1998 JULY
NO.273
KYOTO MEDIA STATION
特集 小売商業支援センター
あきんど講座 小売商店活性化セミナー
「売れない時代の売れる商品・売れるサービス」
今回の特集は平成10年5月21日に開催した「あきんど講座」の内容をまとめたものです。

講師/日経産業消費研究所 主任研究員
永家 一孝氏
■プロフィール
略歴:昭和51年 早大卒・日本経済新聞社入社
平成4年 同社編集局流通経済部次長
平成6年 日経産業消費研究所主任研究員
論文:「ブランドパワーの構造」
「伸び悩む外食市場と進む業態分化」
「いま何がヒットし、これから何がヒットするか」

これから何が売れるかは、そう簡単に分かることではありません。しかし、実際に売れている商品を調べて共通する傾向、背景について考え、その上で消費者のニーズや技術の面から考察を加えれば、何が売れるかのヒントになるのではないでしょうか。

■消費低迷の原因を探る

今は消費低迷の時代、つまり売れない時代といわれていますが、それではなぜ売れないのか? 実際に消費者に聞いてみた結果を紹介します。
 今年4月の調査における「特別減税の追加の実施で支出を増やしますか」という質問に対し、「かなり増やす」という回答は0.3%、「ある程度増やす」が7.7%で合わせても1割に満たず、8割近くが消費態度を変えないという結果でした。その理由には、老後や雇用に関する「先行きの不安」が47.2%、「景気が悪い」が42.5%など情緒的・心理的なものが多くみられました。
 老後の問題では、年々増加する負担に対してどれだけ安心できるかがはっきりしない。雇用については、年功序列が崩れ、能力給が導入され始めたこともあって、失業に対して不安を感じる人が徐々に増えています。
 さらに注目すべきは、「買いたいモノがない」という回答が33.6%を占めたこと。これは、消費の飽和、つまり日本社会の成熟化によって、人々のモノに対する欲求が薄れてきているということなのかもしれません。また、「魅力的な商品がないから」という回答もかなりあり、商品分野ごとに違いはあるかもしれませんが、消費者の心理は基本的に同じではないかと思われます。
 そこで、消費低迷の中で売れているモノを考えていきたいと思います。

■消費不況下で「売れているモノ・サービス」

97年ヒット商品の新バリュー提案
97年に「日経優秀製品・サービス賞」の対象となった商品を中心に最近のヒット商品の特徴を私なりに整理してみると、次のようになります。
1.「環境への配慮」
 少々高くても環境に配慮したモノを買いたいという意識が、若年層、高学歴層などから一般消費者へと広がってきて、リターナブルのビール瓶や詰替用製品などが改めて見直されるという状況もみられました。
 特に象徴的だったのは、昨年末に出たトヨタ自動車のハイブリッド乗用車「プリウス」。“ハイブリッド”とは2つの要素の融合のことで、この車の場合、スピードに応じて電気モーターとガソリンエンジンを使い分けています。そして、燃費効率に優れ、排出する二酸化炭素の量を半減するということで、大々的な広告を打って戦略的にPRした結果、実際に多くの消費者が動きました。
 また、洗濯機や冷蔵庫では静音であることが重視され始め、運転時の騒音を従来の2分の1から3分の1に抑えた東芝「DDインバーター銀河」は、狭い家でも周りを気にせず深夜、早朝に洗濯できるというニーズをつかみました。
2.「バリアフリー」
 お年寄りの数が増え、体の不自由な方への配慮が企業に対する評価に影響してくるようになりました。そんな社会的な要請もあって、こうした方々が普通の人と同じような感覚で使える商品の開発が本格化し始めました。例えば、入り口の段差をなくし、腰をかがめずに洗面台が使えるなどの配慮をしたTOTOのバスルーム「フローピア レブリス」や積水化学工業の一戸建て住宅「ハイム ワルツ」。障害者向けでは、目の不自由な方のための音訳ソフト「ヨメール」などが開発されています。
3.「利便性」
 今に始まったことではないですが、コンビニエンスストアの成長ぶりが象徴するように、利便性への嗜好は価格以上に強いと思います。先端的な商品としては、カルシウム入り無洗米、カーケア用品など、また日立デジタル平凡社のマルチメディア百科事典のように、コンパクト化による工夫も増えています。
4.「健康志向」
 健康志向は単なる流行ではなく毎年徐々に高まっていく志向として重要です。ヒット商品は特に食品関係が多く、その1つが、虫歯の予防にいい天然素材の甘味料を使ったロッテの「キシリトールガム」。これは、欧米から仕入れたネタを日本でニーズが出そうな時に商品化するという、キャッチアップ型商品開発の典型ともいえます。他にはキリンビバレッジの食物繊維やビタミンを補給する清涼飲料「サプリ」などもありました。
 また、体脂肪というものが話題になって、オムロンでは一般の人が使える1万円位からの体脂肪計「HBF-3001」が開発されました。これまでにも業務用の測定機器はありましたが、健康への意識が高まり、家庭でもやってみたいというニーズが出たところで一般向けの製品を開発してヒットした好例といえます。
5.「価格志向」
 かつての価格破壊には再検討の必要がありますが、その背景に低価格を求める多くの消費者がいたことは間違いありません。昨年は高木産業という静岡のメーカーのパソコン「パーパス スーパーデスクトップ PC」が、当時9万9千円で高画質ディスプレイやスピーカーを装備していて話題になりました。また日本電信電話では、低額制のインターネット接続サービス「OCN」を発表。情報化、情報機器の分野で低価格商品や価格ダウンが目立ちました。
6.「エンターテインメント」
 これは、環境やバリアフリーと並ぶ昨年の特徴の1つです。昨年は「もののけ姫」が大ヒットして映画が久々に見直された年であり、郊外の大型スーパーの上に相次いで複合型映画館が開設されました。
 また、昨年末にテレビ放映でちょっと問題がおこりましたが、「ポケットモンスター」の大ヒットは注目されます。多くの関連商品を含めると日経流通新聞の調べでは4000億円の市場です。子どもの遊びの中にたくさんの要素をつくってうまく製品化してあって、1つの時代の動きを反映した商品開発だと思います。
 あと、「プリント倶楽部」や「たまごっち」。情報化の中に新たなゲーム性を取り入れたニーズは、幅広い世代に向けて基本技術の応用が可能ですから、後にはデジタルのビデオでも「プリント倶楽部」と同様の機能が開発されました。
 これらをみていくと、実質的な値段のことを加味した上で、消費者のニーズに着目して、新しい価値、バリューの提案をした商品が売れているといえるのではないでしょうか。

