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タイトル なぜこんなに売れるんだ!
講 師

経済キャスター  西村 晃 氏

●プロフィール
早稲田大学卒業。NHKに入局、『モーニングワイド』の経済キャスター、『NHKスペシャル』の制作などを担当。テレビ東京移籍後は『ワールドビジネス・サテライト』の編集責任者・キャスターを務める。96年独立後は執筆・講演など幅広く活躍中。『ポスト・イット知的生産術』『ルート16の法則』『なぜこんなに売れるんだ』等々の著書多数。
不況とは言うけれど…

売れないのはほんとに不況のせい?

私は年間300回の講演で、北は北海道から南は九州まで歩いております。あちこちでいろんな人とお会いするわけですが、必ず聞く言葉が「景気が悪い、何とかしてほしい」。なるほど、ものが売れない理由はたくさんあるようです。でも、ちょっと考えてみてください。売れない理由は、ほんとに景気が悪いせいだけでしょうか?
「売れないのは自分が悪いんじゃない! 景気が悪いからだ」といって安心しているところがありませんか?

商売はアイデア!
★ 暖冬にコートを売った『丸井』
 この国ではよく、暖冬だからものが売れない、冷夏だからものが売れないと言います。一見、正しいように思えるけれど、よく考えてみるとやっぱりおかしい。だって、この10年間、ずっと暖冬なんですから。京都で地球温暖化防止会議をやったじゃないですか。ということは、もう寒い冬は来ないという前提で準備をしないとプロじゃない。
 関東周辺にクレジットの『丸井』という会社があるんですが、この『丸井』は2年前、メンズコートの売上げを前年比50%も伸ばしています。どうしたと思いますか? コート売り場をやめて、スーツ売り場にコートを持ってきたんです。そして、グレーのスーツにはこの色のコート、ベージュのスーツにはこのコートが合いますよ、と重ね着のディスプレーをしたんです。
 つまり、防寒具としてのコートではなく、ファッション衣料として売ったわけです。「なんだ、そんなことか」と思われるかもしれませんが、暖冬だからコートが売れないと嘆いている人が多いなかで、「もはや寒い冬は来ない」という前提で対策を練った段階で勝ちなんです。

★ 「景気快福ケーキ」で景気を回復
 JR東日本の東北新幹線や上越新幹線の車内で売っている大ヒット商品があります。私がそれを知ったのは1年ほど前のこと、東京駅を出て上野を過ぎたあたりで、車内販売のアナウンスがありました。「ただいまからお土産品の販売を始めます。草加せんべいに人形焼き、雷おこしに、景気快福ケーキをご用意しております」。景気快福ケーキ!なんだこれは、と思いました。「この景気快福ケーキは、赤坂山王神社で商売繁盛を祈願したときにいただいたお神酒にスポンジケーキを浸したもので、1本1000円でございまーす」。
 平日の新幹線に乗っているのは出張族のサラリーマンです。得意先になにかお土産を持っていかないといけない。みんなワゴンが来るのを待ちかねていたように、千円札を握りしめて買うんですよ。その売り上げが、毎日2000本。景気カイフクといっても、リカバリーじゃなくて、快く福を呼ぶ。いいじゃありませんか、このネーミング。
 六本木のケーキ屋さんが最初はシャレで始めたそうですが、それが話題になってJRの車内で売ることになり、そればかりでなく企業からお中元やお歳暮、パーティーの引き出物にと注文が殺到しています。商売はアイデアだと思いませんか?「不況だから…」というのはアイデアがない人の言うことです。景気は自分でよくするものなんです。


今のお客さんの特徴を知ってますか?
★ 情報感度が高く好奇心が旺盛です!

