2000 NOVEMBER
NO.301
KYOTO MEDIA STATION

特集
異業種京都まつり I Tセミナー
〜I Tって何?
e-ビジネスの可能性を秘めて

講師/(株)竹野内情報工学研究所 代表取締役・技術士 竹野内勝次 氏
高度情報化社会において、企業経営を左右するといわれるI T革命。 既存の流通形態が変化し、新しいビジネスモデル企業が登場するなか、これまでのアナログ市場のあり方そのものが大きく揺らぎつつあります。 しかし、I T革命の本当の意味とは、そして、I Tが私たちにもたらすものとは何でしょうか? 中小企業経営にとってのI T導入の必要性を分かりやすく説明していただきました。
I T革命の意義 〜I Tが企業経営にもたらすもの〜

企業の営業力を左右するEC
     I T化の進展の中で、商取引をコンピュータにやらせようという考え方が、EC(電子商取引)です。見積、受注、出荷、納品、請求、入金など、今まで担当者が顧客のところに出向いて行っていた作業を、コンピュータやインターネットを使って電子の力で済ましてしまおうというもので、今ではかなり幅広く普及しています。  ECの普及が企業にどのような影響をもたらすかというと、今まで人間がやっていた事務作業や営業作業を、機械が代わりにやってくれますから、経費削減につながります。  しかし、これではI T活用の効果は5分の1程度にすぎません。営業マンが営業に回っていた範囲というのは限られますが、インターネットを使って宣伝すると、北海道や九州、沖縄などからだけでなく、世界中のお客さまから注文を受けることができる。自社商品の優秀さ、安さ、品質をいかにインターネットのホームページ上で表現できるか、これがこれからの営業力につながってくるでしょう。いままでのように商品を山積みにして、全国の得意先を駆け回るという時代ではないのです。


自社がISPになる方法も
     音声電話の場合だと、NTTや通信会社と契約して自分の電話番号をもらうわけですが、インターネットを使うときは、自分の家から相手のところへ最初につないでくれるネットワークと契約する必要があります。それがインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)と呼ばれるものです。ISPを経由して、さらに多様なネットワークを利用することができるわけで、メールの送受信やホームページの閲覧など、電話回線の中身であるインターネットのサービスを提供してくれると理解してもいいでしょう。  あるいは自社にインターネットのWebサーバーを設置して、自分がサービス・プロバイダーになる方法もあります。顧客のサービス率を上げようと思えば、電源を24時間オンにしてNTTの専用回線につなぎ放しにしておく必要がありますし、故障があればすぐにメンテナンスしなければなりません。そこまでできるようになったら、このシステムを他の人に賃貸して、ある程度の利益を上げることも可能です。

大容量・短時間がI T時代の主流に
     これまで日本の通信コストは世界一高く、それがインターネット普及の阻害要因となっていました。しかし最近では、通 信コストの値下げ競争が激化しており、近い将来には欧米並みの状態になるだろうと思います。現在、みなさんがインターネットで使っている電話回線の場合、写 真や動画、音声などあまり大量なデータを送ると、かなり時間がかかってしまいますが、ここ2〜3年のうちには、大容量 データが短時間で送れる光ケーブルが普及してきますので、企業はいまからインフラ整備を済ませておくことが大切です。今後、ますます情報のスピード化が進んできますから、しっかりと先を見据えてI Tに乗り遅れないようにしたいものです。

所有するシステムから利用するシステムへ

     これまで、システムは所有するものだという根強い概念がありました。ハードウェア機器を自社で購入し、その業務に応じたソフトの開発とメンテナンス、さらにシステム要員や運用オペレーターなどの人材すべてを自社で所有しなければなりませんでした。これは決して安いコストではないので、大企業や成長企業などの一部でしか所有できなかったわけです。ところが今日のシステムは、ハードウェアやソフトウェアはどこにあっても構わない。つまり、所有するのではなく、利用することだけを考える時代に変わってきています。  最近、アプリケーション・サービス・プロバイダー(ASP)というサービス・プログラムを耳にするようになりました。従来、コンピュータソフトは開発するか、パッケージ化されたものを購入する以外に選択の余地はなかったのですが、業務に必要な電子メールや会計・人事などのアプリケーション、ECなどにもその範囲は及んでいます。このASPをうまく利用することによって、特に中小企業は無駄 なコストをかける必要なく、最新の機能を簡単に調達することができるようになったのです。

