京都インターネット利用研究会5月例会報告

 

1.日時 : 平成11年5月19日(水)14:00〜16:00(開場 13:30)
2.場所 : マリアージュ
3.内容 : セミナー
インターネットが与えた社会の変化
     講師:京都大学大型計算機センター 教授 金澤 正憲 氏

インターネットが与えた社会の変化

講師 京都インターネット利用研究会 代表幹事
京都大学大型計算機センター 教授
金澤 正憲氏

1.コンピュータの発達
 2〜3年前にもこの例会でお話したことがあるのですが、そのときはインターネットを
理解しておられるのはまだ一部の方々で、HPでどういうことができるのかと言うことを
説明するという段階でした。それがいま、例えば京大の中でHPの量はどのくらいあるか
というと、学内でオープンになっているものだけでも4万5,000ページを超えています。
こうした急速な普及の背景にはコンピュータの発達があります。
 「高速化」―マシンサイクルは95年頃、120〜133MHzのパソコンが一般化したと思っ
たら、現在はもう500MHzの時代になり、そして2001年には多分1GHzになるだろうといわ
れています。
                          
 「高速データ転送」―ファイル〜CPUの転送スピードは40MB/秒が標準になりつつあ
りますが、それが近々100MB/秒になりそうです。
 「大容量化」―現在、パソコンのメモリは64MB、128MBが標準になっていますが、21
世紀に入ると1GBに。ディスクの容量もいまの4GBから近いうちに10GBになるでしょう。
 「ソフトウェア・マルチメディア機器」―UNIXはLinuxに、マイクロソフトのOSは
ウィンドウズNTに変わっていくでしょう。寡占化が進んでいけば価格が安くなる半面、
今後の進歩を考えるとソフトの選択肢はたくさんあったほうがいいようにも思います。
また、いろんな機器が出てきましたが、なかでも利便性が高いものの典型例としてはデ
ジタルカメラがあげられます。

2.ネットワークの発達
 「データ通信と通話」―5〜6年前までは音声通話の通信量がデータ通信の量をはるか
いかといわれています。
「LANの技術」―10年前、京大の学内にあるイーサネットケーブルは2〜3本だけでした。
その後、イーサネットにたくさんのパソコンやワークステーションをつないで使うよう
になったためコリジョン(衝突)が多くなり、使いものにならないというわけでハブス
イッチが出てきました。それからブリッジだとかルータが用いられ、それらを100〜400
Mbpsのループ型のバックバーンネットワークで大学キャンパス内、あるいは工場内をつ
なぐということをやってきました。
 しかし、それでは伝送スピードが遅いというので開発されたのがATMですが、直接ATM
につないだのでは使い勝手が悪いということで、また元のイーサネットに戻そうという
ことになり、各大学でいまパイロット的に取り組んでいるところです。
 「WANの技術」―従来の電話回線からデータ通信、次にパケット交換方式、そして出
てきたのが専用線方式です。通信装置は正しく、速く、安く送ることが大事です。ネッ
トワークの線を1本1本引くよりも、線の両端に装置を設けたほうが安くつくということ
からさまざまな取り組みがなされてきました。
 この分野はさらに発展し、光通信がもうそろそろ実用化されるのではないかといわれ
ています。現在使われているシングルモードの光ファイバーの速度は10Gbpsです。光フ
ァイバーは5〜10μmの非常に細い線で、人間の髪の毛が100μmだそうですからどのくら
いの細さかがおわかりいただけると思います。速度は10Gbpsぐらいが比較的安定してい
るのですが、これを波長多重、少し波長が違うものでも1つの線でまとめて送ろうと試
みられていて、実験室レベルでは64波長まで実現しているそうです。こうした波長多重
によるものはフォトニックネットワークと呼ばれ、2002年を目標に開発が進められてい
ます。
 この光通信というのは、シングルモードの光ファイバーによるものとは大きな違いが
あります。これまでは光ファイバーの両端で電気で受けたものは光に、光で受けたもの
は電気にそれぞれ変換していたのですが、そうではなくて光のまま処理することです。
つまり、光に対し光を与えて増幅する、分岐する、あるいは別の光を入れ込むといった
ような光の利用、一言でいえば分岐利用ができるということです。1つの光ファイバー
の中にあるたくさんの波長を、この波長はATMのネットワーク用、この波長はIPのネッ
トワーク専用というふうに個々に割り振ることができるというわけです。それが2002年
を目標に、いろんなメーカーで開発が行われています。

