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タイトル 繁盛店はおかみさんが元気!
講 師
 京都新聞社 編集&論説委員 早内高士 氏
●プロフィール
1965年同志社大学 文学部卒業。
京都新聞社に入社し、文化・社会・政経各記者を経て、運動部長、特報部長、編集局次長を歴任。現在は、編集委員兼論説委員として、「凡語」や「おこしやす、京の女将さん」などを執筆中。
京のおかみさんは日本文化の担い手である

 京都新聞の夕刊の一面で「おこしやす 京の女将さん」を連載しております。おかみさんというと、一般的には料亭や旅館の女主人のことですが、今回の連載では京都の観光の最前線でがんばっておられる女性をとり上げようということで、商店街のおみやげ屋さんなど物品販売をなさっておられるお店の方にも登場してもらっています。
 着物姿のおかみさんが毎日カラーで登場しますので、新聞社にも電話やファンレターをたくさんいただきましたし、おかみさんご本人のところにもずいぶん反響があったようです。延べ111人のおかみさんに取材してみてまず思うのは、当たり前のことですが、おかみさんもいろいろおられるということ。記事には書いていませんが、実際には「アレッ」と思う予想外の驚きと、喜怒哀楽を経験しました。
 例えば、何回もお店に電話を入れているのに、従業員が「おかみさんはいやはりまへん」と言うだけで連絡が取れない。「いつごろ帰られますか?」と聞いても「わかりまへん」という答えが返ってくる。普通の家の子どもでも、電話を受ければ「〇〇さんから電話があった」と伝えるぐらいはするものですけれども、そういう基本的な教育ができていないところが、意外に老舗のなかにもありまして、ちょっとびっくりさせられました。
 新聞記者というのは、自分が書いた記事の反響はどうだったのかと気になるものなんですね。ところが、記事が掲載されても反応がなく、電話一本もない。旅館や料亭、小売業というのはサービス業のはずなのに、なかにはそういう心配りのない方もおられます。
 けれども、ほとんどのおかみさんは、非常にがんばっておられます。お礼の葉書をいただくと、それは例外なく字が上手です。きっと年中お客さんに礼状を書いておられるからでしょう。また、多くのおかみさんは古い伝統的な建物で商いをしておられるので、その建築様式や、陶器や漆器、掛け軸といったしつらえなどについて、とてもよく勉強しておられます。また、身につけるものについても、四季折々どころか毎月のように着物から帯、小物まで変えてお客さんの目を楽しませておられます。
 いわば京のおかみさんというのは、歴史家であり、美術・芸術家でもあり、茶の湯や季節の草花木を愛で、書画をたしなみ、伝統的に京都文化の守り手であるわけです。

伝統を脈々と受け継ぐおんな町・京都の象徴

最近は発想の転換ということがよくいわれます。私は旅の原稿もあちこちに書いておりますが、石垣島で会員制のクラブを取材して驚いたのは、従業員がお客さんと一緒になって食事をし、遊ぶんですね。楽しむのはお客さん、もてなすのは従業員という従来からの固定したスタイルをガラッと変えて、従業員もお客さんと一緒に楽しむことによってもてなすというスタイルなんです。さらに、家族連れのお客さんの場合は、あえて家族を引き離すわけです。子どもは子ども、奥さんは奥さん、ご主人はご主人でそれぞれに楽しんで、夜だけ部屋で家族が一緒になる。そういうまったく新しい発想の、ここにしかないスタイルのリゾートなんです。
 しかし、考えてみますと、京のおかみさんというのもまた、ちょっと他所にはない京都ならではのものだと思うんですね。私は島根県出身で、大学時代からずっと京都に住んでいますが、つくづく京都はおんな町だと感じています。山並みも女性的ですし、従来からの主力産業である繊維業界でも女性がしっかり働いている。そのおんな町の象徴が、おかみさんです。
 そもそも、京都の伝統工芸の世界を支えていた徒弟制度が戦後崩壊しまして、後継者の育成が困難になりました。息子連中の多くは大学に行って就職しますから、技の伝承ができなくなっているんです。そういう時代背景のなかで、日本の伝統的な暮らしを支えてきた良い面まで捨て去ってしまった。それが、今日の日本の社会にいろんな歪みが出てきている原因のひとつではないかと思います。
 しかし、唯一おかみさんだけは、今もなお昔ながらの徒弟制度を守っているたいへん貴重な存在だといえるでしょう。何百年も続いているようなお店には、その家なりの家訓やしきたり、伝統があります。それを家付き娘さんだけではなしに、外から来たお嫁さんであっても徹底的に仕込むことによって、次の世代へと脈々とつないでいます。日本が昔から培ってきた伝統の良さを、そのまま守っていくというシステムが、京のおかみさんの間に残っているわけです。

