◆京都インターネット利用研究会1月例会報告

開催日時 ; 平成13年1月23日(火) 14:30〜16:30
開催場所 : 京都リサーチパーク
エヌシーネットワークのインターネット活用事例 
講師;株式会社エヌシーネットワーク
   代表取締役社長 内原康雄 氏


《中小製造業のデータバンク「EMIDAS工場検索エンジン」》

 エヌシーネットワークとは、金型加工やプレス、表面処理などを手がける全国の中小製造事業者を結ぶネットワークです。オンラインショップには多くの人が集まりますが、残念ながら中小製造業のホームページにアクセスしてくれる人はそれほど多くありません。インターネット上で効果的な受発注を行うためには、できるだけ工場情報をたくさん集めて、かつ発注元のメーカーが自由に検索できるシステムをつくる必要があるのではないか。そういう発想から生まれたのが「EMIDAS工場検索エンジン」です。検索絞り込みの分類は、取扱品目、工場設備、納期など800項目以上に及ぶほか、発注企業が加工業者を比較検討しやすいように、さまざまな工場情報を定型フォーマットにまとめて整理しています。現在、6,479社の登録があり、金型やNC工作の発注先を探しているメーカーを中心に月間15万件以上のアクセスがあります。
 エヌシーネットワークには、EMIDASのほかにも「モノづくり受発注掲示板」という機能があります。「ローラーを切断してくれ」「油圧シリンダーを求む」という書き込みに対して、対応可能な加工業者がメーカーに連絡を取って直接商談を行うという仕組みです。現在、金型掲示板や中古工作機械掲示板など20種類の掲示板があり、1日に20〜30件の書き込みがあるようです。実際にこの掲示板を通して、月額600万円にのぼる新規取引先を獲得したという会員企業もあります。また、2次・3次下請け企業が、大手メーカーと直接取引をするようになった中抜き受発注の事例もいくつか聞いています。

《電子商取引の不安を担保するマーケットプレイス》

 エヌシーネットワークのマーケットプレイスとして、現在取り組んでいるのが電子商取引です。EMIDASや受発注掲示板を使って初めて受発注をする場合、取引先がどんな会社なのかいちいち調査しなければならず、発注までにかなり手間がかかりました。その手間を解消するために、発注元の希望する納期や価格データをインターネットでエヌシーネットワークに送ってもらい、それに対して24時間以内に会員企業を紹介しようというものです。どういう基準で紹介しているかというと、約6,500社あるEMIDAS会員の中から80数社の工場を実際に見せてもらい、どんな設備があるのか、どの程度の品質で仕事をしているかなど細かくチェックしてランク付けを行い、そのリストの中から顧客の要望にマッチした工場を紹介しています。
 電子商取引のもう一つの問題は、お金の回収です。私たちは伊藤忠の「E-Guarantee」というシステムと接続しています。新規で受発注をする場合、伊藤忠がすぐに取引相手の工場を調べてくれるので、その与信額の範囲内で商談をすれば安心というわけです。
 現在のところ、金型のプレートのみを取り扱っていますが、1カ月で約700万円くらいの売上げにつながっています。今春には金型そのものや板金部品などにも範囲を広げていきたいと思っています。こういうシステムができると、取引が非常にスピーディーになり、遠隔地との取引も容易になるでしょう。将来的には、海外の巨大部品メーカーなどからの受発注も視野に入れた展開を考えていきたいと思います。


《ユーザーが欲しい情報を満載したコンテンツ》

 エヌシーネットワークでは、ビジネスに直結するコンテンツのほかに、さまざまな情報交換ができる掲示板や、画像登録できるギャラリーのようなコミュニティーサイトを用意しています。最近では、「EMIDASCSE」というカタログ検索エンジンを立ち上げました。たとえば金型の設計図に何か部品を加えたいという場合、これまでだと膨大なカタログを見比べながら最適な商品を選び出さなければなりませんでした。しかし、このシステムを使うと、インターネット上でカタログ検索が可能となり、コピー&ペイストすれば簡単に金型設計ができるようになります。

 そのほか「技術の森」という製造技術のデータベースもあります。定型のフォーマットに会員名やメールアドレス、自分の専門分野などを事前登録しておくと、「プレス加工について質問があったので分かる方は答えてあげてください」というメールが送られてくるわけです。仲間のだれかが仕事上で困っていることに対して、その分野に詳しい人が回答するというシステムです。これはエヌシーネットワークのコミュニティーとしては非常に人気のあるサイトです。
 そのほか、Traboxという運送業者のネットワークもスタートさせました。中小製造業者は商品の郵送に苦労させられるケースが多い。これを何とかできないかと思って始めたマーケットプレイス・サイトです。このTraboxの運転手はみなさんiモードを持っていて、たとえばある会員企業が今晩7時に東京まで金型を運びたいと思った場合、エヌシーネットワークから各運転手さんの携帯端末に連絡がいくわけです。一般的に京都から東京まで4トントラックで荷物を運ぶと7〜8万円くらいかかりますが、このシステムを使えば最終的に4万円くらいですみます。なぜかというと、Traboxに登録されているトラックは帰り便なんです。空いているトラックを走らせるよりは、4万円の荷物を積んで帰ったほうがいい、そういうユニークな発想から生まれたシステムです。

《インターネットを「知る」時代から「活用する」時代へ》

 これからの製造事業者は、インターネットを企業経営にどのように活用していくのか、真剣に考えていかなければなりません。インターネットはスピーディーでインタラクティブな情報交換ができるので、受発注のほか社内連絡や広告営業など、いろんな側面で使うことができます。社長が使う個人道具ではなくて、工場全体でインターネットのインフラを整備してやれば非常に効率のいい仕事ができるようになります。

 最近ではホームページを持つ企業も増えてきましたが、営業ツールとしては非常に有意義だと思います。しかし、だれも見てもらえないものを作っても意味がありません。製造業のホームページで最も重要な項目とは、「設備情報」と「加工技術」です。まずはこの2つを明確にし、従業員数や取引先、売上高などの会社概要を細かく記述すること。いままでこういう情報は外部へあまり出しませんでしたが、相手の顔の見えないインターネットの世界ではそういう考えは通用しません。少しでも多くの企業情報を相手に提供して信頼を得ることが大切です。そのほか、メールの活用も見逃せません。たとえば、全国にいくつも営業所を持つ企業の場合、社長ミッションを全社員に伝えるのは不可能です。しかし、メールを使えば、ほぼリアルタイムに社員一人ひとりの端末機器に連絡することができます。業務が非常に効率的になり、フラットな経営環境を築くことができます。

 実は、インターネットはまだまだ始まったばかりのインフラです。マーケットプレイスを提供する私たちにとっても、ページの作り方やユーザーインターフェイス(使い勝手)など明確でない状態です。そういう面ではまだまだ改善の余地はありますが、今後さらにインターネットが普及してくると、製造業にとって非常に有利な時代が来るのではないかと思います。日本の金型・機械加工技術は世界一といわれています。インターネットを活用して、中小製造業の技術を世界に提供していく時代が目の前に迫っているように思います。