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1999 AUGUST
NO.286
KYOTO MEDIA STATION

インタビュー
蒸着技術を応用し
幅広い分野で
可能性にチャレンジ


尾池工業 株式会社
取締役社長 尾池 均 氏
尾池社長


ライフスタイルのあらゆる場面で金・銀の輝きを演出する「真空蒸着」――この技術をわが国で初めて導入した尾池工業(株)は、次々に用途分野を広げて新製品を生み出し業界に確固たる基礎を築いてこられました。これからの時代を乗り切るためにトップメーカーからハイテクカンパニーへいままた変身を遂げようとしています。

真空蒸着きっかけに多角化へ
――会社の長い歴史のなかで、大きな転機となったのはなんといっても「真空蒸着」の導入ですね。

尾池 創業は明治9年、刺繍用の金糸、銀糸を製造販売したのが始まりです。以来、伝統技術をもとに事業を続けてきたのですが、昭和31年に父の尾池耕三(現会長)が京都市工業試験所の協力を得て真空蒸着――金属を真空中で溶かして蒸発させ、素材となる各種フィルムに薄い被膜をつくる技術を、全国に先駆けて導入したのが今日のハイテク産業へ歩むきっかけとなりました。
 それまでの金糸、銀糸づくりはアルミホイルを貼って着色し、細かく切って糸によるのが常識だったそうですが、従来品に比べ軽くてやわらかくて光沢がよいということで、社運をかけて資金をつぎ込み、量産化を開始したのです。

――それ以来、真空蒸着をベースに次々に商品群を広げてこられましたが、現在はどんな分野で展開されているのですか。

尾池 いまでは蒸着技術だけではなく、コーティングやラミネート技術をもとに、大きく分けて4つの分野があります。  1つは「加飾材料」。和・洋装用の金・銀糸やメタリック箔・粉などですが、伝統工芸分野だけではなく、ラメ・ファッション、家電製品のプラスチック成型品、メタリック印刷などさまざまな用途に利用されています。  2つ目は「転写材料」、金や銀でデザインしたものを紙やプラスチックなどに薄く鮮明に転写するものです。国内向けは主に紙用転写箔で菓子や食品、タバコなどの紙製パッケージに、海外向けは主にプラスチック用転写箔で一流ブランド化粧品の容器などに使われており、パリに事務所を置いて展開しています。  3つ目は、ポテトチップに代表されるスナック菓子などの「包装材料」です。これは酸素ガスや水を遮断するのが目的で一般にはAl蒸着フィルムが使用されます。ただ、Alですと光を通さないために当然ながら中身が見えませんでしたが、最近は酸化ケイ素の蒸着フィルム――エコロジー問題対応用にガスや湿気の遮断性に優れた電子レンジ対応の透明フィルムも開発されました。  最後に4つ目の「工業材料」は広範囲にわたり、主なものにエレクトロニクスメーカー向けの透明導電性フィルム、フレキシブル回路基板用フィルム、反射防止フィルムや建築用の断熱材料、液晶ディスプレイ用の高反射フィルム、自動車用ウィンドーフィルムなどがあります。  会社として各分野に共通していえるのは、たんなる装飾用から耐久性などの機能重視の方向へ展開を図っていることです。

――各分野の割合はどうなっていますか。

尾池 売上構成比でみると、数年前まではほぼ4分の1ずつでしたが、この頃は力を入れている工業材料が徐々に伸びてきて3分の1近くになっています。仕向け先では海外がヨーロッパを中心にアメリカ、中国、中近東、東南アジアに輸出しており、全体の25%前後を占めています。

企業グループを形成
――こうした多角化路線と同時に、分社経営も大きな特徴となっていますね。

尾池 いまから26年前、昭和48年に当時あった東京、群馬・桐生、愛知・一宮の3つの営業所をそれぞれ分社したのが最初です。一つの会社として独立させ、独立採算と権限を委譲することで従業員のやる気を引き出すのが狙いでした。その後、鳥取・倉吉の工場や海外営業部門、さらに生産本部の中に設けていた開発研究所なども分社化して、平成6年時点で子会社は11社(研究部門1・物流部門1・営業部門7・生産部門2)を数え、社内では“究極の分社経営”と呼んでいました(笑)。

――別会社方式には確かにメリットがある半面、デメリットも...?

尾池 例えば営業部門では、地域販社としての役割を十分に果たしてきました。ところが首都圏の売り上げが本社を上回るようになったりして、グループとして一つのベクトルに向かって運営していくことが難しい面も生じてきました。人事面では、本社で採用して別会社に配属しているのですが、会社が分かれているとどうしても人材の流動性がなくなってしまいます。
 そこで昨年8月に父のあとを継いで社長に就任してから、集約できるものはしていこうと、国内営業部門の3社を合併するなど再編統合に着手し、現在では従来の子会社は6社(研究1・物流1・営業2・生産2)となっています。  一方、これまでの分社とは違った新しい試みとして、繊維関係の新事業を行うための別会社を昨年9月に設立しました。これはファブレス経営が目的で、今後、この種の子会社は増やしていくつもりです。

――グループ全体を束ねて、しかも総合力を高めていくにはやはり本社の求心力が求められていますね。

尾池 現在、グループ全体の従業員数は430名。先ほど紹介した4つの分野を分野別に総括する推進本部を本社内に置きました。私自身は毎月、各社を回って“ヒヤリング会”を行い、意見交換とともにグループとしてのポリシーの統一を図っています。

「渦の中心になろう」
――ところで、本社社屋はいまだに木造の建物のままですが...。

尾池 研究開発や工場の設備更新にはカネを使っても、間接費にはカネをかけないというのが代々の伝統なんです(笑)。過去、創業100周年や平成8年の120周年の折も、新社屋については話すら出たことがありせん。

――コア・コンピタンス経営がいわれていますが、今後も蒸着技術がキーワードになりますか。

尾池 これからも「常に新しい蒸着製品は尾池工業から」を意味する「Metallizing New, OIKE」というキャッチフレーズを前面に打ち出していきます。自社の強みをさらに強くする、そのコア・テクノロジーは蒸着技術ですし、それをより深めて磨きをかけるために昨年、開発研究所の中に新規開発部門を設けました。
 そして社内のスローガンは「渦の中心になろう」。長年培われてきた基盤に安住することなく、人を巻き込むぐらいの姿勢で業務に取り組み、それぞれが責任を全うしようという意味です。究極の目標は全員参加の経営なんですが...。

DATA
尾池工業(株)
取締役社長 尾池 均
住所〒600-8461
京都市下京区仏光寺通西洞院西入
TEL075-341-2151
FAX075-341-8058
E-mail
oikehead@mail.joho-kyoto.or.jp
URL
http://www.joho-kyoto.or.jp/~oike-ind
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