◆京都インターネット利用研究会2月例会報告


開催日時 : 平成15年2月13日(木) 14:00〜16:30
開催場所 : 京都リサーチパーク1号館ROOM1
第一部 社内情報化とインターネットの活用による経営革新
 講師:山本精工(株) 代表取締役副社長  山本 昌作氏
第二部   超多品種を支えるIT戦略と物流革新
 講師:サンコーインダストリー(株)代表取締役社長 奥山 泰弘氏


第一部 ハイテク犯罪の現状と対策について

知的労働とルーティンワークを区別
  これまで私たちの業界では、人がやるべき仕事と機械がやるべき仕事がごちゃ混ぜになっていました。
  一般的なものづくりのプロセスとして、まず最初にどんな機械や治具が必要かを検討してデザインを決める
 「デザイニング」、その結果をもとに必要なデータを入力する「プログラミング」、そして実際にものを加工する
 作業へと移るわけですが、最後の加工作業はわざわざ人間の手を借りなくても、機械でもできることだろうと
 思います。

  ルーティンワークをやめて、人間らしい仕事をしよう−。私たちの「HILLTOP(ヒルトップ)」システムはこうした
 信念から生まれたものです。
  当社では20年以上前から、量産物の取り扱いを中止し、少ロット物中心に切り替えました。なぜかというと、
 量産物は知的な作業部分がわずかで、そのほとんどがルーティン作業だからです。
  スキルや知識というものは、知的な作業を繰り返すことによって向上していくもの。単純なルーティンワーク
 からは何も生まれません。ところが、これまでに加工した環境をデータに記録していなかったため、リピートの
 注文があったとき、以前の仕事の記憶をたどる雑務に追われて、クリエイティブな作業が全然できなかったの
 です。

  例えば、あるプログラムをいつもお願いしているAさんが休めば、ほかのプログラマーはAさんの仕事のことが
 まったく分からない。Aさんが持っているノウハウはAさんだけのものだったのです。そうではなく、1度受注が
 あった仕事は、いつでもだれでもそのデータを使える環境づくり(企業内情報の共有化)が必要だと考えました。

ノウハウを標準化してだれもが使える環境づくり
  その手本となったのが、マクドナルドの戦略です。新入りのアルバイト社員でさえ、決まったようにおいしいハ
 ンバーグを焼くことができる。あのノウハウは膨大な量のマニュアルとして、すべて数値化されて徹底されている
 のです。
  当社でもマクドナルドの戦略を見習い、おいしいハンバーグをいつでもお客さまに提供できるように、まずは加
 工している環境を確実に再現できる情報のデータベース化を進めました。会社の中に存在するありとあらゆるもの、
 例えば刃物やボルト1本に至るまで数値化して、すべてに細かく「番地」をつけることから始めたのです。
  次に、技術者(職人)1人1人がばらばらに持っていた機械セッティングやプログラミングのノウハウを全部吐き
 出させて、山本精工での統一基準となる標準値を決めました。こうしたマクドナルド方式の実現によって、過去に
 受注があった仕事はプログラマーがいなくても、夜間や休日のうちに機械が勝手に加工してくれるという画期的な
 システムを構築することができました。人間はデザイニングやプログラミングなどの知的作業を行い、機械は人の
 いないところで動けばいいという発想です。

  こうして完成したのが週7日、24時間フル操業の無人工場で、短時間での納品と従来の2分の1のコスト削減にも
 成功しました。お客さまからのクレームもほとんどありません。

ITは社員のスキルや能力を高める道具
  この「HILLTOP」システムを導入するときには、社内から大変な反発がありました。夜の間に工作機械の刃物が
 折れて、加工製品をすべて無駄にしたこともあります。その度に、もとのシステムに戻そうという声が挙がったもの
 です。社長からは「会社をつぶす気か」と言われました。

  もちろん、機械を無人で稼働できるシステムはそう簡単には作れるはずはありません。しかし私は、そうした失敗を
 繰り返すことによってこそ、機械を安全に稼働できるデータを蓄積できると確信していたのです。会社のトップが強い
 意志を持って、最後までやり通すという姿勢が大切だと思います。

  ITの大きな目標は、社員の能力を最大限に引き出すチャンスを与えること。つまり、職人になろうとする社員の「天
 狗の鼻」を切り落としてあげることだと思います。人は新しい知識や技術をインプットすることによって、次のステップに
 進むことができるのです。ノウハウを標準化できれば新しいことにチャレンジすることができるし、それがルーティンに
 なったらまた取り除いてあげればいい。そして、それが結果的に企業の経営革新につながるのだということを忘れな
 いでいただきたいと思います。