嫁さんも立派な京おんな、信頼して潜在能力を引き出せ!

 「女将さんシリーズ」は、次の時代を背負う女将をとり上げようということで、基本的には若女将に取材をお願いしたのですが、なかには若女将と大女将が二人で登場しているケースもあります。若女将がお嫁さんという場合に、二人登場が多いんですね。
家付き娘さんの場合は、「もうあんたの代やから私はよろし」と、大女将が娘さんを立てます。ところが、お嫁さんの場合は、「これまで私が女将としてがんばってきたのに、途中から入ってきた嫁さんに女将面されたらかなわん」ということでしょうか? 必ず大女将が一緒に出てきます。今回の取材ではそういう女性の意地を目の当たりにして、京おんなのすごさや迫力というものをあらためて感じました。
 しかし、お嫁さんも負けてはいません。40歳代の後半くらいになって、旦那や大女将に劣らないような実力を身につけた頃から、ご自分の色を出すようになります。京の女将さんをずっと取材していますと、非常に熱心に家業に取り組み、どんどん新しいことにチャレンジしているのは、実はそういう他府県から嫁に来られた女将に多いんです。家族のきずなで伝統を守りながらも、お嫁さんという新しい血を入れて、革新し、活性化を図っている。そのあたりが京のおかみさん商法の強みではないかと思います。

おかみさん商法にならって、もっと奥さんを前面に

 私は、個人商店のご主人はもっと奥さんを活かしたほうが得策やないかと思うんです。京都はおんな町、おかみさんが主役です。そのおかみさんを外に出さずに、店番だけさせておくのではもったいない。今の時代は、女性の感性や活気が商売に不可欠になっています。もっと前面に出して、異業種・異世代の集まりにどんどん出て行ってもらって、今までと違った新しい知識と知恵を吸収し、自分流の個性を表現することが、商売繁盛につながります。
 取材したおかみさんたちを見ましても、外に出ている人ほどお店にいろんな情報を持ち帰っています。話をしていても話題が豊富で、面白く、機微に富み、これが接客につながっているのだなと感じます。個人商店の場合は特に、家族全員が戦力にならないとやっていけません。ご主人の感性だけではなく、奥さんの感性も取り入れて、足らないところを補い合うことがこれからはますます重要になってきます。
 かくいう私も、この歳になりますと、デスクも私が書いた原稿に何も文句はつけませんし、チェックする人がいません。ですから、嫁さんに見せるんです。そうするとだいたい、「ちょっとひねりが足りない」とか「こんなん当たり前や」とか、ぼろくそに言いますね。私にとっては、嫁さんがいちばん貴重な読者であり、デスクでもあるんです。

