2001 FEBRUARY
NO.304
KYOTO MEDIA STATION

特集


企業戦略に活かすI T革命
〜スピード時代に勝ち残る条件を探る〜



(講師)
(株)竹野内情報工学研究所
代表取締役・技術士/竹野内 勝次 氏

I T革命は、既存のビジネススタイルや社会構造そのものを大きく変える可能性を秘めています。
企業間においてもデジタル・デバイド(情報格差)が広がりつつあります。 しかし、コンピュータを導入するだけでは、本当にI Tを活用したとはいえません。
ますます激化する企業間競争に打ち勝ち、I Tを企業戦略に活かすためには どうすればいいのでしょうか?
今回は、11月号の特集内容をさらに掘り下げて紹介しながら、I T経営の成功ポイントを探ってみたいと思います。
I Tが経営にもたらすもの
●1年の遅れが7年の遅れに
    日本はI T革命のスタート前夜だといわれています。2000年現在、国内の全商取引の中でEC(電子商取引)が占める割合は、わずか0.1%に過ぎません。しかし、通産省では、3年後にはその市場規模は3兆円に、半世紀後には約50倍に膨らむだろうと試算しています。近い将来、ECビジネスの時代が到来することは間違いありません。
    では具体的に、どのようなことから始めればいいのでしょうか。これまでの技術革新は、先行他社の販売動向などを見ながら二番煎じで始めても、すぐに追いつくことができました。しかし、I T革命の世界は「ドッグイヤー」といわれるように、1年の遅れが7年〜8年の遅れになり、大きなビジネスチャンスを逸してしまいます。I Tはテレビや冷蔵庫などのように、導入したその日から使えるというものではありません。まずは自社の営業戦略や間接部門、流通コストの改善にどのように活用できるのか、試行錯誤を繰り返しながら自分なりの手応えを実感することが大切です。

●産業革命以来のビッグバン
    I T革命は、社会構造や商取引そのものを大きく変える可能性を秘めており、これはいままでの技術革新にはなかった特徴といえます。100年単位で起こる、産業革命以来の大革新であることを認識して取り組む必要があります。
  1. 生産性の向上
    ネットワークの発達は情報伝達スピードを飛躍的に向上させ、業務プロセスそのものを大きく省略化しました。企業は人材削減が可能となり、戦略的なビジネス分野への新たな投資によって生産性を劇的に向上させることができます。しかし一方で、ITを導入した企業とそうでない企業間で、デジタル・デバイド(情報格差)はますます大きくなるでしょう。
  2. ビジネスチャンスの拡大
    最近ではフレックスタイムが浸透していますが、ECビジネスの世界では365日24時間がビジネスタイムであり、これまでのように土・日はサービスを行わないという経営姿勢ではビジネスチャンスを逃してしまいます。勤務形態や営業形態そのものを柔軟に変えていく必要があるでしょう。
  3. 進化するアウトソーシング
    これまで企業は、スタッフやコンピュータソフトに至るまで、すべて自社で保有する必要がありました。しかしI T社会を迎え、人事や総務部門、営業そのものをアウトソーシングする企業も増えています。企業に残るフは経営の本質的なものを扱っている部分だけ。それ以外の部分は外部に出してしまうという時代です。これは企業間だけでなく、個人間の取引でも実現されつつあります。オークションシステムなどがその代表例ですが、アメリカではディーラーを通さずにネット上で自動車を売買する仕組みが普及しています。
  4. 物流ビッグバン
    流通業界では取引形態の簡略化が進み、中間業者の中抜き現象が起こります。工場から大量に出荷されて問屋に運ばれていた従来の流通構造が意味をなさなくなり、消費者に直接モノが流れる仕組みが生まれつつあるのです。また、少量多品種の品物を運送するシステムが発達し、「大量一括流通」から「多量個別流通」に構造変化しています。
    一方で、台所革命をやろうという試みもあります。インターネット上で野菜や魚などの素材を注文し、好きな料理を指定すれば、ピザの配達のようにできたての料理を持ってきてくれるというもので、これも一種の物流革命といえるでしょう。