 いまのお客さんは、移動性消費者です。もちろん、車に乗って郊外のショッピングセンターに行くというのも移動性ですが、それだけではありません。『ジェイアール京都伊勢丹』ができた3年前の9月11日、私は兵庫県の豊岡駅で市場調査をしていました。地元の商工会議所に頼まれて、京都から来る山陰本線の特急列車から降りてくる人を調べていたのですが、なんと驚くことに、降りてきた乗客のほとんどが『京都伊勢丹』の袋を提げていました。京都から豊岡までの距離は150キロ。いまの消費者は、電車を使ったって150キロくらい平気なのです。ただ、これはずっとは続かない。何かあるとまずチェックしに行って、それから判断する。好奇心旺盛、情報感度が高いというのが特徴です。
 ですから、京都市内のお店も知っていれば、郊外にできた『洛南ジャスコ』や桂の『ダイエー』や六地蔵の『イトーヨーカドー』や、あるいは大津の『パルコ』や大阪の梅田やミナミや、神戸の垂水のアウトレットショップもみんな知ってるんですよ。その幅広い選択肢の中から、あえて大枚はたくときはどこで買うか決めるのです。お買い物はいつも地元で、などという義理と人情は持っていません。これは全国的な傾向です。

★ 雑貨屋は一つのショッピングモール!
 もうひとつの特徴は、昨今はやっている店を見ればわかります。無印良品、100円ショップ、ソニープラザ、モノコムサ‥‥みんな雑貨屋です。例えば、渋谷にある若者に人気の『ビームス』という服屋の売り場では、シャツやパンツや帽子や靴などが、一見、雑貨屋ふうに雑然と置いてあります。お客さんはその中から、シャツはこれ、パンツはこれ、靴はこれ、カバンはこれというふうに選んで、ひととおり身につけてから鏡を見るんだそうです。この店の社長はこう言います。「いまどき明日着る服がなくて買いに来る客はいない」。じゃあ、なんのために来るのか? 彼らは単品のシャツやパンツを買いに来ているのではなくて、ビームス・ファッションを買いに来ているのです。

★ 「何かないかな?」を探しにお店に行くんです!
 もうひとつ、もとは福井県武生の家具屋で、いまや東京や大阪にどんどん進出している『フランフラン』という店があります。この店は白を基調としたヨーロピアン家具を中心にして、その雰囲気に合ったカーテンやスリッパ、文房具に至るまで、部屋中の雑貨をひとつのコンセプトで売っています。そのなかにある時計は、まさに部屋の飾り。時刻を知るという本来の機能だったら、ビデオデッキや電子レンジや電話器など、どこにでも付いています。じゃあ、それでもあえて欲しいと思う時計は何かというと、インテリアとしての時計。だから、最近は時計を雑貨屋で売ってるんです。
 いまの日本の消費者に、どうしてもないと困る、どうしてもこれが欲しい、というようなものがあるでしょうか。そんなものはないから、みんな「何かないかな」とお店に探しに行くのです。そういう消費者の心理を読まずして店づくりをしていては、おのずから限界があります。


マーケティングって『買う気のない人に買わせる知恵』なんです

 『トヨタ』や『ソニー』や『松下』には、マーケティング部なんていう部所があります。じゃあ、個人商店にマーケティングは関係ないのかといえば、あるんです。なぜなら、マーケティングとは、買う気のない人に思わず足を止めさせて買わせる仕掛けづくりだからです。

★ クリスマスに赤い下着が売れたわけ
 いまから4年前のクリスマス、見事な例がありました。場所は大阪・灘波の『高島屋』。ある日、3階の女性下着売り場に、こう書かれた1枚の看板が立てられました。「北イタリアではクリスマスに赤い下着を贈り、それを身につけて新年を迎えると幸せが訪れるという」。唐突ですよね。だいたい「北イタリアでは」というけれど、ここは大阪・灘波です。「幸せが訪れる」というけれど、考えてみれば何の根拠もないでしょ。しかし、効果はてきめんでした。クリスマス前の1週間で、赤い下着が200万円売れました。日本の女性はそんなに赤い下着なんか身につけてませんよ。それまで灘波の『高島屋』では、赤いショーツは月に1枚も売れていなかったのです。明らかに、無から有をつくったわけです。
 翌96年クリスマス、味をしめた売り場は、赤い下着をつけたセクシーな女性のマネキンを登場させた。今度は500万円売りました。それを夕刊フジがかぎつけて、1面トップで「赤い下着ブーム」とやったら、東京中の百貨店が赤い下着だらけになっちゃった。翌97年クリスマス、私は北は北海道の『丸井』前から南は九州・鹿児島の『山形屋』まで、日本中の百貨店で赤い下着のディスプレーを見ました。『ワコール』や『トリンプ』などのメーカーが動き出したからです。いまや百貨店だけでなく量販店も含めて、赤い下着は全国の風物詩になっています。このブームは、灘波の『高島屋』に勤めているひとりの女性バイヤーのアイデアからスタートしたのです。

