(財)京都産業情報センターの異業種交流会、京都ベンチャービジネス研究会(KIIV)のメンバー有志が、寺院での塔婆の処理を軸にしたリサイクル事業に乗り出されました。事業名もお寺にちなんで「五山システム」。廃棄物処理に対する各種規制の動きを踏まえ、時代に先んじた環境ビジネスへの果敢な挑戦です。 塔婆は故人への“手紙” ――今日の環境問題と塔婆の処理、どんなつながりがあるのですか。 福井 周知のようにモノを燃やすことに対して、いろいろな規制が出てきました。法事でお墓に立てるお塔婆も例外ではありません。とくに都会のお寺では燃やしにくくなり、また埋設処理するにも場所の問題があります。お塔婆はモミの木ですから燃やしてもダイオキシンは発生しません。しかし、焼却する際に他の廃棄物が混じることがありますし、野焼きがこれから禁止されるように、燃やすことに周囲の目も厳しくなってきています。 例えば京都市では、一般家庭で使われている小型焼却炉についても「ばいじんおよびダイオキシン類排出抑制指導要綱」を定め、昨年5月から施行しています。排出されるばいじんやダイオキシン濃度の抑制基準が設けられ、小型焼却炉の設置者はその濃度を測定し、必要に応じてデータを提出しなければなりません。そのための手間やコストも大変になるでしょう。 ――燃やせないとなると、処理方法はチップ化しかないということですね。 福井 当初、我々メンバーの間で「いっそのこと紙でつくる塔婆を提案しよう」という声もありました。そこまで踏み込むことはできないので、チップ状にして処分することで問題解決を図ることになり、昨年夏から何度か試作を重ねた末、独自に塔婆専用破砕機「五山」を開発しました。 ――それでチップ加工した後、どうされるのですか。 福井 塔婆はもともと亡くなられた方へのお手紙という意味が込められているんです。その趣旨をくんで、清水焼の陶工、近藤清泉先生のご協力をいただき、処理したチップを納めるために手づくりの香炉を新たに制作しました。それをお手紙の返事ということで、お寺から檀家へお返しいただくわけです。香炉のふたの取っ手はその年の干支をかたどり、供養の気持ちを忘れないでいただくため「偲(しのぶ)」シリーズと命名して、それぞれの季節用に4種を用意しています。 幅広いチップの用途 ――事業としての運営プランはどうなりますか。 福井 お寺さんには専用破砕機をお求めいただいた後、3通りのパターンを設けています。余ったチップ材を我々が有価で引き取り、併せてお寺のホームページ作成など情報処理サービスをさせていただくケース、チップの後処理はお寺さんにお任せしますがホームページは作成、あるいは破砕機のみご購入といったケースの中から自由に選んでいただく。そして前二者の場合は会員制度の形をとり、年会費を頂戴するというシステムです。 ――そのシステムがうまく進展していくには、事業のもつ社会的意義を広く認知してもらうことがポイントになりますね。 福井 お寺さんには、法事のお塔婆を介して法話の中で、将来の子孫のために檀家の方々へ環境問題も投げかけてください、と申し上げてお願いしています。全国には11万もの末寺がありますが、それを総轄している各宗各派の総本山へごあいさつに回っているところです。このほか、お寺とつながりのある石材、造園業関係者へのアプローチも必要でしょう。 我々の考え方にご賛同いただいている宗派もすでにあります。そこの青年部が有機堆肥による植林事業に取り組んでおられるので、チップを堆肥化して提供させていただくことも視野に入れて検討しています。 ――チップ処理するだけでなく、文字通りリサイクルさせていこうという構想ですね。 福井 つまり、「五山システム」のスキームは、法事でご使用になったお塔婆を燃やすことなくチップに加工し、そのチップ材は我々が購入して香炉「偲」に納め、お寺さんを通じて各檀家にお返しする。一方、余ったチップは堆肥にして植林事業などのお役に立とう、というものです。 また、チップは酪農や養豚の畜舎で敷ワラ代わりに使って畜糞と混ぜれば堆肥になりますし、街の公園に敷き詰めれば足にやさしい木道に、庭にまけば雑草予防にもなります。さらに京都府内の森林組合、チップ加工業者にもご協力をお願いし、お塔婆の生産から処理、再利用まで、すべてをフォローするネットワークの構築をめざしています。 まず実践モデルを ――事業化に向けて実際にスタートされたのはいつからですか。 福井 我々KIIVのメンバー6名の中から、先兵として私と(株)インフォメディアの半田孝彦氏でパートナーを組み、京都産業情報センターのマイコンテクノハウスにこの2月に入居、3月から“戦闘開始”をしたばかりです。お寺さんへのプレゼンテーションはなかなか難しい面もありますが、「もう一度、話を聞きたい」というお寺さんもいて徐々に手応えを感じている段階です。いまは1日も早く具体的な実践モデルをつくることが課題ですね。 ――当面の目標は? 福井 とりあえず半田氏と2人で頑張り、半年後をめどに様子を見たうえで法人化へのステップを考えています。事業は世間より一歩先んじて考えろといわれますが、環境保全対策は時代の要請でもありますし、ベンチャービジネスの存在意義もそこにある。関係方面のご理解とご協力を得られるよう、事業の社会的必要性を訴えていくつもりです。
MONTHLY JOHO KYOTO |