「個」の時代には、個性を磨いて生き残ることが大事

 今は銀行でもデパートでも簡単に潰れる時代です。小泉首相が構造改革と言ってますけれど、それを待つまでもなく世の中はどんどん変わってきています。先日も、園部町にある伝統工芸専門学校を取材したんですが、最近になって30歳前後の大手企業のサラリーマン出身者が、手に職をつけるために入学するケースが増えているそうです。親や周囲が有名大学に行けと言うから行って、大手企業に就職してみたものの、「やっぱり自分には向いてない、ものづくりがしたい」と専門学校に入り直しているんですね。
 これまで肩書で仕事をしてきた40歳代、50歳代の人が、どんどんリストラにあっている今日です。家族的経営で知られる松下電器でさえ、定年まで松下にいようと思うような社員はいらないと言ってるくらいです。寄らば大樹の陰という時代は、完全に終わったのではないかと思います。
 これからは本格的な「個」の時代がやってきます。では、組織にしろ商店にしろ、そのなかで生き残るにはどうすればいいか。誰でもできる、どこにでもあるというありきたりのものは、もう通用しません。余人をもって代えがたいというものをいかに身につけるか? 自分にしかない個性をいかに磨くか。そこが勝負になります。
 京のおかみさんも、特にお嫁さんは個性派が多いですね。もとスチュワーデスさんから、バスガイドさん、学校の先生。準ミスインターナショナルという方もおられました。そういう多彩な方が、老舗の旅館や料亭に飛び込んできて、伝統に新しい個性を付け加えて、溶け込み、根付かせて、更に発展させる推進力になっているんですね。
 人間は一人ひとり、他にはない特性を持っているわけですから、個人商店のおかみさんももっと自信を持って、いろんな場に積極的に出て行くことです。そんななかから個性が磨かれ、ひいてはそれがお店の活性化につながるのではないでしょうか。
 
魅力的な女将さんのいる店は繁盛している!

  おかみさん稼業というのは、人を売っている最たるものです。個の時代は、モノを売るのではなく、人を売る時代なんですね。個人商店の場合も、そこにしかないものは何かといえば、やはり人だと思うんです。これからは、お店のご主人やおかみさんの人柄や個性が、商売繁盛の鍵を握っています。
 個の時代というのはまた、モノよりも心の豊かさを求める時代でもあります。これはずっと前からいわれてきましたけれど、この不況になってはじめて、やっとモノよりも心の豊かさが追求されるようになってきました。
以下取材を通して個性あるお店を紹介しますと、

〇明るくて、笑顔のすてきなおかみさんのいる店は繁盛しています。おかみさんの笑顔が従業員に広がり、お客さんまで心が浮き浮きして来ます。夏の川床で知られる貴船の料理旅館では、玄関先で大勢の従業員に出迎えられました。取材だから特別な演出なのかと思いましたが、若いカップルやリュックを背負った熟年グループまで、お客さん全員を手の空いた従業員の笑顔で出迎えていたのです。さらに、通りがかった障害者ハイキンググループを店に招き入れてお茶やジュースを振る舞っていました。なかなかできないことですが、聞くとおかみさんが地域の福祉ボランティアをやっておられるとのこと。笑顔のボランティアは、きっと口コミで広がり、先々の店の繁盛につながることと思います。
 
〇かゆいとこまで手の届くサービスもあちこちのおかみさんに見ました。JR京都駅前の修学旅行主体の旅館では、京都市内で自由研修を終えた各グループを、玄関で一時間余りも立ち続けて出迎える姿に感動しました。夜中も生徒の急病に備え、寝ずの番をして、もう幾度も救急車に同乗したとのことです。世話をした生徒の親からのお礼の手紙が店の宝だといわれます。親や、成人した生徒が家族づれで来店された時は、涙が出るくらいうれしかったと話してくれました。
 
〇家族づれの小さな子供たちに折り紙を折って旅の小さなみやげにしている旅館もありました。サービスは何も料金を安くするだけではありません。お金では買えない、ちょっとした心のもてなしが、利用者の心をつかむことだってあるのです。子供のたどたどしいお礼のはがきが大事に取ってありました。

