1997 FEBRUARY
NO.256
KYOTO MEDIA STATION
特集
知っておきたい改正消費税 5%
1989年4月に税率3%でスタートした消費税が、8年たった今年4月から税率5%に引き上げられる。ここへきて自動車や家具など高額商品に駆け込み需要が盛り上がっているが、税率引き上げ後の消費マインドの冷え込みを懸念する声もある。最も身近な消費税がどう変わるのか、主な改正ポイントをまとめた。

地方消費税を導入
もともと消費税の導入にあたっては、「直間比率の是正」が掲げられた。直接税と間接税の比率は、国税の場合で65対35。地方税を加えた税収全体では75対25になり、現在も欧州の先進諸国に比べて直接税中心という特徴が続いている。
今回の税率引き上げは、94年11月の税制改革関連法の成立で決められていたもので、増税分2%のうち1%は「地方消費税」となる。地方分権の推進や地域福祉の財源を目的に創設され、都道府県の収入になるが、国税である消費税とあわせて国(税務署)が徴収するので、事業者と消費者の手間はこれまでと変わらない。
単純にいえば、多くの商品やサービスの値段は4月から一斉に2%分アップすることになる。例えば百貨店、スーパーのように購入する商品の価格に一括して消費税をかける外税方式の場合は、レジで支払う額が2%分多くなる。一方、税込み価格を表示している内税方式の場合は、事業者によって増税分を上乗せしたり、値上げを見送る(本体価格を値下げする)ケースも予想される。経済企画庁の試算によると、税率引き上げによる商品価格の改定は消費者物価を1.5%程度押し上げる要因になるという。

中小事業者に対する特別措置も改正
消費税率の引き上げと同時に、簡易課税や限界控除、仕入れ税額控除制度など中小事業者に対する特例措置も抜本的に見直された。買い手が支払った消費税が事業者の手元に残る、いわゆる「益税」を圧縮するのが大きな狙い。これに伴って事務負担の増える中小事業者も出てきそうだ。
  • 事業者免税点制度の改正
    改正前は、法人・個人に関係なく設立後2年間は納税義務を免除されていた。しかし、4月以降に設立する資本金1,000万円以上の法人については免除されなくなる。
  • 簡易課税制度の見直し
    仕入れ税額計算の際、みなし仕入れ率を使う簡易課税制度が利用できる事業者は、4月以降に始まる事業年度から課税売上高(商品や製品の売上高のほか、固定資産の売却代金や雑収入などを含む)が現行の4億円以下から2億円以下に引き下げられる。
    また、第4種事業となっている不動産業、運輸・通信業、サービス業(飲食店業を除く)は新たに第5種事業として分離され、みなし仕入れ率は50%が適用される。
  • 限界控除制度の廃止
    消費税導入に伴う経過措置として設けられていた制度で、課税売上高3,000万円超5,000万円未満の事業者に対し本来納付すべき税額を一部軽減していたが、4月以降の事業年度から廃止。3,000万円超の事業者は税額を全額納付しなければならなくなる。


帳簿と請求書の両方を保存
今回の改正で、特に注意が必要なことの1つが仕入れ税額控除の適用条件の見直しだ。消費税は、売り上げにかかった消費税から仕入れにかかった消費税を差し引いた残額を納付するのが原則。これを仕入れ税額控除という。この控除が認められるには、いままでは帳簿に取引先や取引内容など仕入れの事実を記載しておけば、「請求書等」(請求書、領収書、納品書など)の保存の必要はなかった。しかし、これからは帳簿の記載とともに、請求書など取引の事実を証明する書類の両方を保存しなければならなくなる。
  • 確定申告などへの書類添付も
    もう1つは、消費税の申告に添付書類が必要になることである。現行の確定申告では申告書の本表のみを提出すればよかったが、改正によって中間申告書や確定申告書、還付請求申告書には売上高の内容や仕入れ税額の明細などを記載した書類を添付することになる。