★ ホワイトデーはこうして生まれた
 考えてみれば、バレンタインだってホワイトデーだって、最初はそんなものからスタートしてるんですよ。
 博多に福岡銘菓・鶴乃子というマシュマロのお菓子を作っている店があります。バレンタインのお返しにマシュマロを贈るというホワイトデーを考えたのは、『石村萬盛堂』という店の息子で、いまの社長です。3月14日には何のいわれもありません。最初は2月14日をひっくり返して4月12日にしようかと考えたんだけれど、それだと自分でも忘れちゃうと思ったから1カ月後の3月14日にしただけ。なぜマシュマロかといえば、鶴乃子と原料が同じだから。なぜホワイトデーかというと、鶴が白いからです。たったそれだけのことを、地元の百貨店の岩田屋と組んで全国的なブームにして、現在に至っているわけです。

★ 大黒様の福袋!?
 もうひとつ、わかりやすい例をあげましょう。私は毎年のように、1月1日の元日営業がどのように行なわれているのか見学に行きます。元日に店を開ければいいというものではないんですよ。おざなりに大晦日と同じような品揃えで店を開いてもだめです。しかし、私が今年行ったスーパーは違ってました。店に入ると赤い毛せんを敷いた舞台がつくってあって、その上にお正月恒例の福袋が並んでいます。担当者はみんなハッピを着て鐘なんか持って、実にやる気満々。驚いたのはその福袋です。紙の袋じゃなくて、大黒様がかついでいるような白い布製の大きな袋なんです。値段は1万円。「中に何が入ってるんだろう、おもしろそうだな」。そう思った人がたちまち行列をつくります。もちろん私もそのひとり。いよいよ順番がきて、選んだ袋を持ったんですが、これがまあ重いのなんのって。よろよろよろけますから、そのユーモラスな格好を見て、他の人がまた期待を膨らませます。
 商売はこのワクワク、ドキドキ感が大切なんですよね。福袋と書いてあるだけのただの紙袋がワゴンに置いてあったって、もうマンネリだから、お客さんは中を覗いていいものが入っていないとやめちゃう。これでは全然有難みがないでしょ。
 さて家に帰ると、母と家内が電卓を持ってきて福袋の中身の品評会を始めました。入ってたのは、電子血圧計、電気敷き毛布、ミニコンポ、圧力鍋、そしてこれがすごいと思うんですが、「あきたこまち」5キロ。重いのはこれだったんですよ!推定価格は4万5千円でしたが、それ以外にこの福袋はわが家に初笑いまで提供してくれたんです。
 
★ 私に正月から冷蔵庫を買わせたスーパー
 翌2日、わが家はまたそのスーパーに行ってしまいました。前日にもらったチラシを見て、「今度はこれにしよう」と決めたのが15万円のコース。今回のは福袋とはいってもチラシにちゃんと商品がのっていて、松竹梅の各コースから1品ないしは2品選べることになっている。はっきり言えば、福袋の名を借りたカタログ販売ですよ。でも、前日の推定価格4万5千円が効いてるから、絶対に損はないと思うわけです。
 店に行ってみると、すでに15万円の売り場にはすごい行列ができていました。わが家が選んだのは、東芝の最新型4ドア冷蔵庫と松下のオーブングリルレンジ。この2品で15万円でした。間違いなく言えることがひとつあります。うちは冷蔵庫なんか買う予定はなかったんです。だいたい冷蔵庫なんて、前の冷蔵庫が壊れたときとか、家を直したときに必要に迫られて買うわけでしょ。それを正月に、しかも行列までして買おうとは普通考えないですよ。
 このスーパーがすごいのは、それを正月に売ろうという発想。そして買う気のなかった私に冷蔵庫を買わせたのは、あの「あきたこまち」の5キロです。

