2000 MARCH
NO.293
KYOTO MEDIA STATION

特集
「楽天市場」の成功戦略にみる
インターネット・ビジネスの将来性

楽天株式会社 代表取締役社長 三木谷 浩史 氏
    インターネット人口の増加に伴い、家にいながらいつでも商品を注文することができる「オンライン・ショッピング」に人気が集まっている。しかし、モノがあふれる消費成熟社会の中で、本格的なオンライン・コマース時代に向けてインターネット・ビジネスを展開していくためにはどうすればいいのだろうか。インターネット・モールサービス「楽天市場」で実績をあげている三木谷代表取締役社長の講演から、その成功戦略を検証してみたい。
 Eライフの時代はそこまで来ている!?
インターネットの普及はめざましく、わが国ではすでに2500万人近い利用者がいます。そのうちの約85%がほぼ毎日利用していることからも、いかにインターネットが携帯電話と並ぶ重要なコミュニケーションツールになりつつあるかということが分かります。また、オンライン・ショッピングのほうも、だいたい3000億円から4000億円ぐらいの市場規模になってきており、今後ますます需要が伸びていくものと思われます。アメリカではすでに5兆円から7兆円規模の巨大市場になっており、ショッピングはもちろん、ゴルフコースや航空券の予約、納税申告や住民票の申請、ニュースもほとんどインターネット上で見ることができます。つまり、インターネットで生活のすべてをしてしまう「Eライフ(電子ライフ)」が当たり前になっているのです。
こうした本格的なオンライン・コマースの到来を前に、97年2月「楽天株式会社」というインターネット・モールサービス会社を立ち上げました。実際のサービスインは97年5月からで、当初の従業員は私を含めて2名、契約企業の数はわずか13社に過ぎず、取扱高も月々30万円程度でした。それがいまや従業員85名、契約企業の数は2000店舗を上回り、取扱高は月額で15億円近くにのぼります。それも毎月だいたい20%から30%の割合で伸びています。
昨年、ポータルサイト「goo」が行った「インターネット・ショッピングに関する調査結果」によると、楽天市場は他の大手プロバイダを抑えて、モール認知度(63.9%)、購入率(9.6%)のいずれもトップという結果です。日本だけでなく、おそらく世界のインターネット・モールでも最大の、そして最もアクティブなモールになっていると思います。

楽天市場が提供する3つのサービス
楽天市場のサービスの一つに、欲しい商品をいつでも注文することができる「オンライン・ショッピング」があります。例えば、ゴルフのドライバーが買いたい場合は、「ドライバー」という商品検索によってダイレクトに到達できるほか、店舗からいきなり注文することもできるので、目的の商品を非常に探しやすいのが特徴です。また、いわゆるインターネット上の競売システム「スーパーオークション」を展開しています。これまでのように単に商品を販売するのではなくて、競売形式で売買する仕組みで、こちらの方も今後の需要に期待しています。
最近開始したサービスで人気を集めているのが「フリーマーケットサービス」です。1商品当たり月額100円の出品料で、売り上げのマージンが5%というような形で個人間の商品取引の仕組みを提供しており、開始してわずか3〜4カ月で、すでに1万3000以上の商品がインターネット上で頒布されています。そのほかにも、ギフトセンターとか懸賞広場など、いろんなサービスを展開してユーザーから大好評を博しています。
具体的に言いますと、私ども楽天市場が提供するサービスは3つあります。
  1. インターネット・ショップを構築するサーバーの提供。つまり、だれでも簡単にログオンできて、インターネット上でショップを構築、運営することができます。
  2. どうすればモノが売れるかというノウハウの共有。今度、新たに「楽天大学」というのをつくりまして、インターネット上でモノを売るノウハウを私自身が教えていきたいと思っています。
  3. お客さまをどうやって市場に連れてくるか、その集客力の強さ。楽天市場は、1日に50万人以上のお客さまが訪れる巨大な商業地区になりつつあります。

