1996 NOVEMBER
NO.253
KYOTO MEDIA STATION


特集 平成8年度 第4回情報化プラザ開催

インターネットの今後とOCN
NTTパケット通信事業本部 企画部長・工学博士 野村 雅行氏


平成8年度第4回情報化プラザを、さる9月20日(金)午後2時から4時まで京都センチュリーホテル1階 瑞鳳東の間で開催しました。
今回はNTTパケット通信事業本部企画部長 工学博士 野村 雅行氏をお迎えし、「インターネットの今後とOCN」と題して、来年4月から試行される予定のNTTのOCN(オープン・コンピュータ・ネットワーク)について講演いただきました。
講演は、インターネットとインターネットビジネス(EC)の現状と課題、方向性等に触れながら、OCNの概要、将来の展望について説明していただき、参加者134名は、ネットワークのインフラ拡大の動向を探る上で大変興味深いお話を聞くことができました。

インターネットとは
インターネットは1984年に学術用として始まりましたが、1993年に商用サービスも開始され、インターネット事業者の数も2次プロバイダを含めわずか3年間で1,000 を超えました。また利用者も企業ユーザから個人ユーザへとその数も500 万ユーザと言われています。電話と比較してもその増加は爆発的で、国際回線数(帯域)にしても電話が45メガに対してインターネット回線数は90メガとダントツです。日米間の通信も電話よりもインターネットが上回っているのが現状です。
日本のインターネットは、1次プロバイダ(米国の主要プロバイダと接続し、大きなバックボーンを持つ)、2次プロバイダ(1次プロバイダに接続することでアクセスを提供する)、国際インターネット事業者で構成されています。これらのインターネット事業者は、専用線でLAN に接続したり、電話線、ISDN、PPP などでインターネットアクセスを提供しています。アクセス方法にはいろいろありますが、今後はフレームリレー、CATV、PHS 、移動体、衛星等も新しいアクセス網として将来実現されるでしょう。このようにいろいろなサービス(インターネット事業者)が発生し、それに付随する競争的な料金の値下げ、バックボーンの速度、APの設置数、NOC 設備等、サービスの品質を吟味しながらユーザが選択する状況になってくるでしょう。
インターネットの仕組みはLAN のIPパケットでデータを送付しますが、その際に相手のIPアドレス(実際はディジタル)を文字列のアドレスにDNS で変換してパケットや電子メールのやりとりをします。これは世界共通です。
 広まるインターネットがどうビジネスになるのか、非常に話題になっていますが、4つのステージが考えられます。第1ステージはインターネットに接続するだけで商売になる(プロバイダ)。第2ステージはインターネットを利用する際のソフトや雑誌等の販売。第3テージはそのソフトの中のコンテンツやWWW にアイテムを入れたり、ホームページを作成し広告宣伝をする情報サービス。第4ステージはオンラインショッピングなど実際にインターネット上での流通を目指す(EC)。現状は第3ステージが主なビジネス段階になっていますが、今後は第4ステージのEC(エレクトロニクス・コマース)がかなり大きく占めていくでしょう。
このような中でふくれあがってきているインターネットの課題としては、安価な利用料金、APの遠近により同一情報なのに料金の違いが生じる地域格差の解消、インターネットの品質保証とセキュリティ、インターネットビジネスの開拓、ネットワーク管理の容易化やソフトウェアの充実等さまざまあげられます。NTT としましてもこれらの課題を解決すべく来年OCN サービスを提供したいと考えております。

OCNについて
OCN というのは、オープン・コンピュータ・ネットワークのことで、広くコンピュータを接続するためのネットワークです。LAN を直接専用線でつないだり、電話網やISDNでOCN につないだり、もちろんインターネットや他の事業者網にもつなぐことができ、いろいろなところで接続することが可能です。  サービス内容としては、インターネットと同じようなDNS 、電子メール等があります。料金的にはイメージですが、低速系(128Kb/s )3〜4万円、高速系(1.5Mb/s )30〜40万円、ダイヤルアップは月額3,000 円(基本料)程度と、なるべく安い料金で提供させていただこうと考えております。なおダイヤルアップにつきましては2年間をめどに全国提供予定としており、どこからでも3分10円でアクセスできるような環境をつくっていこう(地域格差の解消)と考えております。また、諸外国との料金比較にしても、OCN はほぼ欧米並みにと目標を立てています。そうでないとアメリカやイギリスでサーバを立ち上げるほうが安くなり、日本国内の空洞化が予想されるからです。
以上のようにOCN のインパクトとしては、安い料金で利用できて、地域格差をなくすことによって、ECのような新しいアプリケーションや企業内のイントラネット等も促進できるという事です。ではなぜOCN は低料金にできるのか。現在はお客様とルータの間の距離が長くコストが高いが、OCN は最寄りの収容局に装置とルータを置き、近くのお客様の回線を多重化してネットワークにアクセスすれば、従来より専用線の数も減りコストダウンできるからです。また、インターネット事業者にもOCN の開発した技術を安く提供できればOCN だけでなく国内の料金水準もさがるのではないかと考えております。料金を下げるということで、OCN 以外に新しい回線サービスとして、高品質ディジタル専用線、フレームリレー、電話やINS ではテレホーダイも始めています。こういったいろいろなサービスをニーズに合わせて組み合わすことによって、インターネットアクセスはさらに低料金になるでしょう。