商売繁盛のヒントは
「リンダ」「ひばり」「水前寺」


 リンダとは何か?「うわさを信じちゃいけないよ」。ひばりとは何か?「勝つと思うな、思えば負けよ」。水前寺とは何か?「人のやらないことをやれ」。経営者は毎朝、この3曲を唄っていただきたいと思います。
 「うわさを信じちゃいけないよ」とは、お客様とライバルを客観的に分析せよということです。「勝つと思うな、思えば負けよ」とは、過去の成功体験に引きずられるなということ。「人のやらないことをやれ」とは、新しいマーケットを切り開けということ。どうですか、商売繁盛の秘密がちゃんとあるでしょう。

★17坪の酒屋が年商3億円!!
〜ライバル店を徹底分析〜

 東京郊外の大住宅地、町田に17坪の店で年間3億円を売り上げる『蔵屋』という酒屋があります。幹線道路には酒のディスカウンターがあり、駅前には百貨店だけで3店、スーパーもあればコンビニもお酒を扱っています。なのにどこにでもあるわずか17坪の酒屋が、なぜ3億円を売り上げられるのか。
 その秘密は、ライバルのディスカウンターに何度も買い物に行って分析し、その特徴を見抜いたことです。まず、普通の酒屋が普通に商売をやっていると、売り上げの7割がビールだそうですが、ディスカウンターの場合はビールが販売比率の9割になることに気がつきました。車で乗りつけてまとめてケースごと買っていくお客さんが多いからです。
 次に、店内ではほとんど会話がない。これは酒屋に限らず、ディスカウンターというもののひとつの特徴です。レジにいるのはアルバイトやパートですから、世間話をするような雰囲気はありません。したがって、広範囲からお客さんが来ているように見えて、実はほとんどのお客をつかんでいないということに気づいたのです。

〜ライバル店のあいろ隘路をつく〜
 だったら、それをひっくり返したら勝てる、と蔵屋は考えました。現在、この店ではビールを3割も売っていません。日本酒とワインの専門店にしたのです。ワイン担当のご主人は、そのためにフランス語を学び、フランスに渡り、仕入れ先を開拓しました。日本酒担当の奥さんは、全国の地酒や古酒を集めてきました。こうして、日本酒とワインの専門店が出来上がったのですが、蔵屋のすごいのはこれから先です。徹底的にチラシをまきました。
 酒屋のチラシというと普通は安売りのお知らせが多いと思うのですが、蔵屋がまいたのはイベントのチラシです。店から少し離れた自宅の大広間を改装して、定休日の日にさまざまなイベントを開きました。
 そのイベントのひとつ、「秋の夜長に日本産ワインを愛でながらピアノソナタを聴く集い」に私も行ってみました。たくさんワインを飲み、おいしい料理に舌鼓を打ち、ピアノソナタの調べにいい気分になったところで奥さんが言いました。「みなさん、いちばん前にいらっしゃるこのカップルは、今日、婚約を決めたんですよ」。いっせいに拍手がわきおこります。それまで何の縁もゆかりもなかった人の集まりなのに、その瞬間から2人の婚約を祝う会に早変わりしました。みんなで酒を飲み、歌を唄い、最後に長渕剛の「乾杯」をみんなで合唱して、4時間半の宴は終わりました。『蔵屋』にとってはその日は商売抜きです。でも、まるで鮭が生まれた川に回遊してくるように、お客さんは必ず店に帰ってきます。