私はこの3つの要件を提供してはじめて「インターネット・モール」というサービス事業を成功させることができると考えています。
インターネット・ショップの考え方として、カタログを作るコンセプトで取り組みますと失敗してしまいます。リアルな店舗をどのようにつくるか、自分の販売したい商品で、実際にどういう店舗にするか、アイデア段階のうちから詳細にリサーチしていくと、これはもう間違いなく成功します。つまりインターネット販売というのは、究極の対面販売だということを覚えておいてほしいと思います。

マーケティングのポイントとなる4つのP
では、インターネット・モールを利用して販売を伸ばすための戦略とは何でしょうか。私が出店者のみなさんに申し上げていることは、楽天市場は決して自動販売機ではないということです。モノを売る仕組みや集合体としての「市場機能」は提供しますが、モノを販売するのはあくまでも出店者なのです。私たちの市場の中にお店を出していただき、そこでどうやって販売を伸ばしていくかということは、出店者自身が知恵を絞って考える必要があります。
そのためにはまず、「ターゲット市場の分析」が必要不可欠だと思います。例えば、家庭の主婦の方はどうしても電話料金が高いということで、インターネットの利用が鈍くなっています。一方、私たちは「F1」と言っていますが、20歳から35歳の女性利用者は大変な勢いで伸びており、今後のユーザー開拓のポイントになるのではないかと考えています。しかし、インターネットでモノを売るためには、なにも利用者層の厚いところを狙うのではなく、自分が売ろうとしている「ターゲット・セグメント」を把握して、より的確なマーケット戦略を展開していけばいいんです。
一つ例を挙げますと、あるバーチャル店舗がタレントの作ったハンドバッグを販売しましたが、それまで百貨店や通信販売などでなかなか売れなかったのに、楽天市場に出店したとたん、毎日50個以上も売れるようになりました。なぜかというと、いままで彼のデザインしたバッグがどこで販売されているのかだれも知らなかったけれども、楽天市場で販売されることによって、日本全国のファンが販売先を認知するようになったわけです。つまり、バラバラになっているリッチな商品に容易に到達できるのがインターネットの魅力なのです。
商品企画と店舗企画をしっかり立てることも重要です。これは当たり前のようですが、楽天市場に出店されるみなさんは、まず最初にどうやって商品を販売しようか、どういう店舗をつくろうかという手段を一生懸命考えますが、店舗をつくることに夢中になってしまって、モノを売る基本をすっかり忘れてしまうのです。インターネット・モールを使って販売を伸ばすためには、マーケティングミックスのポイントとなる4つのP、@商品企画(Products)、A価格戦略(Price)、B販売手段(Place)、Cプロモーション(Promotion)をしっかりと考えておく必要があると思います。つまり、どういう商品をどういう価格帯で、どういう販売手段、プロモーションを使って販売していくかということです。「What you sell」ではなくて、「How you sell」への発想転換が大切なのです。
とくに最近は、「プロモーション」が一つの重要なファクターになってきました。いま楽天市場へのアクセス数は1日平均で約300万ページビューで、来客者数はだいたい50万人から80万人にのぼります。こうしたモールに出店するというのは、ある意味で一つの大きなプロモーション戦略だといえるでしょう。また、電子メール広告やバナー広告など、ほかにもいろんなプロモーションの手段がありますので、それらをどんどん利用していくべきでしょう。
また「価格戦略」については、アメリカでは「ネット・プライス」という言葉があるように、すべての商品において、一般流通価格よりもインターネット価格のほうが安いといわれています。これは、一つにインターネットの情報伝達コストの安さがあると思います。例えば、1万円のグラスを通信販売する場合には、カタログ代や送料など平均で2000円〜3000円のコストがかかります。しかし、楽天市場に出店すれば月額5万円以外のコストはかかりませんから、通販で1万円の商品を8000円で販売しても同じだけの利益が得られるわけです。
ただ、値段競争が激しくなると、出店者の利益が少なくなるように思われるかもしれません。「価格」というのは非常に重要な部分ではありますが、最近は「コンビニエンス」、つまり、24時間家にいながら商品が買えることのほうがより重要なファクターになってきているのです。しかも、消費成熟社会の中で、単にコンビニエンスストア的に便利だということではなくて、よりパーソナルでユニークなショップが求められているように思います。
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