1999 OCTOBER
NO.288
KYOTO MEDIA STATION

特集
社内情報をどう活用するか

コンピュータ・ネットワークを利用した情報システムが普及するのに伴って、これまで有効に活用されることが少なかった社内情報や顧客情報を蓄積・管理して業務に役立てようという機運が高まってきました。
そこで、今回の特集では、企業内における情報共有の考え方や手法について、京都府技術アドバイザーの古長勝人氏へのインタビューを交えながら紹介していきます。

情報共有の有効活用

●経営資源としての「情報」

企業には本来、取引に関するさまざまな情報が蓄積されていますが、一部の企業を除けば、これらが体系的に管理され、経営に有効活用されることはあまり多くありませんでした。それぞれの営業担当者が把握している個々の顧客情報が他の担当者には伝わりにくかったり、引き継ぎの際に漏れてしまったり……。これでは、必要な情報が社内にあるのに利用できず、放っておけばそのまま失われてしまう可能性さえあります。ますます激しくなる経済環境の変化に対応し、貴重な経営資源を人材の流動とともに失ってしまうことのないようにするためにも、社内情報の共有は軽視することのできない重要な課題となってきました。
社内の情報をこれまで以上に有効に活用できれば、個々の社員が持つ情報だけで業務に取り組むよりも優れた効果が期待できます。例えば、営業部門において受注拡大を図ろうとする場合、顧客や競合他社に関する適切な情報が社内から得られれば事前の準備もスムーズに進められます。このような情報は、一人の担当者が持っていなくても、たいてい同じ社内の誰かが持っているというケースが多く、これらを即座に収集することで対応のスピードは向上し、効率的な営業活動が可能になります。何かトラブルが生じた場合のクレーム処理においても、この情報活用法は有効に働くでしょう。また、営業部門ばかりではなく製造部門においても情報の共有は重要です。製造部門では膨大な知識・技術・ノウハウを駆使して開発・生産に携わるため、これらを時と場合に応じて交換し、継承してしていくことが求められるからです。

●情報共有の効果と条件
情報の共有は書面でもできないことはありませんが、膨大な企業内情報を収集して素早く効率的にやりとりするためには、やはりコンピュータ・ネットワーク、データベースなどの設備が必要になってきます。これには、社内LANやイントラネットなどの方法があり、その中でも電子メールの機能を利用して情報の共有を図ろうとするケースが一般的なようです。また、設備を整えることに加えて、コンピュータを扱う能力を養っていくことも大切です。しかし、こういった条件を満たして情報伝達の速度と効率が高まっても、それだけでは情報を共有しようという機運を高めることにはつながりません。情報共有の目的とその効果について社内の一人ひとりが認識することが必要です。

情報共有が企業を変える
京都府技術アドバイザー 古長勝人 氏

●社内で知恵を出し合う

企業内で情報を共有しようという試みは以前から行われてきましたが、ここ数年の間に電子メールなどの使い勝手が格段に向上したこともあって、これらのより有効な活用を目指そうとする機運が高まっています。
これまでは、企業内の情報はその情報が発生した部門で保管されていることが多く、例えば製品の受注に関する情報の場合なら、発生してからしばらくの間は営業部門が持っていました。しかし、仕事が発生した時点ですぐに設計部門や購買部門などの関係者にも見てもらうようにすれば、事前の段取りがうまくいって各部門の処理が速くなり、お互いに仕事をうまく進めるための知恵を出し合うこともできるようになります。こうして業務に役立てることによって、情報に付加価値が生まれてくるわけです。コンピュータ・ネットワークで社内の情報をデジタル化してやりとりすれば、情報の保存・検索・出力・配布が速くて合理的に行えるようになりますが、これらはあくまでも共有のための手段としてとらえた方がいいでしょう。

●顧客の声を拾う
共有された情報をさらに経営戦略に役立てるためには、その分析が欠かせません。これまでも、すでに発生した仕事の受注データの分析は行われてきましたが、今後は受注できなかった案件も含めて、営業経過全体の情報を分析していくことが重要だと思います。顧客との対話のなかには、顧客が今求めているものやこれから必要だろ考えているものについてのヒントが隠されているので、今後の自社の方向性を検討するのに役立てることができます。また、営業経過を見ながら上司が適切な指示を出すなど、営業活動そのものに関する情報を共有することにも大きな意義があります。
これら以外にも、まだまだ共有すべき情報はあります。例えば、日用品を販売しているある企業では、お客様窓口に寄せられた相談やクレームの情報を蓄積して次回以降の対応の参考にしたり、開発部門に見せてすでに開発された製品の改良や新製品の開発に役立てています。
また、ある企業では、社員の福利厚生に関する届け出を複数の窓口に提出しなければなりませんでしたが、それぞれの部門の情報を共有することによって、手続きをひとつの窓口で行えるようにしました。そして、一人の担当者が複数の業務をこなせる 多能工個 として動けるようになりました。情報の共有は、組織そのもののスリム化にも役立ち、稟議の決済のスピードアップにもつながります。

●情報共有の実現に向けて
このように見てみると、社内情報の共有というのは、誰もが同じ情報を所湯しているというより、いつでも誰でも同じ情報が見られるような状態にあることだといったほうがいいように思います。これを実現するには、情報を共有するための仕掛けづくりとそれを使いこなすための能力、そして、情報を共有しようという意識が必要です。社内LANの構築や社内の情報リテラシーの向上は、ある程度の費用と時間をかければ実現可能ですが、狙いや利点の理解や意識づくり等は社内の動きだけではなかなか進めにくいところがあります。そこで、外部の専門家に依頼して実現を早める方法もとれるでしょう。それぞれの企業によって、情報共有のあり方は異なってくるでしょうが、いずれにしても情報化は経営活動を活発化しかつスピード化できる可能性を持っていると言えるでしょう。
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