〜会話による情報収集から助言へ〜
 そして、お客さんが店にやって来ると、今度は奥さんが徹底的に会話をするのです。1人のお客さんとの会話が長いので、途中で他のお客さんも入ってきます。すると、すかさず話の仲間に引き込みます。その会話の内容を、パートの主婦がすべてカルテに記載していきます。単なる名前だけでなく、家族構成や酒量や酒の肴の好みまで。次にお客さんがやって来たときに、そのオリジナルデータを基に「どうだった、この間のワイン?」とやるわけです。
 こうして蔵屋のファンがどんどん広がった結果が、売り上げ3億円であります。決して恵まれた酒屋ではありません。もともとの造り酒屋でもない。サラリーマンだったご主人が、病気で会社を追われて仕方なく始めた酒屋です。それがいまでは、全国の酒販組合から商売のヒントを教えてくれと講演の依頼が殺到しています。
 去年、この『蔵屋』は通産省の最優秀小売店に選ばれました。そしてもう一つ、フランス政府がフランスワインを販売促進してくれた人に贈るナイトの称号をご主人が得ました。こんな小売店も、実際にあるのです。

★女子高生に「マツキヨする」といわせる薬屋

〜集客は繁盛のモト!〜
 ドラッグストア業界で圧倒的にナンバーワンの売り上げを誇るのが、この3月に大阪・梅田にもオープンした『マツモトキヨシ』です。店の名前も変ですよね。マツモトキヨシさんというのは、千葉県松戸の元市長で、すぐやる課という課を創設して有名になった人です。その方はすでに亡くなって、いまは国会議員の息子さんが跡を継いでいます。その息子さんに成功の秘訣を聞いたとき、彼はこう言いました。「うちは薬局道に反した店を作ったから成功したんだ」。薬局道という道があるかどうか知りませんが、彼の言うのはこういうことなんです。「いままでの薬局は根クラだ」と。薬局は頭が痛い、歯が痛い、お腹が痛いという人が何かいい薬はないかとやって来るわけだから明るいはずはない。でも、それをやっている限り、頭や歯やお腹が痛い人がそんなにいっぱいいるとは思えないのに、薬局はどんどん増えていくわけだから、ジリ貧になるというわけです。

〜遊べる店づくり〜
 そこで彼は「根アカな店をつくろう」と発想を変えた。「遊びに来てくれ」という店づくりをしたんです。
 関東に650店あるなかで、もっとも売り上げがいいのが渋谷店。売っている商品は、化粧品やシャンプーは当たり前。輸入雑貨にファンシー文具にお菓子にジュース。すでに薬の売り上げは3割を切っています。私は渋谷店の2階に上がってみてびっくりしました。壁面全体が鏡張りになっていて、椅子が置いてある。そこでは、いまテレビでコマーシャルをやっている化粧品が試し放題なんです。百貨店のコスメティックの売り場にセーラー服の女子高生がいっぱい来たりしたらいやがりますが、ここは女子高生大歓迎。だから、夕方になると女子高生の行列ができます。マクドナルドの2階で携帯電話で、「これからマツキヨしようじゃん」。東京では「マツキヨする」という言葉まであります。

〜アイデアは活力!〜
 実はこの渋谷店は、ある噂でテレビで有名になりました。
 マツモトキヨシで買い物する、レシートをもらう、レシートの裏に女子高生が自分の名前を書く、それを店長に渡す、店長が破いてくれる、すると彼氏との仲がうまくいく、という噂です。それを信じて、1000円の買い物をしたらレシートを500円2枚にしてもらって、2回並んでいる人もいます。私はとある講演会でマツモト代議士と対談をしたときに、「あの噂、ほんとは誰が流したの?」と追及しました。マツモト代議士はにやりと笑って白状した。「実は店長が流しました」。
 驚いたのはこれから先。なんと『マツモトキヨシ』はその店長を、その噂を流したがゆえに人事で2階級特進させていました。経済が右肩上がりの時代は、社長の言うことを100%守れる部下がもっとも偉かったんです。ところが、『マツモトキヨシ』という会社では、社長も気がつかなかったアイデアを出した人がいちばん偉いと決めたのです。この会社の活力は、そんなところにあるのではないでしょうか。

