開催日時 : 平成13年11月15日(木) 14:00〜15:40 開催場所 : マリアージュ(アバンティ8F) |
ブロードバンド時代の中小企業におけるIT戦略 講師;グローバル・クロッシング・ジャパン株式会社取締役副社長 平野 尚也氏 |
ネット利用は2社に1社 −家庭でも3割超える |
昨年末現在、日本のインターネットの企業普及率(従業員300人以上)は96%、同5人以上の事業所普及率では45%、 全事業所の2社に1社がインターネットを活用していることになります。 そして注目すべきは世帯普及率で、前年の20%弱から34%へと大幅に伸びています。つまり、3世帯に1世帯ということ で、e-ビジネスのなかでも消費者向けのBtoCが、がぜん現実味を帯びてきます。普及率が30%台になると、50%ラインを 突破するのに1年もかからないといわれています。 ネット利用者の男女比は6:4ですが、女性の比率が高まってきています。従来、カタログ販売やテレビショッピングは女性が 主要客層でしたから、今後、B to C市場を考えるうえで女性層の拡大は見逃すことはできません。 |
全世界のインターネット人口はすでに4億人を超え、昨年から今年にかけて最も増加しているのがアジア・太平洋地域です。 ニュージーランド、シンガポール、インド、中国、韓国での普及がめざましく、日本の普及率(利用者数/国人口)はアジアで7番目、 残念ながらIT先進国とは呼べないのが実情です。 実際にビジネスにどのように活用されているのかをみると、コンピュータ導入企業の97%がインターネットを利用、うち90% 以上が自社ドメインを持っています。「Eメール・情報収集・イントラネット」が利用の3本柱で、イントラネットは75%の企業が 構築済み、あるいは構築中です。また、半数強の企業で社員全員がメールアドレスを持ち、“社員1人にパソコン1台とメールアド レス”は当たり前という時代が訪れています。 |
いよいよ到来― ブロードバンド時代 |
国内の通信トラフィックは、半年ごとに2倍のペースで急激に増加しています。そこで通信インフラとして注目されているのが、 高速・大容量でインターネットに接続するブロードバンドです。いまのISDNが64Kbps(キロビット/秒)、既存の電話回線を使う ADSLがその10〜20倍の600Kbpsから1Mbps(メガビット/秒)、もっと速いCATVは1.5Mbps、さらに究極のブロードバンドとも いうべき光ファイバーで結ぶFTTHは100Mbpsで、通信スピードISDNの約1万5,000倍とケタ違いに速くなります。 なぜ、これまで光ファイバーが普及しなかったのかというと、コスト高(1m当たり数万円)のためでした。ところがいまでは “蕎麦並み”、m単価は蕎麦とほぼ同じくらいにまで安くなっています。 今年初め、政府が発表した「e-Japan戦略」は具体的な目標値として、2005年までに全世帯の4,000万世帯に1.5〜6Mbpsの 高速インターネットに、うち都市部の1,000万世帯には超高速の光ファイバーに接続可能な環境を整備することを掲げています。 今後、日本はどのように産業のEC化を進めて競争力を高めていくのか、総務省のHPでも全文が紹介されているので、ぜひ 一度ご覧になってください。 モバイルの分野では、最も期待の高いのが次世代型携帯電話システム「IMT-2000」です。これは384Kbps〜2Mbpsのブロード バンドにより文字中心から動画像へ、しかも世界中のどこででも利用できる携帯電話で、この10月からNTTドコモが東京を中心 にサービスを開始しました。来年にはKDDI、J-フォンが全国で発売を予定しています。さらに、GPS機能が搭載されると自分や 相手の位置がわかりますから、商店街を歩いていて食事をしたいとき、商店街のHPを取り込めば近くにどんな店があるかがすぐに わかります。このようなシステムを集客に生かす試みは、すでに浜松市の商店街などで始まっています。 |
B to C市場 ノウハウあれば有望分野に |
経済産業省・電子商取引実証委員会の調査結果によると、日本のEC市場は、2005年にはB to Cが13兆円、企業間の B to Bは110兆円と予測しています。 B to C市場13兆円というのは、カタログ販売が年間1兆円規模ですから、その13倍。ただし注意していただきたいのは、新しい 需要が喚起されるのではなく、その分、既存の市場がECにシフトするということです。 オンラインショップはいま、推計3万5,000サイト。全国の小売業者は150万といわれていますから、全体の2%に当たります。サイト 開設者の規模は従業員10人未満の店舗が6割、サイトの運営は同5人以下が9割を占めます。売り上げは月商10万円未満が約半分、 一方で同1,000万円以上が5%あり、完全に2極化現象が起こりつつあります。 そして、インターネット利用者のうち約4割がオンラインショッピングを利用しています。顧客は女性が男性を上回り、購入回数は 年2〜4回、平均購入金額は1万〜5万円。オンラインショッピング利用比率が年々上昇していることと同時に、ベースとなる母数、 つまりインターネット利用者が急増していることに着目する必要があるでしょう。 |
