Vol.5

11 Feb 1997


担当医変更のススメ



の医者とは合わない...」と思っているアナタ、何も我慢や辛抱する必要はありません。IDDMに対する考え方や治療方針が合わない場合は、主治医も、そして病院も、迷わずどんどん変えてしまいましょう。


例えば、現在主流となっているIDDMの治療法は、N(中間型)をベースに、R(速効型)を毎食前に打つ「強化療法」が基本です。これは、食事をして血糖値が上がるとそれに合わせて適切な量のインシュリンが分泌されるようになっている健常者の分泌パターンを模倣したもので、この方法を用いることによってIDDMの人は網膜症の発症を遅らせたりあるいはその進行を食い止めるなど、合併症の発現をできる限り遅らせ進行を抑制することができます。ただし、この強化療法については、DCCTに関するトップセミナーの講演でもあったように、2才以下の幼児に適用してはならない、2才〜7才の間はより慎重に行わなければならない、思春期以前はそれほど厳格なコントロールが必要ない(であろう)ことなどが判っていますので、それらの点には十分留意しなくてはなりません。

さて、このように現在では「IDDMの治療法」はほぼ「強化療法」とイコールになっている訳ですが、中にはこうしたIDDMの基本的な治療方法を十分理解していない医師もおられるようです。例えば、Nを1回、Rを3回打った方がコントロールが良くなる筈なのに、「Nの2回打ちでいい」と指導しているケースがあると聞きます。その医師にしてみれば「1日4回注射を打つのを面倒がってコントロールが乱れるよりも、1日2回でそこそこのコントロールが達成できればいい」と考えてのことかも知れません。いや、それならばまだ救いがある。ひょっとしたらその医師は強化療法の存在それ自体を知らないかも知れないのです。当然ですが、こんな治療方法を実行すればコントロールはてきめんに悪くなります。そしてもしそのために合併症の発現が早まったりしたら、合併症が今よりも進行したとしたら、一体誰が責任を取ってくれるのでしょう?その医師ですか?それとも病院?

仮にどちらかがその責任を取ってくれたとしても、一度悪くなったあなたの身体まで元には戻ってくれません。しかし、です。もしあなたが、「強化療法の方が良いコントロールを達成できる」ことを知っていながら、医師から指導された従来療法を実行したために症状が悪化したとしたら、それはもはや医者や病院の責任ではありません。不信を感じていたにも拘わらず、その医者を、その病院を変えようとしなかったあなた自身の責任です。

「先生に悪いと思ったから...」?「もう長い付き合いだから...」? 大いに結構。それでは訊きますが、あなたの身体や健康は「他人に対する義理立てごときよりも軽い」ものですか?そんなことのために犠牲にしてもいいような、安っぽい粗末なものですか?

違いますよね。

あなたの身体はあなたがこれからの人生を生きていくために、この上なく大事でかけがえの無いものの筈です。いや、「あなたにとって世界そのもの」としてもいい。その大切な身体を、他人への浅薄な気遣いのために損なうなんて全くもって馬鹿げています。

変えましょう、迷わずに。あなたがIDDMのことについて十分に勉強していて、その知識を医者に話してもまともに取り合ってもらえないのなら、躊躇することなくその医師や病院を変えましょう。あなたの身体を守るのは医師の仕事ではありません。医師はそのためのお手伝いやアドバイスをしてくれる存在に過ぎない。あなたの身体を守るのはあなた自身の仕事です。後になって「ああ、あの時主治医を変えておけばよかった...」などと泣くなんてことがないように、あなたの生き方に合った医師や病院をしっかり選ぶようにして下さい。それは、誰かの機嫌を悪くしたり、何年もの関係が切れることを意味するかも知れません。しかし、あなたの身体はそれよりももっともっと大事にしなくてはいけないものなのです。そのことだけは絶対に忘れないで下さい。

尤も、今どき強化療法を知らない医師なんてそうはいないでしょうから、治療方針などの大袈裟なものではなくて、単に「性格が合わない」とか「趣味にそぐわない(笑)」などの理由で担当医を変えることがあっても全然構わないと思います。「これから嫌いな人間と顔を合わせるのか...(- -;)」と思うと、それだけでストレスになって血糖値が上がりますから(笑)、それも担当医変更の立派な理由です。その辺は皆さんのお好きにどうぞ :-)。

ただし、勘違いして欲しくないのですが、病状が悪化したときにそれを正確に知らせてくれる医師を避けるようなことだけは絶対に止めて下さい。事実を真っ直ぐにそのままあなたに伝えてくれる医師は、あなたにとって「良い医師」なのです。「良薬口に苦し」の格言にもある通り、自分のためになることは必ずしも快適なことや楽しいことばかりではありません。目的を実現させるには、嫌なこと苦しいことを敢えて選び取る強さも必要です。

また、単なる噂や怪し気な民間療法など、不正確な知識を元にして判断するのも止めましょう。医師を変えるほどの「ゴーマンをかます」(小林よしのり)ためには、その医師の考え方を完膚なきまでに論破するくらいの覚悟と準備は必要です。あくまで、「さかえ」や専門書・医学論文などでIDDMに関する正確な知識を徹底的に勉強してからにして下さいね。

もしあなたが今の担当医や病院に不満を感じるのなら、自分自身の弱さから逃げるためではなく、より充実した人生を生きるためにこそ、積極的に医師を変え病院を選んでいくことを強くお奨めします。


文責:能勢 謙介 



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