〜人を集める工夫〜
 話は50年前にさかのぼります。お父さんのマツモトキヨシさんは、松戸の町でたった1軒の薬局をやっていましたが、その店先にサルを入れた檻を置いたんだそうです。まだ動物園だって復活していない、テレビもやってない娯楽のない時代に、サルが珍しいと近所の子ども達がいっぱい集まってきます。みなさん、薬局の商売とサルとなんの関係があるんだと思うでしょ。
 マツモトキヨシさんは、こんな張り紙を出したんです。「このサルは凶暴につき子ども達の手足を噛みます。だから必ず親子同伴で来てください」。親がわざわざついてくれば、何か買っていきます。すごいなと思うのは、これは昭和20年代の、がんじがらめの規制で守られていた時代の薬局だということ。その時代から、薬以外に人を集める工夫をしていたということ。ここが重要なポイントです。

★『ブック・オフ』って古本屋?

〜因習にとらわれず独自の手法で成功した古本屋〜
 古本屋なんてどう考えても地味な商売なのに、儲かってしょうがないという店がある。それが古本屋チェーンの『ブックオフ』。すでに全国に500店あります。ここは、私達が持っている古本屋のイメージを180度ひっくり返したら繁盛店になっちゃったんです。
 我々が持ってる古本屋のイメージとは、学生街にあって、ちょっとかび臭くて、何となく薄暗くて、店が狭苦しくて、地震でもあったら本棚が倒れてきそうで、なかなか本が見つからなくて、ようやく見つけて立ち読みを始めたら親父がはたきを持ってやってくる。そんなイメージをひっくり返したのが『ブックオフ』です。

〜成功の秘密T〜
 まず立地は街道筋、郊外のファミリーレストランと間違うほど大きな目立つ看板が出ていて駐車場完備。車を止めて自動ドアを入ると、マクドナルドに入ったみたいに「いらっしゃいませ」と若い女性の声。照明は明るく、通路は広く、什器は目線の高さまでに抑えて見通しをよくして、BGMまでかかっています。棚はジャンル別、作家別に細かく分けてあるから、自分の欲しい本がどこにあるかすぐにわかります。
 そして、驚くべきことに、古本屋のくせに本が新しいんです。お客さんから買い取ったときは古本です。でも、そのまま売らない。四隅は特性の研磨機で削り取って洗剤のついた布で表紙を拭き取って、新品同様にしてから棚に入れてある。人口の半分は女性ですが、いままで古本屋の客に女性は少なかったんですよ。本が安いことは知ってるけど、防菌グッズが売れてるこのご時世に、人の手垢のついた古本なんてやっぱり抵抗がある。だから、新品同様の古本を置いただけで、女性客がどっと来たんです。これだけでマーケット2倍でしょ。

〜成功の秘密U〜
 『ブックオフ』には、もうひとつ成功の秘密があります。古本屋には鑑定眼のある、目利きの親父がつきものです。その人がお客さんが持ってきた本を買うべきか、あるいはいくらにするか判断値づけをする。ところが、『ブックオフ』は鑑定をしない古本屋なんです。よほど落書きでもしていない限り、本は全部引き取るんです。買い値は全部1割。定価2000円の本はすべて200円で買い取ります。そして、売り値はすべて5割。1割で引き取って5割で売る。これだったらアルバイトにもできるじゃないですか。つまり、プロを必要としない商売に変えたんです。

〜お客さんにとってのプロたれ〜
 『ブックオフ』の社長は、古本屋のプロじゃありません。もともとの商売は中古ピアノ販売業者。中古のピアノ屋さんというのは、前のお客さんの指紋を徹底的に拭き取るのが仕事です。彼はそれを本に応用しただけなんです。誰だって明るくて気持ちのいい店で、選びやすい本棚できれいな本を選びたいでしょ。誰だって値づけが公明正大なほうがいいじゃないですか。彼がやっていることは、全部お客さんのニーズにかなっている。つまり、彼は古本屋のプロではないけれど、お客さんのプロなんです。でも、彼にとって当たり前のことが、古本屋業界にとっては当たり前じゃなかった。

