伝統的な顔料を使って新商品を開発
上羽絵惣は宝暦元(1751)年に東洞院松原で創業。当代で10代目になります。日本画用の絵の具(顔料)の製造を生業とし、現在でも約1200種の顔料を作っています。しかし、絵を描く人の減少やバブルの崩壊、流行の変化など、様々な要因が重なり、年々需要が減ってきていました。その現状を打破すべく、異分野である美容業界向けに、新たな製品開発を昨年に実施しました。
胡粉というのはホタテの貝殻を原料とした日本の伝統的な顔料で、日本人形の顔への絵付け、西陣織や友禅、神社仏閣の壁の下地、日本画などに使われています。一般にはあまり知られていないものの、非常に身近な素材です。また胡粉は炭酸カルシウムを主成分とするため口に入れても問題がなく、「五色豆」などの豆菓子にも着色のために使用されています。
何故その胡粉を使った異分野の商品開発を思い立ったのかといえば、260年脈々と受け継がれてきた、「うちにしかない」技術を途絶えさせるわけにはいかないと思ったことが始まりです。
時代による価値観の変化や、不景気の影響を受けて日本画の価値が下がるなど、私たちを取り巻く状況は決して良いものではありませんでした。しかし、私たちが倒れてしまっては、ずっとご贔屓にしてくださったお客様に申し訳ないばかりでなく、伝統工芸品の修復もできなくなってしまいます。技術を残すためにも、職人さんの生活のためにも、リスクを伴ってでも新しいことに挑戦しようと考えたわけです。
伝統を新たな角度で考える
商品を開発するといっても、最初から明確なビジョンがあったわけではありませんでした。まずは情報を集めることからはじめないといけないと思い、商工会議所のセミナーや交流会に積極的に参加し、外の情報を集め、意見交換する機会を多く持つようにしました。
私どもと同じように伝統的な技を持ちながらも、時代に合う商品開発を行い、時代を乗り越えている企業の方とのお話や諸先輩方からのアドバイスは非常によい刺激になり、勉強にもなりました。技術を残していくための、大きい市場に受け入れられる商品開発を行うにはどうすればよいのか。外で得た知識やヒントを会社に持ち帰り、自問する日々が続きました。
その中で、「私たちの会社は何をしている会社なのか?」ということをよく考えてみると、私たちは絵の具を売っているだけではなく、芸術の元となるものをお客様に提案している会社なのだという発想が出てきたのです。今までとは違った角度で自分の会社を見たときに、「アートをつかさどる会社」になりたいという明確な思いが生まれました。
そして、私が女性ということもあり、常々から女性が欲しいものを作りたいという思いと重なり、「女性」と「アート」を並べて考えたのがネイルアートです。手足の爪に施す化粧や装飾であるネイルアートはバブル後から発展してきた産業で、マニキュアや付け爪をはじめとした様々な種類の製品は、多くの女性にとって必要とされるものとして、まだまだ伸びしろもあります。「これしかない!」と決心し、一気に顔料を使ったマニキュアの商品開発へと進みました。
新商品の開発により新しい風が吹く
開発テーマを決めたあとは、コンセプトの構築に時間を費やしました。「日本画材屋が作ったマニキュア」では物珍しさだけで終わってしまいます。そうではない新たな価値を持たせることが重要だと考えました。
先にも述べましたが、胡粉というのはホタテの貝殻を原料とし、炭酸カルシウムを主成分とするため、口に入れても害のないものです。しかし、従来のマニキュアというのはシンナー系の有機溶剤を含んだものがほとんどで、人によっては刺激が強すぎることもあります。その問題を胡粉なら解決できると思い「胡粉ネイル」を作ることにしました。
「爪と皮膚に優しく、誰もが使えるマニキュア」をコンセプトに開発し、平成22(2010)年1月の発売に至ります。先ず、6,000本を1年間で売り切ることを目標にしました。発売当初から新聞や雑誌に取り上げていただいたおかげで、設定していた目標よりも8ヵ月速い、約4ヵ月で完売し、新分野進出への確かな手ごたえを感じることができました。
新しいことに挑戦する勇気を持つことが必要
その後も順調に商品開発を進め、現在では約20種類のマニキュアを販売しています。有機溶剤を使わず、また胡粉という伝統的な自然素材を使っていて、爪に優しいという最大の利点を生かし、従来のマニキュアでは少なかった子ども向けキッズネイル製品を開発したり、アロマオイル配合で香りのするマニキュア販売を始めたりと、新しい挑戦にも積極的に取り組んでいます。
また、会社の玄関先に新たに設けた小売りスペースのおかげで、お客様との直接対話も生まれ、次の商品開発にも役立つだけでなく、今まで卸売業で人との出会いがなかった従業員たちが、お客様やマスコミの方々と話をする機会が生まれました。おかげで社内が非常に明るくなりました。社員のモチベーションの観点からも胡粉ネイルは新しい風を運んできてくれたと思います。
マニキュアなどのネイルの販売先としては、百貨店やデパートなどの化粧品コーナーというのが一般的ですが、胡粉ネイルは和の要素も持ち、和服にも合うため、化粧品コーナーだけでなく、呉服店売場に置いていただいたりもしています。さらに、京都市美術館をはじめとした、多くの美術館でも販売をしていただいています。もともと私どもは画材店ですから、日本の美術界の活性化に、少しでもお役に立てればと願っています。また、京都だけではなく、東京や長野や愛知、滋賀、奈良、大阪、徳島に福岡まで取り扱い店舗を拡大しています。
昨年度は2万本の販売でしたが、現在は1ヵ月で1万本以上販売しています。この状況が一過性のものにならないよう、新たな企画も計画中です。また今後は、より多くのお客様にお買い求めいただけるよう、ネット販売にも力を入れていきたいと考えています。
新しいことに挑戦するというのは当然リスクも伴いますが、それでも「これだ!」と思うものがあれば絶対にチャレンジするべきだと思います。伝統を保ち続けるのももちろん大切なことですが、それを生かした新しいものを生み出すということも大切です。
胡粉ネイルの商品名には日本の伝統色の名が付けられています。ネイルという商品を通して、日本古来の色への興味や、日本画への興味が高まってもらえればこんなに嬉しいことはありません。伝統を残すためにも、巻き起こった新しい風を吹かせ続けていきたいと思います。
上羽絵惣 株式会社 |
〒600-8401 京都市下京区東洞院松原上ル燈籠町579 |
TEL 075-351-0693 FAX 075-365-0613 |
| URL http://www.gofun-nail.com/ |
営業時間 9:00〜17:00 |
定休日 土・日曜日、祝日 |
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