食品・日用雑貨の最近の売れ筋から
消費不況下で売れている商品には、それなりのニーズや背景があります。そして、ヒット商品の構造は大きく2つあり、1つはもともと消費者のニーズがあるか、商品によってニーズが引き出されたもの。もう1つは、供給側の技術的な要因や流通の事情で、消費者にフィットするモノを作る技術や提供する場所、提供する価格などの条件が揃ったものです。技術的なモノはシーズ(種)、消費者側はニーズといわれますが、商品がヒットするにはこの2つと流通がマッチする必要があります。一例として、最近行った消費者の商品ニーズに関する調査から、健康志向についてご紹介します。

[有機野菜に対する消費者ニーズ]

健康志向を背景に最近話題になっている有機野菜は、複雑な流通の問題を抱えていますが、値段が少し高くても消費者にとっては魅力のある人気商品です。購入する理由を複数あげてもらうと、「安全性が高い」が一番多く、2番目が「健康によい」でしたので、この野菜に最も期待されているのは安全性だということ。また、3番目以降には「おいしい」、「鮮度がよい」、「栄養が豊富」という回答が続きましたので、「店頭でよく見かける」、「最近話題になっている」、「人に勧められて」といった理由によるのではなく、自分自身が評価するからこそ買っているのだといえます。そして、購買頻度は最近の傾向に関心が高い20代と安全性や健康への志向が強い50代、60代が高く、その間の30代、40代が低いという結果でした。

[食品・家庭用品の売り上げベスト3]