情報の価値

広がる首都圏との格差
     関西の経済・産業が地盤沈下して活力がないといわれるのは、関西の情報価値が非常に低いからです。大阪に限っていうと、その状況は30年前と少しも変わっていないようです。逆に、首都圏、特に東京の情報価値はどんどん高まっていて、このままではビジネスの格差は開いていく一方でしょう。  たとえば、あるソフトを開発しようとした場合、関西では開発費用は半分、仕事は倍というのが当たり前。つまり、東京で100円、200円で売れるものが、大阪では50円でしか売れないわけです。こうなると、月100万円で雇っていた上級技術者に代えて、50万円の中堅技術者を使わざるを得ない。つまり、質を落とすしかないわけで、これでは首都圏に勝てるはずがありません。  これまで、各企業は商品のすべてを自社で開発する体力を持っていましたが、今はどの分野でも業務提携が進み、共同で商品開発をする時代になっています。今まで大阪独自で商品開発をしていたが、それができなくなったので優秀な技術者のほとんどは東京に行ってしまう。また、業務の提携先がないということで、会社そのものも東京へ移転してしまう。情報武装ができないために、企業の流出、人材の流出が加速してしまうわけです。

情報の山に埋もれたダイヤモンドを掘り出す  

       いま、大企業の空洞化が進んでいるといわれています。I Tの進展は企業のアウトソーシングを活発化させましたが、大企業が商品開発などすべてを外部に発注している今、ダイヤモンドの原石となるデータ(情報)を持っているのは現場のみなさんなのです。I Tをいかに活用し、自分の周りにあふれている情報の価値をどのようにして高めていくのか、具体例を見ながらチャンスを生かすポイントを探りたいと思います。

    【事例1】過去10年間の部品情報を集積
    自動車修理工場にはさまざまな年式、タイプの自動車が持ち込まれますが、部品の在庫があるかどうか、いつ入手できるかなど、正確に把握することは難しいといえます。ある修理会社では、過去10年間に日本国内で生産されたすべての車種の部品をデータベース化。メーカーでさえ持っていないような部品情報を蓄積し、自動車業界全体から注目されています。自動車はモデルチェンジのサイクルが早い商品ですが、中には10年以上乗り続けるカーオーナーも多いはず。メーカーではすでに破棄しているような役に立たないデータを活用して、情報の付加価値を高めるのが I Tの本質なのです。

    【事例2】顧客の購買データを徹底分析
    有名なバーチャルショップの一つに、アマゾン・ドットコムという店があります。サイト上に店舗を構える書店で、展示スペースの限界がないので100万種類という大量 の本を揃えています。もちろん、インターネットを利用して、地方からでも好きな本を簡単に購入することができます。しかし、注文を受けて出荷しているだけでは、情報を活用していることにはなりません。アマゾン・ドットコムの場合、消費者から注文を受けるたびに、その人がいつ、どんなジャンルの本を、何冊買ったのかというデータを細かく分析してデータベース化しています。次にその人からアクセスがあったときに、あなたの好きなジャンルで最近こんな本が出ました、という情報を提供して、消費者の購買意欲をそそるわけです。アマゾン・ドットコムはこうした情報の活用で、売り上げ1200億円企業に成長したのです。

    【事例3】子どもが欲しがっているおもちゃ情報を提供
    アメリカの事例ですが、毎月10ドルまでおもちゃを買っていいという契約をお母さんと結んでいるおもちゃ屋があります。子どもがインターネットを使っておもちゃを買うと宅配で送られてくるのですが、買い物金額が10ドルを超えると、今月はこれで終わりにしましょうというメッセージが表れる仕組みです。計画的な買い物をしようということで、特に子どもを持つ母親に人気が高いのですが、これだけでは普通 の情報価値しかありません。このおもちゃ屋では、問い合わせがあった商品、在庫切れだった商品、与信限度を超えて注文があった商品など、すべてをデータベース化しているのです。こうして蓄積した情報、つまり子どもが何を欲しがっているかという情報を、誕生日やクリスマス前におばあちゃん宛にメールで送ることで購買意欲をあおり、ぐんぐん売り上げを伸ばしています。


I Tのスタートラインに立つ企業
    一 みなさんの周りには宝の山がいっぱい転がっています。それを拾い出してデータベース化しようというのが、情報武装の第一歩です。蓄積した情報を秘密にしている企業もありますが、これは5年前、10年前の古い発想。データというのはどんどん陳腐化していきますから、これを子や孫の代まで温めておくことは絶対にできません。データベースを開放することにより、いろんな情報が集まってきて商売が繁盛するというのが現代の I Tの図式なのです。
     私たちがこんなシステムをつくっても儲からないのではないか、大企業に負けてしまうのではないかと思うかもしれませんが、大企業に元気がない今、チャンスは無限に広がっているといえます。I Tはまだ始まったばかり。スタートラインに並んだばかりなのです。多くの企業が21世紀を生き残るために、I Tを使ってさまざまな可能性に挑戦しています。I Tをうまく活用した企業はどんどん成長しているし、乗り遅れている企業は経営が後退しています。今後、その格差はますます広がっていくでしょう。最近、企業の再編成のうねりの中で業務提携が進んでいますが、それを橋渡ししているのも I Tだということを忘れてはなりません。ぜひ、みなさんも価値ある情報をうまく活用して、I Tに取り組んでいただきたいと思います。

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