百貨店の概要
店舗面積(m2)年商(億円)
四条地区大丸46,500(33,300)1,069
高島屋46,050(30,200)1,311
阪急8,900127
藤井大丸15,00086
京都駅京都近鉄38,700(27,600)477
伊勢丹32,000320
京都近郊山科大丸10,500(予定) 70(予定)
草津近鉄23,000120(見込み)
             





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