制御技術を卵パックに応用 ―現在、鶏卵の選別包装装置では国内シェアの70%以上を占めると聞いています。この市場に着目されたきっかけは? 南部 父が創業以来、大手家電メーカーの自動化ラインの設計製作をやっていたのですが、知り合いの方から「卵の包装や選別に困っているんだけど、ひとつやってみないか」と持ちかけられ、全くの偶然からでした。昭和40年代後半の頃です。それで当時使われていた設備を見て、うちの制御技術ならできる、とむしろ勇んでこの分野に進出しました。 ―最初に手がけられたのは何ですか。 南部 卵パックの超音波シーラーです。それまでパックをホチキスで留めていたのを、溶着方式に切り替えたわけです。昭和50年に開発したのですが、当初は不良品も出て、いろいろクレームがありました。「パックがはがれて卵が落ちた」「落ちて割れた卵で足をすべらせて腰を打った」とか……。どうすれば商品が世の中に受け入れてもらえるのか、いい勉強をさせてもらいました。しかも、世界で初めてということで注目され、やがてヒット商品に。同時に不思議なもので、一定のシェアを占めるようになると、いまはやりの言葉でいえばデファクト・スタンダード(事実上の標準)というのでしょうか、たとえクレームが出ても処理がスムーズに運ぶようになりました。 ―その支えになったのが技術力。でも、新規参入にあたっては市場戦略も? 南部 かつていわれたご飯を炊くのと同じ要領で“始めチョロチョロ、中パッパ”ですね。最初が大事ですからそろりと、慎重にうまくやらないとつらいものがあります。そして、これでいけると思ったら、ガーンと攻めに徹することです。 特許出願260件 ―超音波シーラーの開発がエポックメーキングの第1弾とすれば、第2弾が全自動洗卵選別システムということになりますか。 南部 工業製品はちゃんと寸法が決まっていますが、卵はそれぞれ大きさが異なるし、扱い方で割れもします。 シーラーの開発から5年後の昭和55年、ようやく完成にこぎつけました。その頃の機械は輸入品が主流だったものですから、初の国産品としてのちに科学技術庁から注目発明賞をいただきました。 ―“出る杭は打たれる”ではありませんが、トラブルに巻き込まれたこともあったとか。 南部 米国の企業から特許侵害だと一方的に訴えられ、一時は会社存続の岐路に立たされたこともあります。でも、そのことが結果的には今日の基盤を築くもとにもなりました。というのは、ならば意地でもやってやろうと、どんどん特許を出願していったわけです。現在までに特許・実用新案の出願件数は約260件、うち米国、フランス、オランダなど海外が20件あります。 ――その後、卵だけでなく野菜・果物の選果装置も開発されましたね。 南部 メインのお取引先であるJA経済連から「卵ができるのだったら球状の青果物もできないか」と声をかけていただき、平成6年、手始めにトマトの選果装置を開発しました。これも、いってみれば特許の塊みたいなものです。このほか、ナシ、モモ、リンゴ、カキなどにも対応しています。 ――そのトマトで昨年は日本農業施設学会から技術賞、併せて京都産業技術振興財団の中小企業優秀技術賞を受章されましたが、選果システムの最大の特徴は何ですか。 南部 1個ずつキャリアに乗って流れてくるトマトを品質、大きさなど等階級別に瞬時に選別するのですが、それぞれ1箱分の個数になるまでコンピュータ処理によって待機させておくという「ストック型」を導入したことです。さらに作業の時間ロスを解消するため、等階級ごとに分量に応じて作業区画を自動的に拡大縮小する、「ダイナミック割り付け」も行なっています。 ――等階級といえば日本の農産物の場合、こんなに細分化する必要があるのかという声も聞かれますが……。 南部 国際的にみると規格の種類が多いのは確かで、海外の関係者は「クレイジーだ」と驚いていました。実は生産サイドでも「本当は我々もやりたくない。しかし、競合産地が差別化戦略でやると、こちらもやらざるを得ないんだ」と。いってみれば産地間競争が生んだ“必要悪”かもしれません。 時代の方向性を見据えて ―もともとの社名「南部電機製作所」から「ナベル」へ、農畜産物の自動化装置メーカーとして発展されてきたわけですが、今後、海外進出についてはいかがですか。 南部 輸出比率は現在5%程度で、これから特に海外に力を入れていく考えはありません。国内でのポジションをより盤石なものにと思っています。例えば、卵自体は差別化要素の少ない商品です。マーケットボリュームは頭打ちになり、工夫をこらしたパッケージデザインやラベルもそろそろ飽きられてきたようにも感じます。安全志向の高まりから、生鮮食品は消費者との“顔の見える関係”が唱えられていますが、昨年、ヒビ卵検査装置の開発に成功しました。「この卵はナベルの機械でヒビ割れを全数チェックしています」というのが目下の“売り”です。 ―次なる開発戦略の柱は? 南部 数年前から、時代の方向と我々のめざす技術がクロスできるものは何か、と構想をあたためています。しかし、農畜産物の選別包装の分野からはみ出すつもりはありません。お客さまのニーズに合わせて何でもつくるというのも1つの生き方でしょうが、企業は社会的存在としてそれなりに使命があるはずだし、そこだけはきちんと押さえておきたいと思います。 ―異業種企業との交流活動はどのように活用すべきとお考えですか。 南部 経営者というのは大なり小なり、潜在意識のなかで失敗、赤字ということに恐怖心を抱いているのではないでしょうか。振り返ってみると、決して順風満帆ばかりではありませんでした。製品開発型の企業として、不断の精進に加えて異分野の技術者との交流は大切ですし、会社自体がそういう集団でありたいと願っています。ただ、異業種交流の心構えとして、参加すれば何か勉強になるだろうという期待感だけでは得るものは少ないでしょう。私自身は、自分はこういうことをやりたいからメンバーのあなたたちも手伝ってくれ、という意気込みをもって参加してこそ、実りもあると思っています。
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