インターネットの技術動向
インターネットの技術動向として、オーディオ・オン・デマンド、動画放送(テレビ放送)、動画会議・放送、Web3D 系、Web オーサリングツール、FAX 等のアプリケーションソフトが出てきています。最近話題のインターネット電話はインターネット上で電話をするわけで、一般的にはダイヤルアップしてサーバ経由で相手を呼び出しますが、もう一つのサーバとしてインターネット電話をつなぐGW(ゲートウェイ)というのが最近できまして、これを利用するとインターネット料金と電話代金だけで世界中どこへでも安く電話ができるというメリットがあります。また、このGWだとPBX を接続して社内の内線電話網も安く構成できます。 こうした技術が普及するにつれ、インターネット電話製品もインタフォンネットをはじめ多数出回っていますし、ネットスケープはブラウザにバンドルしたり(クールトーク)、インテルもソフトを無料配布しています。さらにインターネット電話の応用としては、ユーザと同じWWW サーバの画面を見ながら意思疎通ができ、カスタマーサービス、アフターサービス、マーケティングなどでよりよいサービスを提供できるのも魅力的です。
インターネット電話の今後の課題としては、品質(ネットワークの帯域保証)、ソフトの相互接続性、既存電話との相互接続等があげられます。他にサイバーキャスト(テレビ放送)・ビデオ会議についても、品質の向上、コンテンツ、H.323 (LAN 上のパケットビデオ会議プロトコル)やISDNビデオ会議との相互接続性等の課題はあるものの普及しつつあります。
これらの新しいアプリケーションソフトの普及でますます広がるインターネットの課題としては、増大するトラヒックに対する対処、帯域保証、閉域サービス(イントラネットの構築)、サイバーキャストやビデオ会議などのためのマルチキャスト、安全性の高いEC実現のためのセキュリティ・認証サービス、ローミング(出張先の地元のインターネット事業者のAPで通信できるようにする)などがあげられます。こういった課題に対応するため、OCN はたとえばATM を利用したIPパケット処理をする高速処理能力ルータの開発等、種々の高機能サービスを検討しております。

ECについて
最後に、先程の第4ビジネスステージの本命ともいえるECですが、既に経験されている方も多いと思います。ECとは、インターネット上で商取引を行い決済はクレジット会社、銀行のオンラインを利用する仕組みです。ECの効用としては、WWW マーチャントへ出店する際に少ない投資で参入可能で、商圏も地球規模となり世界各地に顧客開拓ができ、エンドユーザとの直接契約になるので流通経費も削減でき、消費者は家に居ながらにして早く安価に商品を購入する事ができます。今後、EC上のシステムの充実が図られれば「Big Market」となるでしょう。
現在のECでの実例としては、ホテルやチケットの予約販売、ソフトウェア、肉・米・野菜など一次産品等さまざまなものがありますが、日本の場合は本屋などの専門形式のほうがモール形式よりも多いようです。例えば洋書の通販ですと、ユーザが発注してから納期までは従来の半分、値段も30〜50%OFF とディスカウントショップ並みで、店の売上は3〜4億円/3人と、いい商売になるというケースもありますので人気があります。開店状況は1カ月100 〜150 店舗と昨年の12月より急速に増え続けていて、累計では1,200 店舗と言われています。
EC実現上の課題として、売買の決済方法はクレジットを使うのが一般的ですが、そのクレジット番号を盗聴で盗まれたり、他人になりすまし不正使用されたり、伝票を改ざんされたり、安全性が問題になっています。だから安全な商取引を実現するためには、公開鍵暗号を使った電子署名や認証のシステムが必要で、MOSS(Mime Object Security System )ということでNTT もFeal暗号をはじめ、さらなる暗号の実用化に向けて研究を進めているところです。
ECの技術につきましては知らなくても、製品としてSHTTP 、SSL など、もう既にこういったセキュリティシステムを組み込んだソフトが売られていて、そのソフトがあればマーチャントに出店できるという状況にあります。決済プロトコルとして、VISA・MASTERとアクセスするSET をサポートしていこうと考えています。こちらも来年あたりに製品として出てくる様子で、これらの製品を組み合わせて様々な問題を改善しようと米国をはじめ日本、韓国、カナダ、シンガポール等各地で実験が行われています。私が関与しておりますサイバービジネス協議会での実験では、ATM 回線を利用して決済は銀行振込にする方法や、インターネットを使って個人認証を発行し、クレジット決済で実際にECを展開しようと、来年にはスタートしたいと考えております。
いずれにしてもインターネットエクスプローラなどで商品を閲覧するのは従来通りなのですが、電子署名のメカニズムが標準的に使用され、決済時の安全性が確立されればオンラインショッピングはマーケットとしてさらに大きくなり、今後普及するにつれECに関係する人は、現在は日本の全人口の5%にすぎませんが、2000年には20%ぐらいになると予想されます。

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