1999 MAY
NO.283
KYOTO MEDIA STATION

インタビュー
感動を分かち合う組織運営で
提案型企業をめざす


細井工業株式会社
代表取締役社長 細井 正清 氏


全国を駆け回る自動車のフロントガラスやリヤーガラス用の曲げ金型を製作している細井工業(株)は、昭和26年から舞鶴市内に拠点を構えて、今日の基盤を築いてこられました。
高い技術力と開発力に加え、若い人が喜々として取り組めるような職場環境の改善や様々なアイデアの蓄積で、提案型企業をめざしています。

舞鶴から“全国区”へ
――昨年に創立50周年を迎えられましたが、もともとは何を手がけておられたのですか。

細井 戦前に創業者である父がボイラーの部品で特許を取り、大阪で事業を興したのが前身です。間もなく日本板硝子(株)様とご縁ができ、同社の舞鶴工場建設・進出に伴い、昭和26年に当社も舞鶴にやってきました。

――現在、事業の大きな柱である自動車用フロントガラスやリヤーガラスの曲げ金型を始められたのはいつ頃ですか。

細井 木昭和48年、私が父の後を継いで社長になった年で、ちょうど第1次石油ショックの直前でした。それまでは関東でつくられていたのですが、舞鶴にその主力を移され、地元でなければということで当社が取り組むことになったのです。

――あの微妙な曲げは特殊な技術が必要だったのでは?

細井 極端にいえば、髪の毛一本のズレも許されない職人芸みたいなところがあります。今ではCAD6台がフル稼働し、設計から製作まで一貫して行っています。三次元カーブに対応するCADを導入したのは昭和61年で、恐らく舞鶴地域では一番早かったのではなかったでしょうか。

――ただ、自動車業界の景気にどうしても左右されてしまう面がありますね。

細井 自動車には「平均車齢」という買い替えサイクルがあり、平成9年度の値では、日本が5.04年、米国が8.4年、ドイツは6.7年といわれています。つまり、日本は主要各国より速いペースでモデルチェンジをし、需要を喚起してきたわけです。ところが、この戦略も各国並みに見直しを迫られるようになりましたし、自動車産業の世界的なメガ再編の進むなか、その部品メーカーへの波及も考えられ、当社にとっては新しい課題となっています。

――ライバルとなる競合企業はありますか。

細井 社員にはよく冗談で“うちは全国区の企業なんやで”といっています。もちろん舞鶴には競争相手はいません。全国区どころか、近年はインターナショナルになっております。中国や東アジアの追い上げはありますが、技術的にはその追随を許していないと自負しています。

社員には働きやすさを
――社内には若い女性の現業社員もおられますが、それはどのようなきっかけで?

細井 いま若い3人の女性が男性顔負けの活躍をしています。我々のような中小企業の製造業は3K企業と呼ばれてきました。しかし、男女雇用機会均等法が施行され、TVで女性がヘルメットをかぶり鉄筋を肩に担いでいる姿を見て、当社でも積極的に女性の力、感性を活かしてもらうことはできないかと考え、思い切って求人活動をしてみたのです。“あなたの携わった仕事がフロントガラスやリヤーガラスとして供給され、その車が全国を駆け回る。社会的貢献度の高い仕事なんだ”とアピールしました。
バブルが崩壊して就職事情が一変したこともあって、平成6年には幸い、若い優秀な女性に恵まれました。後に続いて入社した女性たちも、レーザー加工機のオペレートにも興味を示すなど意欲的に取り組んでくれています。

――若い人の心理をくみ取ってモノづくりの面白さを伝えるということですね。

細井 若者の気持ちをとらえる重要なキーワードは「ネオ3K」、つまり「感動」「興奮」「完成度(達成感)」であるといわれています。感動できる仕事、ワクワクしながら取り組める目標、そしてやり遂げたという達成感が得られれば、若い人は喜々として力を発揮してくれます。また、「お役立ちの心で、ものづくり」をモットーとしています。そして職場の環境も良くしようと努力しています。

――快適な職場環境がなにより大切ということですね。

細井 創立50周年を機に社是を「お客様には心地よさを! 社員には働きやすさを!」と改めました。作業環境も従来の3Kイメージを一掃しようと、昨年3月労働省から快適職場推進事業場の認定をいただいたのを契機に、工場に集塵機3基、事務所には空気清浄機2基を備えました。引続き本年も集塵機1基を増設する予定です。

――その50周年記念行事にも工夫をこらされたとか。

細井 思いがけず社員の発案で真新しい社旗の贈呈を受け、ちょうど甲子園の優勝校の選手たちが校旗を掲揚するのと同じように、全員でロープを手にして掲げました。社旗がたなびくと期せずして拍手が起こり、感動したことを今でも胸に刻んでいます。会社の入り口横に記念植樹をし、花壇もつくりました。

アイデアの蓄積が技術力を高める
――今後、どんな会社にしたいと考えておられますか。

細井 我々のような下請企業は、「製品開発」や「販売」は大企業に任せて「生産」だけに取り組んでいるわけで、いわば経営要素の1/3の努力で成り立っているともいえます。ですから高い技術水準と開発力を武器にしなければ、存在価値はありません。
曲げ金型のほか一般産業用省力化機械・装置の製造もしていますし、下請けからの脱皮、自立という考え方もあります。しかし当社の置かれた状況や体質から、それは理想であって現実的ではありません。そのなかで独自性を発揮し、「こうすればもっと安くなる、やり易くなる」と積極的な提案のできる提案型企業をめざしたい。それにはアイデア、知恵を出すこと、このアイデアの蓄積こそが技術力を高めることになると考えています。

――次なる時代に向けてご子息もUターンされて楽しみですね。

細井 長男が4年前、次男が昨年10月に舞鶴に戻ってきてくれました。今日のようなシビアな状況のなかでこそ人は育つ。長男は文系で営業、次男は理系でソフト開発を経験してきましたので、それぞれが補い合えばこれから面白い方向に展開していけるのではとひそかに期待しているところです。Uターンしてきたといわれるような企業でありたいですね。

DATA
細井工業株式会社
代表取締役社長 細井 正清
住 所〒625-0032
京都府舞鶴市愛宕下町2番地の6
TEL0773(62)3512
FAX0773(64)1588

MONTHLY JOHO KYOTO