第二部 超多品種を支えるIT戦略と物流革新

豊富な品揃えでワンストップサービスを実現
  私どもの会社では、「どこにもないがここにある」をキャッチフレーズにしています。昭和21年に創業したときから、
 お客さまが欲しがられるネジはどんなものでも置いておこうという姿勢で、どんどんと取り扱いアイテムを増やして
 きましたが、売上げが20億円を超えてくると、月商の3ヶ月、4ヶ月分の在庫があふれてくる。
  そこで、昭和56年に在庫管理を目的にコンピュータを導入したのですが、導入直後に約3.5ヶ月分の在庫があった
 ものを、2ヶ月程度まで減少することができました。ここ数年の間に、さらに取り扱い商品の細分化を進め、現在約16
 万アイテムを揃えています。

  私たちが展開しているサービス手法の一つに、「ワンストップサービス」があります。バブル崩壊で売上げが落ち込
 んだとき、何とか勝ち組に残るためには、いままでお客さまが別々の会社に注文していたものを、すべてワンストップ
 で引き受ける必要があると考えたのです。
  しかし、やみくもに品種を集めてもデッドストックが増えてしまうだけです。そこで、「グリーンカード」と呼ばれる緑色
 の用紙を作って、わが社に在庫がない商品の注文や見積もり依頼を受けたときはそのカードに記入しておき、後日
 に在庫すべきかどうか社内で検討するというシステムを作りました。現在では、カードではなくパソコンに直接入力し
 ていますが、月平均1200〜1300件ぐらいの案件が寄せられます。

新商品を認知してもらうユニークなPR戦略
  では、そんなにたくさんのアイテムをどのようにお客さまに販売すればよいのでしょうか。本来、ネジというものはJIS
 規格商品なので、本質的にカタログは不要なのですが、いまから6年前に在庫商品すべてを掲載したカタログを、また
 4年前にはそのカタログをデータ化したCD-ROMを制作してお客さまに配布しました。
  また、キャンペーンセールやサンプルボードの提供などにも積極的に取り組んでいます。例えば、初荷注文のお客さ
 まに福袋を用意して、ボルトとナットを組み合わせれば箸置きになるような、遊び心のある商品をプレゼントしたりしまし
 た。
  新しい商品を認知してもらうために、あの手この手でPRに努めてきたことが、現在の売上げにつながったのだろうと
 考えています。

効率的な出荷管理で超即納システムを確立
  こうした豊富なアイテムを在庫しておくために、平成元年、東大阪に350坪4フロアの自動倉庫を開設しました。
  一般的に、ネジというのは品種ごとに「太さ(直径)×長さ」という大きさ順に分けて在庫するものですが、当社では
 出荷量をABC分析して、一番よく注文があるA分類のアイテムは最も入口に近い場所、しかも作業員が取りやすい
 位置に棚を配置しています。
  注文が少ないアイテムは、できるだけ奥のほうに置くようにする。そして、すべての棚に番号や住所を割り当てて、お
 客さまから複数品種の注文があったときは、コンピュータに一番最適な集荷の順序を考えさせるのです。そうすれば、
 作業員は同じところを行ったり来たりせずに、まるで一筆書きのように効率よく商品を集めることができるというわけで
 す。

  こうしたシステムを導入することにより、当社では前日4時まで(インターネットは5時まで)に注文いただいた商品は、
 関東圏なら翌日の午前10時にお届けするという「超即納システム」を確立することができました。

IT戦略の基本は「機械ができることは機械で」
  当社のIT戦略の基本となっているのは、「機械でできることは機械で、人はより創造的な仕事を」ということです。
  現在、社員数は約200人、パソコンは250台用意していますが、将来的には1人2台のパソコンを持てるように環境整
 備していきたいと考えています。その一方で、パソコンの導入で社内改善の意欲がにぶらないように、現在使っている
 事業効率化のためのさまざまなソフトの問題点、不都合な点などをどんどん申請するように指示をしています。

  ITを導入したからといって、すぐに売上げが増えたり仕事の効率が上がったりするわけではなく、社員1人1人の意識
 改革が根底にあってこそ、初めて達成されるものだと思います。
  是非、皆さまもITを使って、経営革新に取り組んでいただきたいと思います。