変化をどう捉えるか
京都は1200年余りの歴史のなかで何度もスクラップ・アンド・ビルドした街ですが、大きな変化が起きたときに再建する能力がものすごくあり、その再建のエネルギーがいろいろな新しい技術や考え方なりを生み出してきた街だと思います。
現在は時代や環境が目まぐるしく変化し続けています。皆さんのお商売とお客さんとの関係という視点でお考えいただいたら、変化は毎日起こっており、特にこの10年間ほどの変化の大きさが実感できるのではないでしょうか。
その変化を、「よし、おもしろい、チャンスや!」と考えるか、それとも「取り残される…」と考えるかによって、これからのお商売がずいぶん違ってくると思うんです。時代や環境の変化の機微をいかにとらえながら、常に変化するお客さんの心をどういう仕組みで事業やお商売のなかに取り入れていくか。それがこれからの商売繁盛の最大のテーマになります。
「個」を売る時代
僕らが子どもの時代はモノ自体が不足がちでしたから、メーカーから卸、小売りに至るまで、扱うモノで業種という棲み分けがされてたわけですが、近頃ではお客さんの視点から見て必要なモノ、技術、サービスを揃えている業態という考え方が一般的になってきました。お客さんに必要な時間帯に、必要なモノを便利に提供する、コンビニなんかがその代表例ですね。それだけでもかなりの変化だと思うんですけれど、もっとよく考えてみますと、これからはほんまに業態だけでやっていけるのかなと。お客さんと商売を結びつける仕組みが、もはや業態だけでは立ち行かないのではないかと言われ始めているんです。
なぜかといいますと、これだけモノも情報もサービスもあふれてくると、お客さんにしてみたら、選ぶのも大変、探すのもひと苦労。そのなかで、お客さんが直感的にその店を選んでしまうような動機づけが大事となります。つまり、企業から個業へと変化してきているんじゃないかと。自分とこのお店目がけて、お客さんに来ていただく、それだけの「個性」を提案できないと、その他大勢の平凡な店となってしまうからです。
要するに、よく言われる差異化ということなんですが、僕はこれからの商売には「顔」が必要だと思います。「顔」というのは、人の個性、お店の個性、商品の個性、品揃えの個性、サービスの個性です。それは逆にお客さんの立場から見ると、「なぜこの店なのか」「なぜこの商品なのか」が納得できる理屈、動機づけ、ストーリー性ということになります。
今、ラジオ通販が受けていて、驚くことにはテレビ通販と違って商品・実物を見ることもできないのに100万円もする宝石なんかが売れています。購入者になぜかと聞いたら、パーソナリティーがすすめるからだと言うんです。「あの人が言うんだったら買おうか」と信用して買っている。まさに人の個性で売れているわけです。ヒットしている商品やお店を見ると、品質や技術に裏打ちされたそういう動機づけやストーリー性みたいなものを、非常にうまく取り入れていることがわかります。それが他とはひと味もふた味も違う、お店や商品のブランド化につながっているのではないかと思うのです。
<事例1> 鏡のない美容室
ある美容室は入り口に全身が映る鏡があるだけで、お客さんが座る椅子の前には鏡がありません。その代わりに大きなスクリーンがあって、カットやパーマをしてもらっている間、映画や音楽CGを見たりできるようになっています。常識では美容室に鏡は不可欠だと思うでしょうが、オーナーにいわせれば「お客さんはキレイになることが目的で来られるのであって、私たちはそのためのプロです。だったら、お客さん自身がずっと鏡を見ている必要があるんですか?」というわけです。できあがった後に全身を映して見て、似合っているかどうかを確認してもらえば十分という考え方なんです。特にカリスマ美容師というわけでもないのに、その美容室の年間の予約はいっぱいで、女性客だけでなく男性客も多いといいます。
技術に対する自信と、プロとしてのこだわり、お客さんに対するしっかりしたカウンセリング技術が、「鏡のない美容室」という強烈な個性となってお客さんにアピールしている好事例といえます。
お客さんの心理を読んで、「うんちく」を語れるように!
