1998 FEBRUARY
NO.268
KYOTO MEDIA STATION

京都・人・産業
巻頭インタビュー Vol.22/第1回
(財)京都産業情報センター 専務理事
内田 頼利 氏

設問1―産業構造の変革の中でIT(インフォメーション・テクノロジー)が重要な位置を占めることになると言われていますが、その具体的な内容、今後の展開について。

ITとは、私は単なるコンピュータによる情報処理ではなく、コンピュータと通信技術の融合による、新しい通信・情報処理技術と考えています。したがって、単にITというよりもIT技術(Information and Telecomputing Technology)と呼ぶべきではないかと思っています。それは時間と空間を短縮し、人類が未だかってない次元で、産業活動を行っていく新しいツールです。
なぜそのようなことが可能になったのかを少し考察してみると、まずコンピュータの価格・性能比の向上があげられます。20年前の大型コンピュータの性能・機能が今はデスクトップのパソコンで得られます。ソフトウェアの進歩はハードの進歩ほどではないけれど、それでも今は便利な表計算ツールを駆使し、マウスによるクリックで様々な処理が可能になりました。このような、操作性(ヒューマン・インターフェイス)の向上は極めて大きなもので、ハードウェアの性能向上によってはじめて可能になったとも考えられます。これによって、コンピュータの専門家でない人でも、容易にパソコンを操作し、目的の仕事を遂行することができるようになりました。
つぎに通信速度・技術の向上があげられます。コンピュータ間の通信速度に関しても、つい先頃まで、大型コンピュータと末端間の通信速度は9600bps(9.6kbps)とかといっていたものが、家庭でのパソコン通信ですら28.8kbpsが普通になっており、B-ISDNを利用すれば、64kbps〜1.5Mbpsの速度での通信が可能になるでしょう。またこれよりずっと高速の156Mbps帯域のATMと呼ばれる通信方式の研究が行われており、近い将来に高精細動画像の電送や様々な高度なアプリケーションが可能になるでしょう。
またコンピュータ・ネットワーク技術の進歩により、異なる様々な種類のコンピュータ間の通信が可能となりました。WWW(ワールド・ワイド・ウェッブ)と呼ばれるインターネットには、全世界で1億人以上の人々がお互いに結ばれて、通信することが可能になっています。このような技術進歩の結果により、単なる文字情報による通信のみでなく、音声、画像等のいわゆるマルチメディアによる情報交換が日常のものとして利用できるようになっています。
これらの技術の進歩は、ビジネスのツールとして、すばらしい効果を発揮しつつあります。インターネットのメールによる情報交換やメーリングリストによる会議では、お互いがわざわざ時間を調整し、会合することなく、24時間中どんなところにいても、打ち合わせし、意見交換ができるようになりました。いわゆるホワイトカラーの生産性の向上は、これらのツールの活用によってはじめて現実に可能となったといえるでしょう。情報交換の密度に関しても、通信速度の向上によって、画像情報のような大容量のファイルの電送が可能となり、書斎のパソコンの前にいるだけで、現地にいるのとほとんど同じような体験ができるようになりました。
この一つの例として、先頃「地球温暖化防止京都会議」が京都国際会館で開かれましたが、その様子が、「地球温暖化防止京都会議情報支援実行委員会」によるリアルオーディオ・ビデオによって、全世界にインターネットで発信され、大きな反響を呼びました。地球温暖化防止京都会議は、人類のエネルギー消費を抑制し、それによって温室効果ガスの排出を抑制しようとするものです。IT技術は、人・物の移動なしで、様々なことを達成することから、エネルギーの消費抑制に大きな効果を発揮するものと思われます。その意味でも21世紀へ向けたKeyテクノロジーと言えるのではないでしょうか。
21世紀の産業を考えるとき、環境問題は人類の大きな課題であり、あらゆる産業活動は環境への配慮なしに考えることはできないでしょう。一方、企業が競争に勝ち抜いていくためには生産性の向上が極めて重要なファクターになってきます。この両者を満足する一つの鍵がITではないかと考えます。
2回シリーズで掲載する予定です



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