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1999 JULY
NO.285
KYOTO MEDIA STATION

インタビュー
人材を資源に
独自技術の開発で
多品種少量を貫く


日本電気化学 株式会社
取締役社長 小林 祥一 氏
小林社長


写真製版技術から発展、幅広く事業展開を行っている日本電気化学(株)は、顧客からの多様なニーズに対応するため一貫して多品種少量生産に取り組んでこられました。
その大きな原動力となったのは創業以来の理念である人材教育で、それが独自の技術開発の秘訣ともなっています。

社員の半数が技能士資格者
――正社員の半数近くがプリント配線板、電子機器組立など国家検定2級以上の技能士の資格を持っておられるとか。

小林 正社員193名で男子158名のうち、1級技能士21名、2級が66名を数え、また、それを審査する技能検定員も社内に5名います。この資格制度は平成2年から始まり、最初のプリント配線板の1級受験者が全国で約500名、合格者はその1割程度だったのですが、うちは6名受験で5名が合格しました。
社員に資格取得を別に義務づけているわけではありません。受験準備のための参考図書は会社で負担しますが、取得後は資格手当は出していません。普通なら逆かもしれませんね。それと、これまで資格取得した社員で辞めたものはたった1人というのも自慢の一つです。

――モノづくりには優れた人材が欠かせないということでしょうか。

oem電子機器小林 先代の父(創業者)から受け継いだのが“人間尊重”の理念です。私自身も大学卒業(昭和29年)の折、学長の言葉を今も肝に銘じています。
「教育には即効性はない。しかし、教育をするとしないのでは10年先、20年先に天と地の差が出てくる」と。卒業してすぐにこの会社に入ったのですが、資本金と総資本の違いのわからない。学生時代と異なり実社会での勉強は即、メシの種ですから経営の基本の基本から勉強しました。
社員には社外の研修にもどんどん行かせています。それがエスカレートしてしまって、2名を大学の工学部と大学院の法学研究科で2年間学ばせています。その間の給与はもちろん全部面倒をみていますので、大学に出向させているようなものです(笑)。ただ、人材の登用にあたっては、大企業などでは昇級・昇格試験をやっておられますが、ペーパーテストの成績と実際の職務能力とは必ずしも一致するとは限りません。ですから社内で課長職以上の昇格は私の“独断”で決めています。

――これからの望まれる技術者像については、どのように考えておられますか。

小林 中小企業では“私の専門は電気です”“機械が専門です”と殻に閉じこもっていては仕事になりません。自分の得意分野、専門をきちんと持つのはもちろんですが、それと同時に関連する分野、例えば専門の電気だけではなく、機械や化学のこともわかっているという“一専多能型”の人育てが必要です。

多品種少量に特化
――会社にとってもともとの専門分野、つまり原点は写真製版ですね。

小林 祖父が明治30年代に米国ボストンで当時最先端の写真製版技術を習得して国内で開業し、宮内庁の御蔵版元として古文書の複製などを手がけました。この技術を応用して太平洋戦争の末期、父が航空機の計測器用目盛板を製作するため島津製作所さんと共同出資で「日本銘板(株)」を設立したのが始まりです。昭和30年代はじめにエレクトロニクス分野に進出し、携帯ラジオなどに使う片面プリント配線板、44年には両面印刷プリント配線板の製造を始め、46年に拠点の山科工場、59年には京都府加悦町に工場を建設しました。
パネルスイッチやリモコン、パソコン周辺機器など電子応用製品は昭和60年からOEMにより供給していますが、プリント配線板から銘板・パネル板、立体パネル(精密板金)、電子機器まで、今日の多角化はすべて写真製版技術が原点なんです。

――多品種少量もまた大きな特色となっていますね。

小林 かつて戦時中の航空機も実は多品種少量生産でした。同じものを何十万台もつくる家電製品とはおのずと異なります。現在、最も大量に生産しているものでも月産数百のオーダーですし、他メーカーでは不可能な特大サイズの配線板の製造や、月に1個といった小ロットの発注など、あらゆる注文に対応しています。
過去に海外進出の打診もあり、少しばかり輸出したことはありましたが、規格品を大量生産するのはどうも私の体質に合いません。少なくとも私の代までは国内市場で大手企業が手を出さないようなすき間の、自社技術の複合的な仕事に取り組み、電子応用製品の売上高比率を現在の15%から近く30%台にしたいと考えています。

――そのための研究開発はどのような状況ですか。

小林 研究所を平成2年に開設しました。最近ちょっとのぞいてみたら、健康機器への応用ではフィットネスクラブ向けの体脂肪計、骨量測定の機器をつくったり、P.D.P関連や、感光性セラミックなども研究開発中です。
また、平成3年には新たに3人の美大出身のデザイナーを採用しました。我々の業界ではこれまでデザイン面は顧みられなかったのですが、もっとグラフィカルな機能も重視して商品としての魅力を高めていこうと考えたからです。最近では、JR駅の通路などにある電飾の超薄型表示板を開発して鹿児島、大阪、大津の各駅や、横浜のみなとみらい21に納めるなど、建築デザイン関連分野へも進出しています。

「習慣」の大切さ
――技術を支える生産システムはどうなっていますか。

小林 設計・デザインから製作・機能検査まで、すべて自社内で一貫して手がけています。全自動めっきロボットや全自動表面処理システムなど生産ラインだけでなく、管理部門も給与、会計以外のシステムは自社開発のソフトです。これらを集大成したのがISOの導入で、平成9年に総務・資材・営業などの間接部門を含めたISO9000'sを認証取得しました。次は、ISO14000'sの取得をめざして準備をすすめているところです。

――そして社内では「6S」運動、これはどんな意図からですか。

小林 安全衛生の取り組みとして5S(整理・整とん・清掃・清潔・しつけ)がよく揚げられていますが、それらを本当に身につけるにはもう一つのS、「習慣」が欠かせません。かつて高校野球の監督をしていた経験からいえば、野球は「体で覚える」もの、ボールに対して勝手に選手の体が動くようにならなければ強くなれません。何事も習慣化することで初めて徹底できるのです。 今日、経営資源の再構築がいわれていますが、最も大事なのはやはり「ヒト」ではないでしょうか。組織をまとめていくのが経営で、そのヒトを生かすのが経営者の第一の仕事だと思います。

DATA
日本電気化学(株)
取締役社長小林 祥一
住所〒607-8356
京都市山科区西野後藤町18
TEL075-591-0380
FAX075-591-0908
E-mail
ndkyama@mail.joho-kyoto.or.jp
山科工場
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