最近のお客さんの特徴は、モノやサービスを買ったり選んだりするときに、必ず比較しているということです。インターネットや雑誌、口コミなどの情報を駆使して比較するという技術は、ひと昔前のお客さんとは比べものになりません。その中から、たった1つを選ぶわけですから、お客さん自身も「なぜこの商品なのか」「なぜこの店なのか」を自分に納得させられる理屈を欲しがっているんです。そうしますと、単に「品質がいいですよ」「サービスがいいですよ」だけでは弱い。そこに独自の「うんちく」がないと、お客さんにとっては物足りないということになります。皆さんも購入者の場合、例えばA社・B社・C社のパソコンがあるなかでなぜその製品を選んだのか、イ店・ロ店・ハ店のなかでなぜその店に吸い寄せられて買ってしまったのかと考えたときに、無意識のうちにしろ、何かしら自分なりの理屈をつけていると思うんです。
じゃあ、お客さんに思わず購買行動を起こさせるような効果的な「うんちく」をどうやってつくり上げていくかですが、ひとつは自分です。自分が欲しいもの、自分で感じたこと、自分が体験したこと、つまり自分の五感で実感したことがすべてのベースになりますし、お客さんに対してもいちばん説得力があります。ですから、日常生活や日々のお商売のなかで、新しい発見や体験をする楽しみをたくさん持っている人ほど、お客さんがパワーを感じたり、おもしろいと思える「うんちく」をつくり上げられるのではないかと思います。原点は、好きなモノやコトを好きなように。「こんなん、おもしろいんやないかな→喜ばれるんやないかな→売れるんやないかな」という積み重ねが、しだいに大きくなって繁盛につながるというケースがたくさんあるんです。
もうひとつは、やっぱりお客さん。大切なことはみんなお客さんが教えてくれるものなんですね。常にお客さんの顔をじっくり観察し、お客さんの声に耳を傾け、お客さんの立場で物事を考えていれば、今どんな「うんちく」を欲しがっているのかがわかるはずです。
<事例2> 今晩のおかず「何にしよう」に応える魚屋
何代か続いている魚屋さんが食品スーパーに業態を変えて何店舗かつくったんですが、大手スーパーの進出により縮小せざるを得なくなりました。その機会に、よくよく自分のところのお商売を見直してみると、野菜も肉も他の商品も扱っていたんですけれど、結局「うちの店は魚で持ってる」ということに気がついたんです。なぜ魚部門だけが売れるのかというと、ノウハウがあるから。つまり魚に関しては、奥さんたちの「今晩のおかず、何にしよう」に応える「うんちく」を豊富に持っていたからなんです。そこで早速、それを形にしました。魚を使った和洋中の料理のレシピを1000種類くらい作ったんです。そしてさらにお客さんをよく見ると、高齢者もいれば働いている主婦もいる。わざわざ店に来てもらわなくてもすむようにと、刺身から佃煮まで出前することにしました。ご家庭でお祝い事などがあれば店の大皿に盛り付けて演出もします。今では、他の魚屋にもノウハウを提供して、共同仕入れと顧客管理でデリバリーシステムをつくっていこうとしています。それもこれも、魚屋の「うんちく」という強みを最大限に生かした結果なんです。
店は「見せ」続けることで繁盛する
ご近所で気がついたら店がなくなっていたということがありませんか? 更地になった跡を見て、「さて何屋さんだったかな」と考えてもなかなか思い出せない。お客さんというのはそれくらい忘れっぽいし、移り気なものなんです。何も工夫をしないで従来どおりのやり方を続けていると、毎年1割くらいお客さんが減っていくという説があるくらいです。
ある会社社長とその友人の事例ですが、友人の方は電器屋さんで、いつも社長と一緒にゴルフに行ったり、勉強会をしたりというおつき合いをされていました。ところが、社長が大型テレビを、その友人から買わずに他の店で買ったので「なんでうちで買うてくれへんねん」と怒ったんですよ。すると社長は「そやけど君は自分がこんな商売(電器屋)をしてると1回も僕にいわへんかったやないか、なんとなく電器屋をしてることは知ってたけど」といったわけです。その電器屋の彼が偉いと思うのは、そこでハッと気がついたというんです。身近な人にさえ自分の商売のことをきちっとアピールできていなかったと…。
