1998 JUNE
NO.272
KYOTO MEDIA STATION

インタビュー
エレクトロニクスをベースに先端技術の融合化をめざす

橋本電子工業(株)
代表取締役社長 橋本 正敏 氏


分野を越えて技術を展開
――34歳で脱サラし、創業されてから15年。現在、どのような事業を展開しておられるのですか。

橋本 エレクトロニクスを軸に4つの事業を手がけています。1つは創業以来取り組んでいる電子検査システムで、マイクロチップを導入した電磁リレー用特性検査機を開発しました。その一環としてタンクなどの構造物を壊さずに中を検査する非破壊検査装置もつくっています。2つ目は自動制御システムです。代表例が劇場、多目的ホールの舞台や吊り物の制御で、これまで京都府民ホール「アルティ」をはじめ仙台から福岡まで全国100カ所で仕事をさせていただきました。3つ目は、工場を対象に出来高や品質、コストなどのデータ処理をする製造情報管理システム。これはPL法やISO9000シリーズ取得の動きに対応したものです。
ところが、これら3つの事業はいずれもオーダーメードなので、経営計画がなかなか立てづらいという面があります。そこで自らつくって販売できるものはないかと模索し、4つ目の事業としてキー(鍵)メーカーとタイアップして電子ロックシステムを開発、数年前から量産を始めました。

――劇場用制御システムというのはユニークな着眼ですね。

橋本 当昭和50年代まで舞台装置はもっぱら人力やモーターに頼っていました。それが造船不況によって陸に上がったメーカーの新規事業分野として注目され、折から全国至る所に文化ホールが誕生したこともあって一気に市場が広まりました。造船という老舗の業界と新進のコンピュータシステムがドッキングした面白いケースですね。私どもはたまたま大手メーカーから「一緒にやろう」とお声をかけていただいたのがきっかけでした。

――それでは現在、4つの事業の売上構成比はどうなっていますか。

橋本 それぞれ開発経緯の順に紹介したのですが、狙いどおりといいますか、4番目の電子ロックシステムが2〜3年前から伸びてきて、全体の40%程度を占めています。

ネットワークのつくり方
――さらに計画されている新規事業は?

橋本 産官学連携の共同開発をめざして三重県情報電子技術研究会のメンバーに加わっています。地元の高専で教鞭をとる先輩が「人工筋肉」の研究をしていて、私どもも中小企業創造活動促進法の適用を受けてそれに参加しており、開発に成功すれば義肢の分野に進出したい、と。もう一つはバイオセンサー(生体感応装置)の開発で、現在、社員1名が北陸先端科学技術院大学に留学しています。人工筋肉はエレクトロニクスとファインメカニクス、バイオセンサーはバイオニクスとのドッキングというわけです。このようにエレクトロニクスと異業種との融合化を基本スタンスにしています。

――事業多角化戦略に伴う相手企業は大手、中小のどちらが多かったですか。

橋本 一面で一点キリ揉みという経営手法もありますが、たくさんのラインアップを持つことは不景気に強いということにもつながると考えています。あちらがダメでもこちらがあるということで、これまでもどれかの事業が支えになってきました。相手企業はどちらかというと最終的には大手企業が残りました。新規事業にはどうしてもリスクが伴いますから。

――三重県中小企業家同友会の副代表理事を務められる傍ら、(協)松阪流通センターに参画、また京都産業情報センターの「夢現の会」にも入っておられますが、ネットワークづくりのコツみたいなものはありますか。

橋本 異業種交流は最終的には人間交流ですね。相手の方がどんなポリシーを持っておられるのか、そして自分の得意分野といかに融合できるか。それにはこちらから情報をどんどん発信していくことです。(協)松阪流通センターは流通業者が主体ですが、流通業がこれから伸びていくには共同配送を図っていく必要があります。そのためのシステムづくりのお役に立てれば、と参加させていただきました。また、同センター内にはこのほど新社屋を設け、本社機能を移転させています。

――松阪が拠点ということでのメリット、デメリットはありますか。

橋本 松阪で生まれ育ったものですから、“地元の利”はあります。かつては大都市でないと仕事ができないということもありましたが、情報社会の今日ではほとんど影響はありません。ただ、情報は入るのですけど実際にお会いしての人間交流にはやや難があるかもしれません。将来的には、京都に事業所をという心意気はあるのですが…(笑)。

技術者よりまず社会人として
――それから会社の発展には人づくりも大きなポイントになりますね。今春の新人採用は?

橋本 現在、社員数は30名ですが、今年は大学院修了者を含め4名採りました。私はいつも、いの一番に人間はなぜ働くのか、技術者である前に社会人であれ、と言っています。「自由・平等・権利」の話もしたのですが、皆びっくりするんです。きっと家庭でも学校でもそんな話を聞いたことがなかったからでしょう。



――事業の多角化に向けてどのような組織にしておられるのですか。

橋本 4つの事業に合わせてそれぞれ事業室制をとっており、各室長に権限を委譲しています。これから育てていくという事業、人工筋肉とかバイオセンサーについては私が直轄で兼務しています。

――当面の目標は?

橋本 3次にわたる3カ年計画(9カ年計画)を立てていて、今年は第1次の2年目にあたるので、7年後の第3次の最終年度には売上高を現在の2.5倍にもっていきたい。そして人工筋肉が事業化できれば4倍に、と夢を描いています。

DATA
橋本電子工業(株)
代表者橋本 正敏
住 所〒515-0104
三重県松阪市高須町3866-12
TEL0598-51-3111(代)
FAX00598-52-1417
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