3.ホームページの利用
 ホームページの利用形態については2年前に以下のようなものを列挙しました。
 @既存のものの電子化 A既存の情報を配布可能に(気象衛星「ひまわり」の画像等)
 B電子新聞 C音声メディア D動画 E検索機能 F問い合わせ・予約 Gショッ
ピング等 その当時考えていた大概のことは実現されていますが、その中でもびっくり
するほど普及したのは動画と問い合わせ・予約、それにショッピングでしょう。動画は
CGIを使ったアニメだとかビデオカメラの映像、テレビ中継も含めていろんなタイプの
ものが現れてきました。JRのサイバーステーション、膨大な規模の座席予約システムに
はつくづく感心してしまいます。銀行のキャッシングサービスもHPを見るとすでにかな
りのことができるようです。
 その急速な普及の要因としてフォーマット化があります。従来はE-mailで予約したり、
ショッピングの注文をしていたのですが、この頃はHP画面の必要な項目をクリックして
選ぶだけになっています。もう一つはIDとパスワードを与えていることです。いったん
登録しておけば2度目からそれを入れるだけで手間が省けますし、リピーターの獲得に
もつながるというわけです。
 以前、パソコン通信による電子会議室をいうのがありましたが、いまはE-mailのメー
リングリストでやることが多くなりました。私が主宰している研究者グループの電子会
議室では、いろんなプログラムで2000年問題の対策など有益だと思われる情報を登録し
てください、と呼びかけています。その場合も会員であればIDとパスワードだけでだれ
でも登録でき、ダウンロードできるようにしています。

4.ネットワークのセキュリティ
SPAMメールの問題点と対策
 どの大学もいま、同一の内容を多くあて先に配る、しかも悪意のあるSPAMメールに悩
まされています。それは大体、金曜日の夜から始まり、その結果、月曜日に大学に来る
と非難ごうごうのメールが世界中から届いているということになります。
 SPAMメールの内容は他人の中傷や、受取人にとってどうでもいいような宣伝で、おま
けに他のメールサーバを占領して配布されます。どうしてそういうことになるのかとい
うと、例えばAからCへメールを送る場合、いまは高速デジタル回線などで直接送るのが
エチケットになっています。ところが電話回線のネットワークでは、昔はAからCへつな
がるのがいつになるかわかりませんから、Cへ送るにはより近いBを中継すればやがて届
くだろうと考えてとりあえずBに送ります。そこでBは時間が空いたときに善意でBに回送
していました。ですからインターネットメールは、このような経路をたどって地球の裏
側までいくのに1週間かかったり、途中ではなくなるということもしばしばでした。
 これを悪用したのがSPAMメールです。場合によっては千、万単位のメールを処理させ
られたあげく、その受け手のメールサーバがパンクしてしまったこともあります。Aから
CあてのメールがBにくれば、Bは自分のところにくるのは不都合だ、中継は一切しないと
いうことはできます。しかし、差出人を偽っていたり、でたらめなユーザIDが使われる
と、どれがSPAMで、どれがSPAMではないかを見極めるのは難しい。さらに大きな問題は、
我々は被害者であるのにほかの受け手から見ると加害者になってしまうということです。
 そこで対策としては、こちらが出すメールはSPAMメールではない、正しいメールだと
思ってもらうようにするということです。
 そのためには必ずメールのフォーマット、アドレスやサブジェクトなどをきちんと書
く。それと対策手順(連絡網)をマニュアル化しておくことです。また、会社内で勝手
にメールサーバーをつくらさない、管理できる人がいる所だけにメールサーバを置くと
いうようにすることが大事だと思います。
 もう一つ、ネットワークの入り口のルータでガードする、制御用パケットの返答要求
を外に向けて出さないようにルータを設定することも大事でしょう。
 こうしたセキュリティに関する基本はまず、ユーザIDとパスワードを盗まれないよう
にすることです。それには“幽霊ID”をつくらないこと。2〜3日に1回でも使えば盗ま
れていることはすぐわかりますが、幽霊IDだといつまでもわかりません。
 そして、会社などではイントラネットでガードしておられると思いますが、その際に
便利のための抜け道を決してつくらないことです。どうしても電話を接続させることを
考えなければならない場合は、特定の番号からかかってきたものしか受けつけないよう
にする。最近は、私的な利用なども含めてイントラネットを守るためにログファイルを
とっているケースも多いようです。