お店を構えて商品を揃えていたら、なんとなくお客さんが見てくれている、知ってくれていると思っていたら大間違いです。自分のほうから積極的にアピールしたり、発信したりして、商品なり、技術なり、サービスをお客さんに見せ続けていかないと、すぐに忘れられるし、いざ買おうとしたときに「あの店」「あの商品」と思ってもらえません。お客さんはあくまでも自分の都合やタイミングで購買されるわけですから、どうやってそのタイミングにピタッとフィットして、自分の店で買ってもらえる条件をつくっていくかとなりますと、やはり日常的に見せ続ける努力をするしか方法はないんです。
<事例3> インターネットで見せ続ける
スーパーや商店の包み紙や袋を扱っている京都の包材屋さんが、ホームページを立ち上げて、自店で扱っている商品のネットショップを始めました。関東のほうからもたびたび注文が入り、担当者が商品を送っていたら、そのうちにお客さんのほうから「京都の店だったら、こんなものができないか?」「こんなものを探してくれ」という要望が寄せられるようになりました。それを担当者がまた懸命に探したり、試作して商品化したりしているうちにだんだん大きくなりまして、実店舗の売り上げの2倍くらい稼ぐようになったんです。
今のお客さんは、ピンとくるものには労をいとわず必ずアクセスします。このお店は、自分のところの商品をネットショップという形で見せ続けることで、京都に実店舗があるという信用とあいまって、結果的には新規顧客の開拓に加え、商売の幅を広げることにも成功したわけです。
同じようにインターネットで見せる場合でも、店舗にお客さんを誘導するという方法もあります。陶器産地のお店なんですが、そこはホームページで「こんな陶器がありますよ」と見せて、全国のお客さんから問い合わせがあると、まず「何に使われますか?」「どういうものがご希望ですか?」と聞くのだそうです。その上で、高額のものですからぜひ実物を見てくださいと。作家ものがよければ作家を紹介するし、窯元も紹介するので、ぜひお店に訪ねて来てくださいとすすめるんです。わざわざ来てくださったお客さんは必ず買われるし、そのときには必ず金額が膨らんでいるといいます。この方法は京都には非常に有効だと思います。
<事例4> 生チョコをワゴン販売
京都のチョコレートメーカーですが、せっかく京都にはこれだけたくさんの観光客が来てくれるんだから、自社で開発した抹茶の生チョコレートを直接販売しようと考えたんです。そこで人が集まる観光地に、あるお店の軒先を借りまして、60センチ×70センチほどのワゴンを出して、女性を1人つけて売り始めたんです。やり方は試食販売です。通りがかりの人に声をかけて食べてもらい、気に入ったら買ってもらう。京都の抹茶の生チョコが、しかも、普通ならショーケースのなかでしか見られない生チョコをワゴン販売で試食してもらうという方法が受けたんでしょうね。めちゃめちゃ売れる。それだけにとどまらず、後からもどんどん注文が来る。そのうちに宇治のお茶メーカーから扱わせてほしいという話がきました。
この会社はもともとメーカーなわけですが、ワゴンを使った試食販売という形で、お客さんに直に自社の商品を見せてアピールすることによって、グルッと一巡して、メーカーとしての取引も拡大するという好循環になったわけです。
実のある購買促進のしかけとは
モノが有り余っている今の時代に、それでもモノを売ろうとすれば、特別な売り方、お客さんに特別な「得」を提供するサービス、あるいはお客さんがわくわくドキドキするような仕掛け、自分の店ならではの「うんちく」を開発することが重要なポイントになります。しかし、それらをお客さんに知ってもらわなければ、何もしていないのと同じです。これからは、たくさんのお客さんに注目されるような方法を考えていかないと、先細りにもなっていきかねません。個店の場合は、日々の仕事に追われて、これまで案外そういう努力がおろそかにされてきたんではないでしょうか?
やっぱり「お客さんあっての商売や」ということを、もう一度、お店創業の原点から見直していただいて、「気がついたらお客さんがいなくなっていた」というようなことがないように、店舗や商品、品揃え等々を、チラシやDM、インターネットなどあらゆる機能を駆使して、お客さんとの新たな接点やルートを開発していっていただきたいと思うのです。 なぜなら、そうしてご自分のお店や技術やサービスを見せて見せて見せ続けることこそが、変化するお客さんの心を確実につかみ、実のある購買促進につながる秘訣だと考えるからです
(平成14年10月24日(木) 講演より) |