京都インターネット利用研究会6月例会報告


開催日   平成12年6月27日  14時から16時 

開催場所  京都リサーチパーク

講演
  e-Commerceの新潮流
〜これからは、顧客中心ECマーケティング〜

(株)情報通信総合研究所 ECビジネス開発室長  野原佐和子 さん

◎膨れあがるECビジネスマーケット

 平成12年度版通信白書によりますと、日本のインターネット利用者の数は1999年末
時点で2706万人、2005年末には7680万人に達するだろうといわれています。インターネ
ット・ショッピング経験者数を推計する調査というのはあまり実施されていませんが、私ども
が独自に行った郵送アンケートでは、99年4月現在、インターネット・ショッピング経
験者数は日本でおよそ400万人。しかも、98年から99年の1年間で約2倍に増加していま
す。

 次に、インターネット・ショッピングの売れ筋商品ですが、最もよく購入されてい
るのが書籍、その次がコンピュータ関連機器、以下、日常の食材以外の食品、衣類・
ファッション用品と続きます。最近では女性ユーザーの比率がかなり高くなっており
、女性の購入率が高い日常生活に密着した商品が急激に売れ行きを伸ばしていること
が分かります。

 では、日本のECビジネス規模はどれくらいでしょうか。通産省の外郭団体「e-Com」
の調査によりますと、1999年のBtoCEC市場規模は3360億円。2004年には6兆6620億円
規模になると予測しています。なかでも最も伸び率が高いのは旅行関連商品で、現在
は約7%に過ぎませんが、5年後には18%になるといわれています。他の商品はそれ
ほど大きな変化はありませんが、マーケットそのものが20倍以上に拡大していますか
ら、それぞれが急激に伸びていくことは間違いありません。

 同じように、日本のショッピングサイト数も大変な勢いで増えていまして、2000年
3月現在で約25000店もあります。最も数が多いのはフード&ドリンク、次にカルチャ
ー&ホビーという順になっていますが、食品関連商品などは市場規模に反比例してシ
ョッピングサイトの数が多く、市場競争が激しくなっています。少し前までは、とり
あえずサイトを立ち上げればそこそこ成功しましたが、今後はきちんとした戦略を立
てないとうまくいかないでしょう。また、携帯電話でのインターネット利用者の増加
に対応したiモードなどによるモバイルECビジネス、コンビニエンスストアなどによる
クリック&モルタル(オンラインと実店舗の組み合わせ)の取り組みなど、パソコンを
利用したEC以外の新たなビジネスも始まっています。


◎収入構造によって大別されるインターネット・ビジネスモデル

 インターネット・ビジネスのビジネスモデルを収入構造で大別すると3つに分けられ
ます。まず1つ目は、ユーザーから商品やサービスの販売料を得るオンライン・ショッ
ピング・ビジネス。その成功のポイントとしては、@ショッピングサイトとしての基本
サービスをしっかりと押さえ、ユーザーに分かる形でお得感を演出(低価格、メール
ニュースでの商品情報提供、多種類の決済手段など)、Aユーザーのコミュニティを
育成してリピーターを確保することなどが挙げられます。

 そのほか、Webの閲覧を有料で提供するオンラインマガジン、電子メールで有料情報
を定期配信するメールニュース、画像や音声などのデジタルコンテンツをオンライン
で販売するデジタルコンテンツ販売など、商品流通を伴わない有料情報サービスもあ
ります。

 2つ目は、利用者に無料で情報を提供するとともに、広告を掲載して広告収入を得る
無料情報提供サービス。たとえばインターネットタウンページ、インターネットTVガ
イドなど、ユーザーが特定の情報を得たいがためにどんどんとアクセスしてくる。そ
のアクセス数の威力を生かして広告収入を得ているわけです。

