1997 MARCH
NO.257
KYOTO MEDIA STATION
特集
高まる産学連携の足音
大学のもつ創造的なシーズと、企業のビジネスニーズを結びつける「産学連携」。それを原動力にして産業の再生を果たした米国の後を追いかけるように、わが国の産学連携も新しい局面を迎えようとしている。
約40もの大学・短大を抱える全国有数の大学都市・京都は元来、企業との交流における実績があり、ここ数年来は大学側が共同・受託研究を目的とした施設を設立するなど取り組みを強化してきた。今春には京都大学でも本部構内に産学連携の中核施設となるベンチャービジネス・ラボラトリー(VBL)を開設、97年度から電子材料の開発をテーマに、民間との共同・受託研究や企業家育成などに乗り出す。
また、産官学が一体となった研究の歴史も長く、京都リサーチパーク、けいはんな学研都市などを拠点として産学交流への取り組みも活発化している。今回は、京都の主な大学の産学連携活動や、「新産業の創出活動」を含むセカンドステージを迎えた学研都市における産学交流の動きを拾った。


立命館大学---総合理工学研究機構
滋賀県草津市に理工学部のキャンパスを構える立命館大学は95年、企業側との窓口になるリエゾン(連携)オフィスを設け、本格的な産学連携事業を開始した。スタートしてまだ日が浅いにもかかわらず、95年度の受託・共同研究件数は156件、金額にして約4億9000万円に達し、96年度は件数、金額ともに30%増の勢いで拡大、特許申請はすでに6件を数える。
同大学の取り組みは、教員が自らの研究成果を世に問う方法よりも、企業からの具体的な依頼に基づいて受託研究を行うコンサルティング型研究サービスが主体だ。そのサービスフローのステップも、コンサルティング会社が行うプロセスとほとんど変わりがない。
理工学部所属の教員は、ロボティクス・FA研究センター、電子技術研究センターなど7つの研究センターからなる「総合理工学研究機構」に自由に所属。企業から技術的課題や研究テーマが持ち込まれると、同機構の権限のもとでその問題を解決するのに最も適したチームが編成され受託研究を行う。学科や専門の枠を超えた柔軟な組織体制をとることで、企業のニーズにフレキシブルに対応しており、米国の調査会社が実施した日米大学の比較・評価でも「日本の産学連携の1つのプロトタイプとなる」と評価されている。
大学と企業のインターフェース機能を持つリエゾンオフィスには、びわこ・くさつキャンパスと衣笠キャンパスに専任職員を配置し、大阪オフィスにも窓口機能を持たせるなどネットワークを形成する一方、教員と職員がペアとなって京都、大阪、滋賀を中心に500社を超える企業を訪問した。「産学連携にあたっては、大学として組織的に取り組むこと、誰もがいつでも訪問できる窓口を設けること、地元経済の活性化に寄与すること、の3点を重視した。そして研究を通して大学と企業の双方にとってメリットのある関係を築くことに重点を置いた」と田中道七・総合理工学研究機構長はいう。
昨年にはシンクロトロン(SR)光施設を備えた産学共同利用施設「SRセンター」がオープン。通産省のリサーチ・オン・キャンパス事業(産学連携施設整備事業)の適用第1号として、レンタルラボ(貸し研究室)を収容した「産学連携ラボラトリー」も完成した。同大学の次なる目標は、98年の経済・経営両学部の草津移転後に「経営戦略研究センター」(仮称)を開設、社会科学と自然科学が融合した総合的な産学連携の一大拠点づくりである。



龍谷大学---エクステンションセンター(REC)
龍谷大学エクステンションセンター(REC)は、滋賀県大津市の瀬田キャンパスに「開かれた大学」をめざして91年に発足、92年から事業をスタートさせた。
RECが展開している産学連携事業は、企業からの受託研究、企業との共同研究、学外機関の職員を受け入れる受託研究員・研修員制度の3種に分けられ、技術・経営・企業法務などの相談にも応じている。受託研究では企業からの依頼をはじめ、「観測装置から得られた一次専門情報の収集・処理法に関する調査研究」(科学技術庁)「セラミックス薄膜の表面平滑化と摩耗性に関する研究」(京都産業技術振興財団)など、産官学一体の研究推進に取り組んでいる。
その拠点となるRECホールには、学外者の使用を主目的にしたX線解析装置など実験機器や、レンタルラボを設置。各社が必要に応じて使用したり、自社の研究室として利用できるシステムになっているが、特徴的なのは法人会員制度を設けていることだ。企業の技術者と大学の研究スタッフの継続的な交流を促進するための会員組織で、キャンパスを開放するだけでなく、緊密な交流を通して研究開発に役立てようという狙いだ。



