2000 AUGUST
NO.298
KYOTO MEDIA STATION

特集

ソフトバンクの
インターネット戦略とe-ビジネスの最新情報


講師/荒本 弘一 氏(ソフトバンク・コマース(株)西日本営業推進室室長)
さる7月26日、京都府異業種交流会連絡会議(異業種京都会)では、250名を越える参加者が集う中、異業種交流活動が新たなビジネスチャンスを生むきっかけづくりとなることを願い、2000年度「講演と交流のつどい」を開催しました。 今回は、ますます注目を集めつつある「e-ビジネス」の最新情報と将来のマーケットニーズについて、ソフトバンク・コマース(株)の荒本弘一氏の講演を紹介します。
2003年のインターネット事情

BtoBからBtoCビジネスへ
    世の中にはさまざまなメディアがありますが、アメリカでは新聞媒体が5千万世帯に普及するまで100年、ラジオですら38年かかっています。しかし、インターネットはここ5年間であっという間に5千万件に達しました。日本のインターネット人口はまだ2千万人に過ぎませんが、2003年には6千万人を超えると予測されています。  このインターネットを使ってモノを売る「エレクトリックコマース」を大きく分類すると3つの形態があります。1.BtoB(Business to Business)。つまり企業対企業の取引をインターネット上でやってしまおうというもの。2.BtoC(Business to Consumer)。企業がインターネットを使って、消費者に直接いろんな商品を売ろうというもの。将来的にはこれがeコマースの中心になってくると思います。3.CtoC(Consumer to Consumer)。一般消費者が、別の一般消費者に対してモノを売る仕組みのことです。このCtoCで最も成功しているのが、アメリカの『ebay.com』という会社。ここではだれもが自分の売りたいモノを投稿することができ、別 の消費者がそれを気に入れば取引が成立します。会社はいわゆる場所代として、数%の取引成功報酬を徴収するというわけです。

3年後には旅行業がEC市場の主役に
    2003年のEC市場で最も成長する業界は何かというと、旅行業だといわれています。その要因として、旅行業が物理的な商品配送を伴わない情報型商品であること、そして飛行機なら空席、ホテルなら空室というように不活性在庫が恒常的に発生することなどが挙げられます。一方で、こうした不活性在庫を少しでも安くさばこうという需要もあるのです。インターネットを使うと、従来の流通 網では対応しきれなかった不活性在庫の処分がしやすくなるといわれています。

インターネットを進化させるブロードバンド
    さて、いま各家庭でインターネットをする場合、64kbpsや33kbpsなど非常に遅い伝送スピードの電話回線を使うことが多いですね。アメリカでは1メガbpsという高速伝送のケーブルテレビ回線を使ったインターネットが普及しています。この高速伝送の回線を「ブロードバンド」といいますが、日本でもここ数年の間に1メガを超えるブロードバンドを一般 家庭に普及させようとしています。そうなれば、インターネット上で大容量 のビデオなどを楽しむことができるようになります。ホームページについても、従来の静止画像や文字だけでなく、動画をうまく生かしたコンテンツも重要な要素になってくるでしょう。

インターネットビジネスの実用事例

企業の購買、仕入れに変革をもたらす「e-procurement」
    BtoBの近道としてe-procurement、つまり購買や仕入れをインターネットでやってしまう方法があります。たとえばある企業がパソコンを購入しようとする場合、パソコンメーカーはどんな商品をいくらで販売してくれるのか、『e-koubai.com』などにいっせい登録させるのです。当然ながら、超戦略的な金額で登録されますから、バイヤーは登録されたデータベースを見比べながら、一番魅力的な商品を選べばいいわけです。このように、購買部門がインターネットを使って不特定多数の業者に登録を呼びかけるケースも多くなっています。購買、仕入れ部門はインターネットをうまく活用すれば効率化が図れる部門だと思います。

自社のホームページビューを高める「SmartAge」  
    インターネットを使ってモノを売りたいと思っても、多くの人がホームページを見てくれなければ意味がありません。最も手っ取り早いのは、『Yahoo』や『Lycos』など、有名なポータルサイトに自社のホームページを登録する方法ですが、サイトの数が大量 にあるのでなかなか目につかないでしょう。ソフトバンクが手がけている『SmartAge』は、会員企業どうしがお互いのバナー広告を貼り合いましょうというもの。もちろん、ポータルサイトにも無料で一括登録されます。A社のバナー広告がいつどこに出たのか、またいつ出るのかなど、さまざまなレポートサービスを無料で行っています。