 同じように広告収入を得るビジネスとして、コミュニティ・サービスがあります。
これはWeb上に人々が集まるコミュニティを形成し、広告収入を得るビジネスです。大
きく分けて、@明確にセグメント化されたコミュニティを形成するタイプ。たとえば
、育児をしている人たちのサイトや若者のサイトなど、明確な目的を持った人たちの
コミュニティサイト。特定のターゲットに向けた商品を持っている広告主には、この
コミュニティはかなり魅力があるといえるでしょう。Aコミュニケーションの手段を
提供して自由にコミュニティを形成させるタイプ。コミュニケーションツールを提供
して、そこで好きな人どうしがコミュニティをつくっていくというものです。

 広告収入が得られるビジネスで最も成功しているのは、Yahoo!、Lycos、Infoseekな
どを代表とするポータルサイトでしょう。Web利用の玄関(ポータル)となる機能(検索
機能、ディレクトリ、コミュニティなど)
をユーザーに提供し、アクセス数の多さを武器に広告収入を得るビジネスです。どん
なユーザーでもいいから、とにかく大量のアクセスがくるようなコンテンツをつくろ
うというのがポータルサイトの考え方です。

 3つ目のビジネスモデルとして、生活者に販売支援サービスを行い、事業者から手数
料収入を得るビジネスがあります。分かりやすくいえば、商品提供業者をとりまとめ
て商品情報を掲載し、商品提供業者からの手数料を得るビジネスです。たとえば、シ
ョッピング・モールやオークション、旅行関連の予約などがあります。


◎ECビジネスを成功に導く「顧客中心ECマーケティング」

 BtoCECビジネスを成功させるために、インターネットの本質である「双方向性」と
「ユーザー主体」をうまく生かした、「顧客中心ECマーケティング」を考えることが
重要となってきます。

 たとえば、情報提供の方法について考えますと、商品カタログ掲載やメールニュー
ス配信などは事業者から一方的に送られてくるもので、双方向性はあまりありません
ね。一方、ユーザーから寄せられた商品評価やコメントの掲載、ユーザーによるラン
キング・サイトなどは、非常に双方向性が高く、ユーザーの書き込みによってコンテ
ンツがつくられていきますから、ユーザー主体ということがいえると思います。同じ
ようなECサイトがあっても、双方向性が大きいかどうか、またユーザー主体になって
いるかどうかが成否の大きなポイントとなっているようです。

 「顧客中心ECマーケティング」の具体的な手法ですが、大きく4つの方法に分類する
ことができます。1つ目は「個別対応マーケティング」。メールを利用して、ショップ
とユーザーが個別に対応するマーケティング手法です。2つ目に「登録型マーケティン
グ」。これは会員登録をしてもらって、2回目からは住所や名前を書かなくても支払い
ができるといった各種サービスを提供するもの。3つ目は、顧客の好みや要求をあらか
じめ情報収集し、それをもとに各自に適したサービスを提供していく「データマイニ
ング・マーケティング」。たとえば、欲しい商品をあらかじめ登録しておいて、入荷
後に連絡してくれるサービスやレコメンド・サービスなどが挙げられます。4つ
目の「コミュニケーション・マーケティング」は顧客の意見を掲載したり、顧客間の
情報交換をもとにEC利用を活性化していくもの。購入者による評価やコメントの掲載、
ショップが主催するチャットやメーリングリストなどがあります。

 このようにさまざまな方法論がありますが、最も優先すべきマーケティング手法は
「個別対応マーケティング」です。メールでの問合せ、メール送信サービスなどをき
っちりと行っていくこと。1度アクセスしてくれたユーザーをしっかりとつかまえるた
めに、会員登録をしてもらうことも必要不可欠です。そのあとは、「登録型マーケテ
ィング」や「データマイニング・マーケティング」などを平行して充実させていくべ
きでしょう。ひとつの手法にこだわるのは、ユーザーの幅を狭めることになりますの
で、常にユーザーの実態や意識・ニーズを的確に把握して、顧客中心のビジネスを展
開することが大切なのです。