1999 FEBRUARY
NO.280
KYOTO MEDIA STATION

特集

知的資産の活用で加速する“ 学都 ”の産学連携

大学の知的財産を企業へ移転するための枠組みづくりが本格化している。新たな技術の芽を生み出す大学に対し、産業界の期待が高まっているからだ。経済の再活性化という命題を抱え、関係省庁も産学連携推進のインフラ整備に乗り出した。日米における産学連携の実情と「大学のまち・京都」の動きを紹介する。

大学における日米の特許出願数を比べてみると、1996年、米国3,870件に対し、日本は69件。両者の間には実に50倍以上もの開きがある。(米国の大学は特許出願件数、日本の大学は特許公開公報件数)  伝統的に産業界との結びつきが強い米国の大学では、取得した特許を社会に還元し、その実施料収入を次の研究開発の資金に充てていくというサイクルができ上がっていて、特許を出願してから論文を発表するのが一般的になっている。大学での研究成果を事業化して成功を収めた企業には、古くはヒューレット・パッカードやDEC、最近ではネットスケープ・コミュニケーションズ、ヤフーといった新進気鋭のベンチャー企業も数多い。マサチューセッツ工科大学(MIT)の卒業生や教官、スタッフが設立した企業はこれまでに4,000社以上にのぼるという。  一方、日本では大学の知的財産をどう活用し、社会に活かすかということが必ずしもはっきりしていない。日米における産学連携に対する認識の違いは、学術的関心を優先させる研究者の気質だけでなく、日本の制度にもある。例えば、国立大学の研究者が取得した特許の権利は研究者個人に帰属するが、取得手続きやその費用、管理はすべて個人任せ。このため、煩雑な手続きを嫌い、特許出願をためらってしまうという面もあった。

大学からの技術移転が新産業創出の原動力に
―米国―

米国では、研究者が企業に移籍したり再び大学に戻ったりと、大学と企業の間を行き来するのはごく当たり前のこと。大学には企業との橋渡し役として、学内に設置されたライセンシングオフィスと呼ばれる技術移転事務所があり、そこで活躍するのがライセンシング担当者(LA)である。技術移転事務所は学部学科の枠を超えた独立組織として活動している。
LAは研究者から持ち込まれた研究成果を新規性、技術的特徴、市場性などの観点から評価し、その技術の移転先企業を検討する。この間、特許を出願して権利化し、移転先候補とライセンス契約まで持っていき、そして特許使用料(ロイヤリティー)を回収する。製品化の過程で研究者の協力を取りつけたり、ライセンス先の事業動向を監視するのもLAの役割だ。したがって、LAには技術とビジネスの両方に通じた能力が求められることになる。このような機能を専門的な部署が受け持つことによって、研究者は研究に専念できるわけである。
米国で技術移転事務所が生まれたのは、1980年のベイ・ドール法(個々の大学に特許の所有を認めた法律)の制定がきっかけとなった。「連邦政府から研究資金が提供されていたとしても、学内の研究活動から生まれた特許権は大学に帰属する」とうたった同法によって、大学所有の特許件数は飛躍的に増大し、技術移転の件数も急増した。ロイヤリティーが大学の収入となり研究費の増加につながったこと、また、それが研究者の重要な評価項目となっていることが産学連携をより強めるインセンティブとなったのである。
この結果、全米の大学のロイヤリティー収入は95年に約5億ドルに達し、大学の技術を活用して派生した企業は約1,900社(80年〜96年)を数えるという。今日、大学からの技術移転による経済効果は年ベースで200億ドル、雇用効果は21万人ともいわれている。このように、米国では大学が新技術・新産業を創出するダイナミズムの原動力となっている様子がうかがえる。

着々と整備が進む産学連携の制度・施設
―日本―

日本でも、経済の再活性化を図るため産学連携を促し、イノベーションをもたらそうという機運が高まり、数年前から通産・文部両省を中心とした行政によるテコ入れが始まった。1995年に科学技術基本法を制定、それを受けて翌96年の「科学技術基本計画」や、97年には「経済構造の変革と創造のための行動計画」が策定され、厳しい財政事情下でも産学連携による研究開発にはできるだけ予算を確保しようという方針を打ち出した。これと並行して、国立大学教員の兼業の解禁▽企業への出張研究の許可▽大学との共同研究にかかる企業の研究費の減税、など一連の制度改革も進められた。
さらに、文部省の主導で95年度から独創的な研究開発の推進と起業精神に富む人材の育成を目的として、国立大学の大学院に先端研究の拠点となるベンチャービジネス・ラボラトリー(VBL)の設置がスタート。現在では全国27大学に広がっており、多くの大学が地域性を生かした特色づくりに取り組む一方、ベンチャー企業との連携も加速させている。
京都大学VBLは先進電子材料の開発にテーマを絞り、国内外の研究機関・企業との共同研究や受託研究、人材交流などを進めているほか、98年には大学院工学研究科の博士課程にVB講座「新産業創成論」を開講した。弁理士による知的財産権問題の講座やVB経営者の起業体験談、経営学系の教授によるベンチャー企業論などで、研究内容の事業シーズ(種子)化と経営のわかる技術者の育成を狙った。京都工芸繊維大学VBLでは、昆虫機能を基盤とする生産物質の有効利用の研究開発プロジェクトが進行中。また、これに先だって90年に設立された地域共同研究センターにも企業との共同研究に多くの実績がある。


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