『アマゾン・ドット・コム』成功の7つの要因
    書籍やCDの販売で有名な『アマゾン・ドット・コム』ですが、今からわずか5年前に設立された会社がなんと年商1200億円を達成しています。この会社のキャッチフレーズは「100万種類の書籍を扱う地球最大の書店」。現在では320万種類の書籍を取り扱っており、『アマゾン』で買えない本はないというのがキャッチフレーズです。
    『アマゾン』が成功した理由は、1.インターネット人口がまだ少なかった5年前に事業を開始した、2.どんな書籍でも揃えるという姿勢を貫いた、3.価格が安い、4.あいまい検索や表示スピードの工夫がされている、5.魅力的なコンテンツ(5点満点で書籍を評価)、6.素早い納期と割増料金で即配制度、7.アソシエイツ制度などが挙げられます。アソシエイツ制度というのは、さまざまなポータルサイトからお客さんを連れて来る仕組みです。たとえば『Yahoo』で「ビル・ゲイツ」を検索すると、彼に関するホームページがたくさん出てきますが、『アマゾン』のバナー広告にはすでにビル・ゲイツという言葉が入っていて、彼に関する本も検索できるようになっているのです。そこでその人が本を買いますと、『アマゾン』は売り上げの15%を手数料として『Yahoo』に支払うというわけです。
    この『アマゾン』のすごい点は、サブスクライバー(固定会員)の数が840万人もいるということです。サブスクライバーを大量 に囲い込みさえすれば、あとは本であろうがCDであろうが何でも売れるわけです。いかにこのサブスクライバーを大量 に確保できるか、これからの企業にとって重要なファクターになってくると思います。

コンビニ決済で代引き取引のコストを軽減
 
    日本ではソフトバンクが中心となって『イー・ショッピング・ブックス』というバーチャル書店を始めました。あなたが注文した本を近くのコンビニエンスストアで受け取れるというものです。カーグッズの販売では、日石三菱と提携してガソリンスタンド決済の仕組みを考えました。インターネットでモノを買う場合、クレジットカードを使用するのに不安があるのは事実です。今一番多いのは商品代引きという方法ですが、それではコストがかかるので、コンビニエンス決済やガソリンスタンド決済などを考えたのです。

見込み客の紹介で年間2800万ドルの手数料収益
    『カーポイント』や『オートバイテル』は、自動車に関するあらゆる情報が満載しているサイトです。消費者がその車の見積もりボタンを押すと、自宅から一番近いカーディーラーが見積書を持って訪問する仕組みです。厳密にいうと、サイト自体は車の販売をしているのではなく、カーディーラーから年間手数料をもらって見込み客を紹介しているに過ぎません。2年間で約250万件くらいの見積もりボタンが押されて、実際に売買に結びつく割合は40%に上るといいます。『オートバイテル』の場合、1件のカーディーラーから徴収する年間手数料は約100万円、全米2800社のカーディーラーと契約を交わしています。2800件×1万ドルが利益になるわけです。

消費者が商品の価格を決める『プライスライン』
    『プライスライン』も非常にユニークなサイトです。たとえば東京から大阪までの航空チケットを1万円で買いたいと思った場合、『プライスライン』ではすべての航空会社にこの情報を配信してくれるわけです。もし、1万円で売るという企業があれば、ビジネスが成立し、数パーセントの手数料をプライスラインがもっていく。つまり、買いたい商品や買いたい値段を消費者が決めるというもので、今後、プライスラインのような仕組みが業界全体に広がっていくだろうと思います。

消費者一人ひとりのニーズに応じて受注生産 
    パソコンの販売ではデル・コンピュータが実績を伸ばしており、インターネットのダイレクト販売で毎日30億円くらいの売り上げをあげています。ホームページ上で、メモリーやハードディスクの容量 など、自分の欲しいパソコンの内容を入力していくと、それに合わせて値段が表示される仕組みです。受注するとインターネットを通 じて瞬時に工場にデータが転送され、そこで組み立てられて自宅まで配送されてくるわけです。消費者一人ひとりの嗜好に応じて、それぞれの商品を受注生産していくことで確実に販売実績を伸ばしているのです。

Winner takes allの過激な市場原理
    アメリカには『bottomdollar.com』というサイトがあって、これはインターネット上を24時間ずっと自動巡回しながら、どのホームページでどの商品がいくらで販売されているかを調査しているのです。当然、消費者はより低価格の方へ流れていきます。こうなると、ひとつの業界で生き残れる会社は1社か2社くらい。勝者が全部もっていく(Winner takes all)という市場原理です。かつてCD販売では、『CDナウ』がナンバーワンでしたが、いまは『アマゾン・ドット・コム』にその座を奪われました。ECビジネスというのは、実に過激なビジネスになってきているのです。
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