I T革命のメリットのひとつに、情報コストの劇的な低減が挙げられる。I
T先進国のアメリカの場合、伝票1枚処理するのに120ドルかかっていたが、I
T革命により10ドルまでコストダウンできた。また、電子商取引などの拡大により、市場取引コストも低減していくだろう。情報の収集、伝達、分析に要するコストダウンが企業全体の生産効率の向上につながっていくことが予想されるが、果
たしてI Tの導入によってすべての経営コストが画期的に低減していくのだろうか?
実は、I T革命を進めていく上で最も大切なことは、会社のトップがどれくらいリーダーシップを発揮して取り組めるかということだ。ビジネスモデルの転換の過程では、取引先との決別
を余儀なくされるかもしれない。また、人事組織、職能制度、給与体系など、企業のあり方そのものを変える必要があるかもしれない。それらを最終的に決断するのはトップにほかならないのだ。
I T経営とは企業のビジネスの姿勢、経営管理の方法を思い切って変えること。従来の日本企業的な体質を残すつもりなら、いくらパソコンを導入してもI
T革命による経営改善は望めないだろう。
では、I T革命によって社会や企業の生産性は向上するのだろうか。実は、この点はまだはっきりと確認されていない。アメリカでは80年代からI
T化に取り組んでいるが、生産性が上がったという確実な証拠がないのが実情だ。
しかし一方で、新しいビジネスチャンスは間違いなく拡大している。1つはI
T市場の成長のなかから生まれるビジネスチャンス。ハードウェアやソフトウェアの需要増大、ネットワーク利用者の増加などが挙げられる。
2つ目は、インターネットを通して顧客のすそ野が世界レベルで広がっているということ。EコマースやEトレードの利用者が急激に増えているように、今までマーケットに触れる機会のなかった高齢者、主婦などネガティブな消費者が、ネットワークを通
して市場参加することは十分に考えられる。ローコストの情報効果
で取引が多様化し、新しい顧客をつかむチャンスが増えているわけだ。ただ、全体としてシェアをめぐる競争が激化する恐れがあり、マーケティングリサーチや顧客ニーズをつかまずにI
T化で成功することは難しいだろう。
従来から多角経営という概念はあったが、I T革命の進展は異業種参入の門戸をさらに広げる結果
へとつながった。
警備保障サービスを手がけるセコムの子会社、セコムハイプラントではこれまで培ってきたI
Tのノウハウを利用して、約10万株のハーブ栽培を行っている。光の量
や炭酸ガス濃度、温度や湿度などすべてI Tによって完全制御し、育成条件が異なる15種類のハーブを同時に栽培することができる。99年度の出荷量
は約10トンで、セコムブランドとして好評だという。
そのほか、オムロングループなども、東京ドーム1.5倍の広さをもつ巨大ガラス温室でトマトを栽培するなど、技術革新の進展はビジネス参入のユニークな可能性を示唆しているようだ。
I T化のための3つの必須条件
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1.いかにローコストとはいえ、やはりある程度の初期投資が必要。パソコン端末を揃えるための費用、社内LANの構築・維持費や通
信費など、ネットワーク化に伴う負担を覚悟しなければならない。
2.会社にパソコンを導入するだけではI T革命は進展しない。ビジネスノウハウを持ち、I
Tをフル活用することができる人材教育が必要となってくる。当然ながら、それなりの時間とコストが必要だ。
3.I T革命にマッチした新しいビジネスモデルを確立すること。たとえば、伝票1枚処理するために、従来の押印方式に代わる仕組みやルールをつくらなければならない。今までの仕事のやり方を根本から見直す必要に迫られるだろう。 |
■取材協力/京都学園大学経済学部長 波多野進教授
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