大黒柱に車をつけよ

 大黒柱は家の守り神、どっしり構えてろと言います。でも、どっしり構えて、うちは地域の一番店だから、老舗だからとふんぞり返っても、お客さんが逃げていっちゃったらどうします?商売をやっていると、いつのまにかおり澱がたまってきます。過去の成功体験を持っているだけに、昔やったやり方で今年も勝てると思ってしまう。でも、お客さんの好みはどんどん変わっているのです。あなたが変わってなくても、お客さんが変わればそれに対応するのが小売業というものではないですか。
 「大黒柱に車をつけよ」とは、『ジャスコ』の創業者、岡田家の家訓です。私は去年、岡田家の創業の地である三重県の四日市に行ってきました。駅に降り立つと、目の前にジャスコがあります。でも、このジャスコは、私達が知っている郊外の大ショッピングセンターとは違って、駐車場もない古ぼけた店です。なぜこんなものを残しているのかといえば、30年前にジャスコができたときの1号店だという記念碑的な意味があるからです。実はこの店は、岡田さんにとって四日市市内で3番目の店です。
 最初の店は、戦前には繁華街だったという辻という町にありました。ここは代々続いた岡田屋の拠点で、戦争から復員した20歳の岡田さんは、ここで商売をスタートしたのです。しかし、やがて彼は人の流れが変わっていることに気づきます。四日市市役所ができた関係で、諏訪神社のあたりに人が集まっていたのです。そこで「大黒柱に車をつけよ」と、諏訪神社の参道に店を引っ越し、そこで大繁盛して三重県最大の小売業になりました。ところが、近鉄電車の四日市駅ができ、これからの商売は駅前だというので、再び今のジャスコがある場所に引っ越したのです。
 最初の店があった辻という町に行ってみると、現在は住宅地へと変貌し、繁華街だったという昔の面影はまったくありません。2番目の店があった諏訪神社の参道は、アーケード街のほとんどの店舗のシャッターが下り、岡田屋の店の跡は貸し駐車場になっていました。もし、最初の地に岡田さんがとどまっていたら、その後の岡田屋はなかったでしょう。もし、2番目の地にとどまっていたら、ジャスコはなかったでしょう。そして、もし駅前のジャスコにとどまっていたら、総売上高2兆5000億円、従業員総数9000人というイオングループにはなっていなかったはずです。
 まさに、時代の流れに合わせて大黒柱に車をつけてきた結果なのです。

勝ちに不思議の勝ちなし!

 私は、物理的な引っ越しをしろとか、商売替えをしろと言ってるんじゃないんです。お客さんのニーズや世の中のトレンドが変わったら、大黒柱に車をつけてでもそこについていかなければ、取り残されるよと言いたいのです。
 孫子の兵法では「勝ちに不思議の勝ちあり」ですが、私はあえて申し上げる。「勝ちに不思議の勝ちなし」。不思議で勝てる人はいません。こんな時代に勝ってる人には、勝ってるわけがある。一方で、負けに不思議の負けもないのです。だったら、勝ちましょうよ、みなさん。これからの時代は全員がよくなるなんてことはありっこないんだから、覚悟を決めることです。
 「よそさんはどうか知らないけど、うちだけは勝とうね」と思うことです。みんなが心に秘めてそう思って、何かひとつ工夫してみる、商売に新しいアイデアを付加してみる。そんな努力をみんながしたときに、はじめてこの国の景気は回復するんじゃないでしょうか。
(2000年4月27日の講演より)

講 師

有限会社 コンサルティング・エース
経済キャスター 西村晃

電 話
045−866−3271
FAX
045−866−3272
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