京都工芸繊維大学---地域共同研究センター
京都工芸繊維大学は産官学の技術研究交流を目的に、地域共同研究センターを90年に開設。その研究分野としては、
1.造形意匠(都市計画・建築・工業デザイン)
2.アパレル(テキスタイル・織物・染色デザイン)
3.CAE(流れの数値シミュレーション・塑性加工シミュレーション)
4.加工・生産技術(複合材料の成形加工など)
5.最先端素材(高性能材料・高分子材料・セラミックス)
6.バイオテクノロジー(微生物・動植物・遺伝子)
7.ヒューマンインタフェース(インタフェースのデザイン・ユーザビリ ティー評価)
8.情報処理(光情報処理など)
9.科学計測(分光計測・分離計測)
の9分野に重点を置き、95年度は29件の共同研究が行われた。
共同研究の制度には、(A)企業から研究者と研究費を受け入れるとともに、大学も研究費の一部を負担(B)企業から研究者と研究費を受け入れる(C)企業から研究者のみを受け入れる、の3パターンがある。このほか、教官がそれぞれの専門分野で学外からの相談に応じる「科学技術相談室」(相談無料)を設置しており、大学側では相談が共同研究へと発展することを期待している。

同志社大学工学部---社会人入学・研修員制度も
関西文化学術研究都市の一角にある同志社大学工学部では、理工学研究所を窓口として学外との共同研究や調査・実験を行っている。毎年40件程度を受託する一方、田辺キャンパス移転を機に共通研究施設、共同図書室を設けて企業や官公庁にも開放している。
同大学の場合、もう一つの柱が社会人への教育・研修の場の提供。大学院工学研究科の修士・博士学位取得コースへの社会人の特別入学制度を実施しているほか、工学部では毎年10名前後の研修員を受け入れている。
また、大学での研究成果の普及と地元企業の異業種交流の場として、毎年、京都リサーチパーク(株)との共催による「同志社ハリスフォーラム」の開催や、京都工業会、地元の田辺町商工会ともイベントや講演会などを通して交流している。

学研都市---新産業創出めざして
50を超える研究機関・大学を擁する学研都市。文化学術研究交流の拠点として設立された(株)けいはんなでは現在、情報、バイオなど9つの産学交流の研究会を組織している。
昨年11月、「けいはんな産官学エキシビション'96」がけいはんなプラザで開かれた。企業と京都府内の大学やセカンドステージを迎えた学研都市の研究機関との連携を図っていこうと、学研都市を舞台に開催された。併せて、同都市内の25の研究機関の代表者などで構成する「けいはんなトップカンファレンス」を設立、情報交換や人的ネットワークの拡大など実りのある産学交流に向けて方策を講じていくことにしている。 学研都市がスタートして10年。“世界初”の研究成果も出始めているが、現状ではそれが新産業創出に結びついているとは必ずしもいえない。「これまでは産学交流というより学術交流という傾向が強かった」(岡本圭司・(株)けいはんな交流部課長)ということで、都市づくりの今後の方向をまとめた「セカンド・ステージ・プラン」では、当面の重点課題として「新産業の創出活動」が盛り込まれた。
産学交流の橋渡し役を担う(株)けいはんなでは「研究成果と地元企業との結びつきがあまり見られなかったのは、学研都市そのものの情報が少ないことも原因の1つ。お互いにもっと行き来しながら情報を交換したり、交流ができる事業を実施できれば…」(岡本課長)と、研究交流活動や産学共同研究の一層の推進に向けて検討を進めている。
産学連携・日本の現状
米国ではスタンフォード大学、MITなどの知的財産をベースにヒューレット・パッカード、DECなど多くのベンチャー企業が輩出。大半の大学に共同研究を希望する企業との交渉にあたる研究支援事務所や特許事務所があり、産業界に研究成果を流す仕組みができている。一方、日本の企業から大学への委託研究や奨学寄付金の総額は、国公私立を合わせて96年度877億円(文部省調べ)で、87年度に比べ3倍に。昨年7月の閣議では科学技術関係費の政府負担分を倍増することが決まり、各省庁とも大学と企業の共同研究を支援し始めている。(財)機械振興協会のアンケート調査(回答477社、94年)によると、外部機関との研究協力・交流について70%の企業が「大学との研究協力を強化したい」と答えており、大学への熱い期待がうかがえる。

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