ちなみに、米国の昨年のオンラインショッピングの市場規模は450億ドル(約5兆4,000億円)で小売総額の1.7%、前年比66%増と いう伸びを示しています。黒字の企業は、通信販売業者が72%、実店舗を持つ小売業者は43%ですが、ネット専業になると27%に 過ぎません。ネットバブルの崩壊がいわれていますが、通販業界のようにもともとノウハウをもっている企業は、ネット販売でもかっちり と儲けているというわけです。 |
“慣習打破”促す e-マーケットプレース |
2005年に経済産業省が見込んでいるB to Bの取引高110兆円は、現在のGDPの約2割に相当します。海外でもAPEC諸国、 オーストラリア、ニュージーランド、中国、韓国などでは、利用企業がいまや50%を超えています。 |
企業間取引のなかでも最近注目されているのが、「e-マーケットプレース」と呼ばれる、不特定多数が参加可能な資材調達のネット 市場です。その代表例が米国・自動車業界の“ビッグ3”(GM、フォード、ダイムラークライスラー)が共同で設立した「Covisint」という 約10万点を数える部品調達サイト。年間3,000億ドル(約36兆円)にも及ぶ調達をカバーし、10%のコスト削減が期待されています。 e-マーケットプレースは、流通の“中抜き”というよりも、それぞれの業界が抱える問題点の改善や、既存の商慣習の打破に重点が 置かれています。例えば、過剰在庫を効率的にさばいたり、「系列」を超えたオープンな取引、透明度の高い価格決定などです。 日本型モデルとしては、大手主導によるゼネコンの建設資材、マリンネットの船荷、伊藤忠商事の繊維、三菱商事の鉄鋼調達などが あるほか、中小企業でもNCネットワークのように金型製造部品など独自に構築して交渉力を発揮しており、ベンチャー同士による連携も 活発化していくでしょう。こうした動きは、国内業界の秩序再編の流れを加速する契機になるのではないでしょうか。 さらに、それを経営手法として進化させたのがSCM(サプライチェーン・マネジメント)です。資材調達から製造、販売、物流まで、各 部門の受発注をインターネットで行ない、需要の変化に迅速に対応するプロセス、一言でいえば、ITの活用によってモノや情報、カネが よどみなく流れる仕組みづくりです。 昨今の業界大手各社の動きを見てもおわかりのように、取引先から「これからSCMに切り替えますよ」といわれて「はい」と答えられ なければ、たちまち取引カットになるケースが、現実にいま起こりつつあるのです。 |
ITビジネス環境に 対応するために |
いうまでもなく、現在のネット社会はトレンドとかブームではありません。これは世界に共通したパラダイムの転換です。IT革命を 明治維新に例えると、いまは「維新前夜」ではなく、「維新後」なんです。というのも、物心ついたときにはインターネットがそこに あったというIP世代が、あと5年もすればユーザーとして市場に登場してくるのです。 ITの活用が競争力を分ける今日、ITを経営、事業にどう生かすか。 1つは、EC化を契機とした企業の内部変革です。社内業務の変革が伴わなければ、外向けだけのEC化だけでは競争力は強化 されません。そのために真っ先に取り組まなければならないのは、意識の変革、まずトップ自らが変化を恐れないことです。 2つには、既存のドメインにこだわるか(本業深耕型=例えばトヨタ)、それとも新規ビジネスか(多角化型=例えばソニー)、経営 路線を明確にすることです。 3つには、その前提となるコア・コンピタンス(中核の競争力)―それは技術力が優れていることなのか、生産性が高くて価格競争 力があることなのか、あるいは顧客に密着していることなのか、自社の強みをあらためて確認することが重要になってきます。 |
そして最後に、トライ&エラー、既成概念にとらわれず、とにかく早期にやってみることです。 昨年、ソニーが相次いでインターネット販売に進出して話題を呼んだ折、出井伸之会長は「インターネットはユカタン半島に落ちた 現代の隕石」と発言。隕石による気候の変化で絶滅した恐竜になぞらえ、大企業といえどもネット社会に対応しなければ生き残れない、 と指摘しました。 環境変化のなかで、適応して生き残った哺乳類を選ぶためには、ブロードバンド時代という流れに乗り遅れないように、先手を打って 対応していただきたいと思います。 |