1996 OCTOBER
NO.252
KYOTO MEDIA STATION


インターネット
情報発信も地方の時代


インターネットを地域の活性化に生かそうという動きが相次いでいる。コンピュータネットワークの“電子掲示板”ホームページを開いて「わが町」を広くアピール、地方から国内外へ、情報で羽ばたこうとする府内各地の試みを拾ってみた。

●地域おこしに一役・・・笠置町
京都府の南端、太平記ゆかりの地で知られる笠置町。人口はわずか2,200人余りだが、木津川の清流と歴史に彩られた名勝の里で有名だ。
笠置といえば笠置山(標高289m)。古代からの巨石信仰や山伏修者の行場めぐり、山腹には後醍醐天皇の行在所(あんざいしょ)跡などがある。春は3,000本の桜、夏は木津川河川敷でのオートキャンプ、秋は紅葉と、四季の移ろいに合わせてハイキングコースが設けられ、また近年はカヌースクールの開催やカヌーまつりが若者の人気を集め、観光入込客数は年間60万人。町役場でも、人口2,000人前後の小さな町がお互いの交流と連帯を深めて活性化をめざそうと、全国に呼びかけて「スモールタウンフォーラム」(8自治体)を組織、まちおこしに取り組んでいる。
笠置町商工会(久保田国之会長)と笠置町観光協会が一体となってホームページを開設したのは今年4月。
「地の利に恵まれていない田舎こそ、国内外のどこにでもつながるインターネットを活用する意味がある」と町商工会の清水一夫・経営指導員はいう。「昔は花見シーズンともなればJR(関西本線)の急行が臨時停車し、駅から笠置山へ至るコースには人波で埋まったものだった。あのにぎわいをもう一度取り戻すことができれば……」。
ホームページは、カヌー(カヌーまつり・カヌースクール)●キャンプ場ガイド●ハイキング(歴史街道・笠置山ハイキングコースなど)●自然公園(桜・紅葉の名所、笠置山自然公園など)●旅館案内チ食文化(特産品とメーカー紹介)――となっている。
内容は毎月のように更新しているが、特に力を入れているのがイベント情報だ。たとえば10月20日(日)に行われた第3回木津川カヌーまつり。カヌーマラソンの部(42kmコースと15kmコース)では前年の優勝タイムを紹介、挑戦者の参加を募った。「ホームページづくりのポイントは話題づくりとタイムリー性」(清水指導員)という。
アクセス数はいまのところ1日25回程度。「立ち上げ時より徐々に増えてはいるがまだまだ。なんとか倍ぐらいに乗せたい」と清水指導員は意気込む。こうした商工会の機運を反映してか、会員企業の間でもインターネットへの関心が高まり、「どんな機種を使えばいいのか」「ホームページの立ち上げ方を教えてほしい」といった問い合わせが増えているそうだ。
●一休さんが案内役・・・田辺町
とんち話で知られる一休さんの町として全国的に売り込んでいる田辺町。町商工会青年部(藤本岩夫部長)では、9月16日にホームページ「一休さんの田辺町ものしり事典」を開設したばかり。
一休禅師は室町時代の禅僧で、晩年は町内にある酬恩庵一休寺で過ごした。ホームページは、92年に生誕600年を記念して公募した一休さんのキャラクターが町を案内する趣向。同青年部の田村信夫・前部長らの呼びかけで計画を進め、町の歴史・産業(特産品の案内など)●年中行事とお祭り●観光ガイドとモデルコース● 一休さんにまつわるクイズ(5問)などで構成。商工会が「村おこし事業」の一環で地域特産品として開発した田辺の高級抹茶をふりかける茶がゆの紹介や、クイズに全問正解すると一休さんグッズのプレゼントもある。
このほか、町内企業を紹介する「企業博覧館」や「ショッピング館」を現在制作中。一休生誕600年事業を機に公募した「一休とんち大賞」(とんちこばなし)の作品も載せていきたいという。「一休さんはだれでも知っているだけに効果を期待しています」と商工会の西川日出男主事。随時、最新情報に差し替えて内容を充実させていく予定だ。


