1996 JUNE
NO.248
MEDIA STATION


京都・人・産業
巻頭インタビュー Vol.3










京都学園大学
波多野 進 教授


設問3-
産学共同によって成しえることに対しどのようなことを期待されますか。また、最近の学生気質についてもお話ください。

 

近代産業の黎明期は、産業学術共同の研究開発によって京都の伝統産業が近代化した。しかし現在の中小企業は、アカデミーからでてくる新技術を受け止める力が弱くなっている。なぜか、一つはレベルが離れてしまっているからだ。
京都大学をはじめ各大学や学術研究都市では、世界トップレベルの技術が開発されているにもかかわらず、そういった研究は、京都の各企業にはほとんど関係ないレベルのもの。企業が今、求めている技術というのは、もっと手身近な技術で最先端技術でない。つまり世界の常識になっている技術をどううまく使うかというレベルのもの。
例えば、今盛んに研究開発が行われているB−ISDNだが、これは21世紀中期でないと企業や一般には実用化されないといわれている技術。ようするに現在行われている最先端技術の研究開発は、産業的に通じるにはかなり先だといえる。とはいうものの、細かくみると産学共同の研究開発によって京都の中小企業の技術レベルが向上する産業技術はたくさんあり、現産業に役立つものをどんどん行うことが必要だろう。
また、学術研究と産業とを結び付けコーディネートする人材も必要だ。新技術にアクセスし、自分自身をも高め、それを業界に伝達する役割を担える人材。そんな技術者が自由に動ける機関が大切なのだが、問題は日本の社会システム。スタンフォード大学などをみるとわかるように、アメリカでは民間の起業家や学生を集め、プレゼンテーションして資金を集めて産学共同での研究開発を盛んに実践している。しかし日本のように出来合いの組織をいくらつなげても産学共同による研究開発はしょせん無理がある。日本の社会システムそのものが情報を隠そうという意識が強いため、組織と組織が横につながろうとはしないのだ。さらに特定の技術を持った人は別だが、今の日本社会では、企業の中でいくら実績をあげてもそれがアカデミックな世界で評価されるのはまれ。組織のなかで自由に動ける人材の育成と社会システムの変革が重要だろう。
まずは京都から産学共同による産業技術の躍進を率先して行ってほしい。京都の学術研究を地域社会で生かす分野は無限に近い。
(続く)

※シリーズ4回で掲載する予定です


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