〇お客さんが着かれた夜に、必ず宿泊のお礼の手紙・ハガキを書きつづけている高台寺の和風旅館のおかみさんもいました。京都観光を終えてわが家に着いたとたんに「もうお礼状が来ている」と手紙を手にした時のお客さんの喜びはいかばかりか。「鉄は熱いうちに打て」といいますが、まだ旅のときめきが覚めやらぬときに手にする手紙の効果は抜群です。
 
〇東山の石部小路の老舗のちいさな旅館では、夕食抜きの片泊まりを売り物にしています。朝食は庭園の見える離れで、お客さんの希望する時間に湯どうふ朝食でもてなしています。「店の都合でなく、お客さんの都合にあわせ、とくにプライベートタイムを大切にしてあげたい」というおかみさんの心配りが、個の時代に生きています。お客さんの要望があれば、付近の料亭の紹介はおろか、同行してつき合うという、まさに美人女将の究極のサービスです。
 このように、大手ではできない、おかみさんの個性を生かした個人店ならではのもてなしが、お客さんのハートをとらえています。建物や料理などのもてなしのハード面もさることながら、また訪ねてみたいと思うのは、従業員やおかみさんの笑顔のもてなし、真心のこもったソフト面のサービスではないかと思います。

地域社会の核となる商店街を目指せ

 私は、ひとつには学校、もうひとつは地域の暮らしを守ってきた商店街、この2つが地域社会の核だと思っています。今後もそうあり続けるためには、商売でお忙しいでしょうけれども、商店の方々が地域のボランティアに参加することが大切なことではないでしょうか?
 私は、自治連合会の副会長やら、郷里の県人会やら、京都市の体育協会の世話やら、現在12くらいのボランティア活動をやっています。おかげで土・日は行事などでほとんど潰れてしまうのですが、いろんな場に出て行けば職業も経歴もまるで違ったさまざまな人達に出会うことができますし、多様な話題に触れることができます。私の場合は、それがそのまま取材のアンテナになっているわけです。
 常に多方面にアンテナをはり巡らせておくことの重要性は、商売をなさっている個人商店の方もまったく同じではないでしょうか。今、京都の自治連合会は、古くから住んでいる人と新しく入ってきた人とが競合して、融合がなかなかむずかしい時期にさしかかっています。そのなかでも、体育振興会や女性会といった団体の核になって引っ張っているのが、個人商店のおかみさん達なんですね。女性がもっともっと地域のボランティアで活躍し、地域社会そのものが活性化すれば、それが商店街の活性化にもつながるのではないかと思います。

新しいむかし暮らしを楽しむ時代へ 

京都市では今、低公害で環境にやさしく、乗り心地のよい次世代型路面電車をもう一度走らせようという運動があり、何年か後には実現するだろうと私は思っています。昔に戻るのではないのですが、多少の不便さはあっても昔の暮らしのいいところは残していこうじゃないか。“懐かしいむかし暮らしを楽しもう”という、そういう風が今吹きはじめています。戦後、暮らしがすっかりアメリカナイズされましたが、ここにきてもう一度、日本の文化を見直そうという機運が、いろんな分野で出てきています。これは、京都にとって非常に大きな追い風だと思います。
 そして、これからは社会の高齢化が進んでまいります。大型店はモノはたくさん揃っているけれど、高齢者にとっての心の豊かさということから考えますと、やはり味気ない。「大きいことはいいことだ」とか、横並びでみんなが儲かる時代はすでに終わり、モノより心の豊かさを求め、新しい暮らしを楽しむ時代が到来しております。しんどい時期ですが、日夜個性を磨き、自分流の店をやり、お客様には親切に、フェイス・トゥ・フェイスの温かみのある商売をやっていけば、高齢社会、個の時代には、必ず個人商店が必要とされ、生き残るものだと確信しております。

(平成13年10月11日(木) 講演より)

講 師
京都新聞社 編集&論説委員 早内高士
電 話
075−241−5234 
FAX
075−241−5938 
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