成功するI T経営戦略
●すべての企業に与えられるビジネスチャンス
    かつてアメリカ国内で、インターネットビジネスの販売実績調査が行われました。だれもが、旅行商品やコンピュータ関連商品が上位にくるだろうと予想しましたが、実際にネット上で最も販売されたのは、金融や自動車など、人間が介在しなければ成立しないといわれた商品でした。現在では、ネット株取引のほか、高利回りの金融商品や低金利ローンに人気が集まっています。アメリカ系の銀行は、日本のように各都市に立派な支店を持たず、ネット取引が中心であるため、店舗や銀行員の数も必要最低限の数で済み、従来では考えられないような低金利が可能となったわけです。
    このように、これまで予想もしなかったビジネスがEC市場を牽引しています。裏を返せば、すべての企業に大きなビジネスチャンスが秘められているということです。

●アスクルのECビジネス成功事例
    次に、具体的にオフィス用品の通信販売で急成長を続けるアスクルの事例を見ながら、実際のECビジネスの成功ポイントについて検証していきたいと思います。

    【I T革命の成果】
    アスクルが文房具や事務用品の通信販売を始めたのは1993年のことです。当時はFAXで注文を受け、宅配便で配達するサービスを行っていました。アスクルという社名は、今日注文すれば明日には届くということから名付けられたものです。98年からインターネットでの受注販売を開始しましたが、電子化によって年商が56億円から106億円に、99年には226億円に倍増しました。2000年度の売り上げ見込みは400億円にのぼると予測されています。

    【I T経営戦略】
    アスクルではインターネット販売に取り組む際、徹底したI T経営戦略を立てました。その戦略とは、顧客の数を100社〜200社に絞って、その関係を重点的に大事にしようという「ワン・ツー・ワン・マーケティング」の導入です。顧客の購買履歴に注目し、全顧客の過去の購買情報を調査・分析。顧客がホームページにアクセスする
    と、個人ニーズに応じたお薦め商品を画面に表示して購買意欲を刺激する仕組みです。しかし、実際にインターネット販売を実施すると、毎月3,000〜4,000社の新規顧客が増え、全体の売り上げは前年比215%の伸びを示しているといいます。一人ひとりの「個客」を大切にすることが、新たな「顧客」を生み出した好例です。
    アスクルではまた、顧客ニーズに応じて半年ごとに取扱品目の見直しを行っています。現在、取り扱っている商品は6,600品目以上。見直しのたびに1,000〜2,000品目ずつの入れ替えを実施しています。これもワン・ツー・ワン・マーケティングを徹底的に活用した結果といえるでしょう。

    【インターネット販売のメリット】
    もともと営業マンがいないうえ、配達も宅配便を利用しているため、受注から入金確認までのオペレーションコストは他社に比べて低コストで済みます。また、従来のカタログ販売に代わり、ホームページによる商品紹介に切り替えたことで、顧客からの問い合わせに対するコミュニケーションコストもかなり削減されました。
    ただし、コミュニケーションのクオリティー(品質)には十分な配慮がなされています。顧客から1日500〜600件くらいのメールが届きますが、そうした問い合わせに対して、1件1件すべて人間がレスポンスすることにより、顧客との良好な関係を維持しています。

    【顧客へのインセンティブ(成功の秘訣)】
    FAXで申し込むよりも、インターネットで申し込んだほうが割安になるというインセンティブ(優遇措置)によって利用者が増加しています。たとえば、飛行機やホテルを予約するとき、電話よりもインターネットで予約したほうが割引率が大きい場合があります。コストの削減で得た利益を、割引というかたちでユーザーに還元し、それで新たな顧客獲得に結びつけているわけです。