取引内容で経過措置
税率改正に伴い、取引の内容によって経過措置も設けられている。3月末までに予約や契約が行われ、4月以降に引き渡しがあるもの、例えば通信販売による商品の販売、割賦販売や延べ払い条件付き販売は現行税率の3%が適用される。請負工事(製造を含む)、賃貸借契約・ファイナンスリースについても、昨年9月末までに契約を結んでいて完成引き渡しが4月以降、また引き続き貸し付けを行っている場合は、契約内容に変更がない限り3%のままでよい。請負契約には、工事の施工に関する調査・企画・設計、ソフトウエアの開発、映画の製作なども含まれる。

法人税率引き下げは見送り
一方、昨年12月にまとめられた97年度税制改正大綱では、焦点の1つだった法人税率の引き下げなどを含む法人課税改革は2年続けて先送りとなった。この結果、10年前までは世界の主要先進国で最低水準といわれた法人税の基本税率は、その後の欧米諸国の相次ぐ引き下げによって、日本は高止まりのまま取り残された形となっている。
このほか改正大綱では、ベンチャー企業に対する個人の投資活動を支援するために優遇税制を新設。一定の条件を満たすベンチャー企業に投資して損失が発生した場合は、その損失を3年間にわたって繰り越し、株式譲渡益の範囲で控除することが認められる。

消費の先行きにどう対応
消費税率の引き上げを含めた税制改革は、急速に進む少子・高齢化社会の下で社会の活力を維持し、十分な福祉を提供するための大きな柱の1つ。このため、政府は経済情勢と財政事情を踏まえて、94年から景気対策として3年間続けてきた所得税・住民税の特別減税を打ち切ることとした。また、消費税問題については、仕入れ税額控除の際にEU諸国が採用しているインボイス(送り状)方式の本格導入や、生活必需品に対する軽減税率の採用など、今後も検討を進めることにしている。
さて、いよいよ4月実施を間近に控え、局地的に駆け込み需要も出ている。新車販売は1月の台数としては過去最高を記録したほか、百貨店、専門店では家具、貴金属など高額商品の売れ行きの伸びが目立つという。
半面、4月以降の反動減が気になるところだが、出版、外食など内税方式が主流だった業界では、これを機に外税方式に切り替える動きが目立っている。本体価格が据え置きになっていることを明示し、消費意欲の低下を少しでも抑えたいとの考えからだ。また、低価格競争が激化し、価格転嫁に悩む業界では税率アップ分を合理化努力で吸収するなど、事実上の値下げや商品の多様化に踏み切る企業も見られる。不透明な消費の先行きに創意工夫でどう立ち向かうか、景気の行方も企業の頑張りにかかっている。
主な改正ポイント
制度・項目改正前改正後
事業者免税点制度 法人・個人とも設立当初の2年間は納税の義務なし 設立2年目までの新設法人のうち、資本金1,000万円以上であれば納税義務を免除されない
簡易課税制度
1.適用限度額
2.みなし仕入れ率
1.課税売上高4億円以下
2.〈第1種事業〉卸売業  90%
〈第2種事業〉小売業  80%
〈第3種事業〉製造業等 70%
〈第4種事業〉その他
1.同2億円以下
2.〈第1〜3種事業〉変更なし
〈第4種事業〉のうち不動産、運輸・通信、サービス業(飲食店業を除く)を〈第5種事業〉60% として分離し、50%を適用
限界控除制度 課税売上高が3,000万円超5,000万円未満の場合、納税税額を軽減 平成9年4月以降に開始する課税期間から廃止(平成8年4月以後の期間について、年10万円を限度とする経過措置)
仕入れ税額控除の適用条件 帳簿または請求書等のいずれかを保存 帳簿および請求書等の両方を保存
確定申告等への書類添付 申告書の本表のみ 申告書に
1.課税売り上げの明細
2.仕入れ税額の明細を記載した書類を添付

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