●かやぶきの里から情報発信・・・美山町
京都市から北へ約50km、府内の町村では最大の面積340km2を擁し、その95%が山林で占められている美山町。かつては1万人を超えた人口も5,700人にまで減少している典型的な過疎地だが、町内に残るかやぶき民家が93年に文化庁の「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されて以来、景観や自然の産物を生かしながら活性化を図ろうとする地元の努力が実りつつある。
グリーンツーリズムの展開を通じて京阪神の都市住民による「かやぶきの里美山と交流する会」が組織され、観光入込客数は91年の27万人から5年間で40万人へと拡大。朝市や滞在型市民農園、民宿など観光サービスに取り組む農家グループも増えており、その先駆的な活動への評価は仏、独、韓国政府関係者の視察が物語っている。
そうしたなか、同町は農村情報の発信手段をより強化していこうと8月20日、ホームページ「MIYAMA  WELCOME」を立ち上げた。町長のメッセージに始まり、自然文化村などの施設案内●美山町への交通●歳時記●特産品情報(茶、美山の水など)と、都市との交流に主眼を置いているのが特徴だ。
もっとも開設したばかりで、内容は“定番メニュー”的な面もあり、「情報発信に伴う自治体イメージの向上とともに、地域の独自性をどう打ち出していくかが課題」と同町政策審議室の福井修主事。農村情報を都市へ、インターネットを地域活性化にどう使いこなしていくのか、たんなる話題づくりに終わらない前向きな取り組みに注目が集まっている。
●自慢の特産品をPR・・・京都府商工会連合会
いまのところ「地方発」のインターネット活用の大きな流れは、一つは観光客誘致、そしてもう一つは特産品のショッピングモールである。
「京都メディアステーション」(旧「ふろむきょうと」)が装いを新たに8月からスタート、そのなかに京都府商工会連合会による京の特産品通販くらぶ「丹丹城」がある。丹丹城とは府内の丹後、丹波、山城の地方名からとったもので、今年5月にホームページを開設した。
“城主”の殿様のマンガをキャラクターに、ホームページの項目をお城の広間に見立てて「食の間」「酔の間(地酒)」「絹の間(織物)」「健美の間(美容用品・茶)」「飾の間(工芸品)」など、8つの間に分けて「ここでしか買えない」という各町の特産品を紹介。9月18日からは第2弾の秋・冬版として内容を更新、現在、13商工会から25企業・団体が情報発信している。
特産品に限らないが、ホームページをつくってプロモーションしたらそれでおしまい、ではない。継続してアクセスしてもらうためには、常に新鮮さを保つことが大切。というのは、丹丹城も5月の立ち上げ時には20日余で6,100回を数えたアクセス数が、6月に4,200回、7月には3,800回に落ち込んだ。「情報は時間の経過とともに古くなり、魅力がなくなる。それではユーザーの気持ちはつかめない」と同連合会広域指導センターの大西敏彦・専門経営指導員はいう。裏返せば、ユーザーは新鮮で有益な情報を得たいからこそインターネットを使っているのだともいえる。
同連合会では今後も定期的に内容を変えていくが、「わくわくしてアクセスしてもらえるようレイアウトデザインなど見せる工夫を凝らしたい」(大西指導員)と意欲的だ。
●どう活用するか
インターネットの利点は、地方の中小企業にとって事業規模や地理上のハンディを克服できることにある。全国的な傾向として、当初は観光情報が主流だったが、地方自治体の相次ぐ参入で情報内容が重複するケースが出てきたため、商工団体の間では独自性を持たせる動きも出始めている。
たとえば商工会議所の例をみると、95年6月、全国に先がけて小諸商工会議所(長野県)が地方からの情報発信をめざしてホームページを開設した。小規模会議所にすぎない同商工会議所のいち早い取り組みに刺激されて他地域も追随。なかでも、姫路商工会議所青年部では姫路城の歴史を紙芝居風に紹介、下関商工会議所は商店街の空き店舗情報、豊橋商工会議所(愛知県)では首都機能の移転候補地として国内外に売り込んだり、岡崎商工会議所(同)は就職情報の提供など、商工業の活性化に結びつけようと多彩な広がりを見せている。
ホームページは地域向けも、国内外向けも同じように情報を掲示するだけで済む。ただ、発信するにあたって気をつけなければならないことは、どこへ向けて、だれを対象にメッセージを送るのか、ということ。まだまだホームページ事業は横一線でスタートした段階の感があるが、今後はマルチメディアの双方向性をどう生かしていくか、発信サイドの知恵とか力量が試されてくることになりそうだ。

自治体におけるホームページの内容順位
  1. 郷土紹介(地理・人口・歴史など)
  2. 観光案内
  3. 祭り・催しなどのイベント情報
  4. 伝統的な特産品・工芸品紹介
  5. 行政情報
  6. 博物館案内
  7. 都市づくり情報
  8. 美術館案内
  9. 工業団地などの立地情報
  10. 技術・新製品情報

※日経産業消費研究所調査。回答1,010自治体(都道府県を含む)のうち、96年2月時点でホームページを開設している自治体は85(全体の8%)。

MONTHLY JOHO KYOTO