次に、この13ヵ月間に市場に登場し、5月はじめの週間売り上げが高かった食品関係の新製品をPOSデータで調べた結果から、日本たばこ産業の「桃の天然水」、アサヒ飲料の「オー・プラス」、大塚製薬の「ポカリスエット500ml」の3商品に注目してみます。
1.日本たばこ産業の「桃の天然水」。これは、同社がここ10年間に出した飲料の中で1番の大ヒット商品。開発されたのは平成8年3月ですが、今年2月に内容を変えてCMを積極的に打つと爆発的に売れ始めました。天然水を使用し、ほのかな桃の甘さがあって、メインターゲットの若い女性はもちろん、中年の男性でもおいしいと感じられるような味わいで、CMに人気歌手を起用したこと、また、最近の商品の中では素朴でインパクトのある「桃の天然水」という名前などがヒットの理由かと思います。 2.アサヒ飲料の「オー・プラス」。「オー」とは水を意味するフランス語の「EAU」であるとともに、ゼロと読むこともできる英語の「O」のことであり、水に自然素材などをプラスしていて、砂糖をまったく使っていないという意味です。開発のコンセプトは、ウォーター系健康飲料の甘さや人工的な感じへの不満を解消すること。体に悪い人工甘味料の代わりに、ケラチアロエ、カモミールなど10種類の植物とエビスリトールという新甘味料で甘みを出し、レモン50個分のビタミンCを加えています。
3.大塚製薬の「ポカリスエット500ml」。点滴のメーカーだった同社が発汗作用を補う体液に近いものとして1980年に開発し、単なるスポーツドリンクではなく、風呂上がりや飲酒後など様々な局面で使える飲料としてPRしてきました。標準小売価格ベースで1600億円の市場ですが、500mlのペットボトル入りの発売によって、さらに市場規模の拡大を狙っています。
 これら3商品の共通点は、持ち歩きができる手頃な容量、大きさであり、コンビニでも扱いやすい500mlのペットボトルで売られたということです。使い方や使用シーンに対応した形状にそれぞれの開発要素が加わってヒットしたことから、シーズとニーズがうまく噛み合った例だといえるでしょう。
 それから、日清食品「炎のカップヌードル」は、サッカーの日本代表チームのオフィシャル商品として様々なキャンペーンを展開しましたが、その時代のテーマを取り入れてアピールし、市場のシェアを保つのは、ブランド力の強いロングセラー商品の典型的な販売方法です。
 次に家庭用品では、花王の「ビオレ目もとうるおいパック」。これは、目もとにシート状のパックを一晩貼っておけば水分が補給されるというもので、保湿剤を含む素材づくりをして20代後半から30代の女性にアピールしました。そして、花王の赤ちゃん用パンツ「スーパーメリーズパンツ 超吸収スリム」やカネボウ化粧品の「ラファイエ エステデュアル」。デュアルとは新酵素によって肌がきれいになる、柔らかくスベスベになるという2つの効果を意味し、エステティックサロンの気分を味わいながら自分の手で効果を出すという点に工夫があります。
 こうした商品の共通点には、ネーミングや狙いどころ、手頃な価格設定、使いやすさ、新技術で女性の要望に応えたことなどがあります。
 また、技術革新が盛んな電気製品においては、特に情報家電の分野で様々な製品が開発されています。カメラやビデオは日々小型化し、例えばカメラなら2倍ズームや3倍ズームなどの機能に限定したカテゴリー別に「世界最小、最軽量」の製品開発を競っており、売り物の1つになっています。世界最小のズームコンパクトレンズを搭載したキヤノンの「IXY(イクシー)」などがヒットしました。

ブームの考察
健康志向を背景にした○○ブームは意外とたくさんあります。赤ワインや発泡酒、あるいはキシリトール、また、長期間の潤いと空間的な価値を楽しむガーデニングや様々な分野における香りの演出などがブームになっています。そして、やはりインターネット。各社の新製品はホームページに詳しく載っていて、特に家電などは資料がうまく整理されているので見ていて面白い。また、子ども向けではハイパーヨーヨーやポケモンも大ヒットしています。このように、不況下とはいえ様々なブームがあるので、それらをうまくとらえることが重要です。

■有望な新製品・新サービス

今後、求められているもの
今後有望と考えられる新製品や新サービスの傾向としては、快適性を高める商品やサービス、つまり「アメニティー追求型」。そして、新しい消費者のニーズに対応し、発掘するような「ニーズ発掘型」。それと「使いやすさとリーズナブルな価格」、「環境や地域への配慮」、そして「新しいライフスタイル」を意識した商品ではないかと思います。
 かつてアルビン・トフラーがコンシューマー(消費者)とプロデューサー(生産者)の中間としてプロシューマー(生産=消費者)という概念を『第三の波』という本で取り上げましたが、「自分のモノは自分で作りたい」、「自分らしいモノを」といった欲求が出てくるとともに、情報化が進んで特にパソコンによって従来できなかったモノができるようになってきているので、今後はこういったニーズに応えていく必要があるのではないかと思います。

ヒットの可能性のある商品
最後に、最近発表された、または近々売り出されるモノでヒットが予想されるモノをいくつかピックアップしてみます。
 まずは、松下電器の小型・低価格のセントラルクリーナー「MC-H30」や三菱電機の「みんなまんなかタイプ」。日立の「野菜中心蔵」のように野菜が真ん中に来るものが最近流行していますが、そこにいろいろなものを集め、前からだけでなく両側から冷やすという独自の製品化をしたモノです。また、オリンパス光学工業が6月に発売した「アイトレック」。サングラス感覚で装着すると、テレビやビデオの画像が大画面で見えるという商品です。ソニーの先行機種に対して、利用を楽にする軽量化や、従来と違った非対称・自由曲面の光学レンズを使用して明るくするなど、多くの問題点を克服しています。日本航空のファーストクラスでサービスに使われるそうですが、パーソナルユースでみれば面白い商品かと思います。
 雑貨では、キシリトール配合の子ども用歯磨きや住友ゴムが出した中間層にウレタン樹脂を使ったゴルフボール。これは腕が悪くても飛距離が伸ばせるというもので、年配者と女性を意識しています。
 食品では、メルシャンの微発酵性ワイン「ワインプリッツアー」や赤ワインに入っているポリフェノールの含有量を増やした「チョコレート効果」。今日の考え方からは、こういうものにヒットの可能性があるのではないかと思います。

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