姉妹都市が縁で中国と技術提携 ――中国・上海の南、浙江省寧波市の寧波中策電子有限公司と技術提携をしておられますが、それはどのような経緯から? 木下 15年前に長岡京市と寧波市が姉妹都市の関係を結んだ折に、産業分野でも技術交流をしようと中国からの研修生を市内の企業で受け入れることになりました。当社でも1回2名ずつ1年間、同じ業種の有限公司からこれまで3回にわたって研修生を受け入れ、その後も頻繁に行き来して交流を深めています。 ――今日、中国の技術レベルはどうなんでしょう。 木下 当初は品質管理面の習得からスタートしたのですが、やがて研修生は大卒後6〜7年というキャリア層が中心になり、レベルも非常に高くなって我々もいろいろ教えられることがありました。先方の有限公司では、日本に留学経験のある電子専攻の若い有能な大学教授が顧問のような立場で指導したり、大学へ開発協力の依頼もしています。技術進歩のスピードからみて、近い将来、日本向け制御機器の生産基地になることも十分考えられるでしょう。 ――その兆しはすでに見られますか。 木下 このところ現地ではフル操業が続いています。その仕事の大半が日本企業からの注文なんです。いいかえれば、その分、国内の下請企業があおりを受けているわけですが……。 ニーズをカタチにする ――創業が昭和49年、最初に手がけたのは何でしたか。 木下 ちょうど第1次石油ショック直後で景気の悪い時期でしたが、「電気・電子制御技術の百貨店」をめざして始めました。実は、国内でカラオケブームを生んだのは当社だと自負しているんです。当時、まだはしりだったカラオケ装置を開発し、量産のメドがついたので“やっていける”と独立したわけです。祇園などの店でも当社の商品をよく見かけました。 ――電子制御装置といっても対応領域は多種多様ですね。 木下 あえて分野は特定せず、面白そうなことには開発ブレーンとして、あらゆる領域のエレクトロニクス化にチャレンジしてきました。昭和50年代には養魚警報装置、電子打楽器、全自動麻雀卓制御器、カラーモニターの開発や、ファミコンの一部も組み立てたことがあります。なかでもヒットしたのはカラーモニターで、一時は中国にもかなり輸出しました。 ――その後、開発された独自商品やその売れ行きはいかがでしたか。 木下 ケーブル加工配線のショート・誤配線の検査をするケーブルチェッカー、カード時代に対応したレンタルショップや喫茶店など向けのプリペイドカードシステム機器「券発君(ケンパツクン)」、プリント基板や金属製品を超音波によって短時間で精密に洗浄する超音波発振器などがあります。ケーブルチェッカー、超音波発振器は国内に安定出荷していますが、「券発君」はむしろ韓国のほうで出回っています。 従業員は現在31名おりますが、OEM(相手先ブランドによる生産)を含めて毎月20〜30社から受注があります。ですから男子のほとんどが技術屋で、営業になかなか手が回らないというのが悩みです。
――ブランド名「LOGUE(ローグ)」の由来は? また特許はどうなっていますか。 木下 英語のプロローグのローグで、言葉とか対話という意味です。技術やメカニズムはそれ単体で成立するものではなく、人、社会とのかかわりのなかで意味を持つものです。メーカーとユーザーのインターフェイス、コミュニケーションを通じて“ニーズをカタチにする”という当社のポリシーの象徴としてブランド名にしています。 特許の取得についてはあまりこだわっていません。逆に世間にニーズの所在を教えているようなものですから。それより、また面白いことにチャレンジしていこうという気持ちのほうが強いですね。 ユーザーとの対話をきっかけに ――業界や地域での活動にも精力的に取り組んでおられますね。 木下 昨年から京都府電子機器工業会(43社)の会長をさせていただいており、この9月には村田製作所さんのご協力を得て初の本格的な会員企業の交流会(展示会と講演)を催しました。会員相互は同じ領域の仕事をしている競争相手ともいえますが、でも仲間同士なんです。おのおのが特徴をPRし、大企業にはない小回りの利く展開を図ってともに成長していこう、と。また、地元の長岡京市商工連合会の工業部会長を務め、パソコン教室を開いたり、先進事例の視察や他団体との交流を行なっています。地域の産業発展と企業活動は決して無縁ではありません。 ――今後、新規事業としてどのような分野を考えておられますか。 木下 大きなくくりとしては環境や医療関連の分野が注目されますし、目下進行中の開発テーマもあります。中国では、国策として白熱電球から蛍光灯へと変わりつつあり、そうなると消費電力は従来の4分の1で済み、中国全土でみるとものすごい省エネルギーが図れることになります。その辺りのプロジェクトの一端を担えればということで寧波の有限公司と検討しているところです。 ――そうした情報収集やニーズの発掘に何かノウハウはありますか。 木下 振り返ってみると、やってよかった、面白かったものもあれば、やらないほうがよかったという失敗も結構ありました。いうまでもなく、100%いい結果が出るわけではありません。私どもは技術屋の集まりです。ユーザーからお声がかかれば、率直にお聞きして要望に応えていくことを心がけてきました。すべてはユーザーとの対話のなかからニーズをつかみ、新しい開発視点の糸口を見いだしてきたといえるかもしれません。
|