1996 APRIL
NO.246
MEDIA STATION



丹後「より近く」を
観光にどう生かすか

京阪神から丹後がより近くなった。京都と丹後を結ぶJR山陰本線園部―福知山間(54・3キロ)と北近畿タンゴ鉄道(KTR)宮福線等 福知山―天橋立間(34・8キロ)の電化・高速化が全面完成、3月16日開業した。豊かな自然と地域に根づいた歴史と文化で知られる丹後。これを契機に観光振興に一段とはずみがつくことが期待されている。

京阪神の奥座敷といわれる丹後地域。今回の電化によって、京都から天橋立まで4往復、福知山までは12往復の電車特急が結び、利便性が大幅にアップ。最速列車で京都―天橋立は1時間44分▽京都―福知山1時間11分▽京都―綾部1時間2分と、いずれも大幅な時間短縮がなされた。
また、ダイヤ改正に合わせてJRでは特急電車にリニューアルした車両を投入。KTRでは新造したディーゼル特急「タンゴ・ディスカバリー」はJR福知山線とKTR宮福・宮津線とJR福知山線や舞鶴線等に登場、大阪から網野、久美浜へ直接乗り入れるほか、天橋立や綾部で京都からの電車特急と接続している。
また、週末を中心にJRの臨時快速電車「レインボー」が京都―天橋立間に登場。関西空港線や京阪神を結ぶ新快速に使われている車両で、京都府北部へは初のお目見えだ。


新しい観光資源も続々誕生
94年に丹後地域(2市11町)を訪れた観光客数は662万人(うち宿泊客142万人)。89年に比べると5年間で19・6%増えており、同期間の京都府全体の伸び率が5・9%なのに対し健闘ぶりが目を引く。京都府観光・商業課の三宅論課長は「近年のアクセスの整備と新しい観光資源づくり、そして行政と民間が一体となった丹キャン(丹後観光キャンペーン推進協議会)などによる観光客誘致のためのPR、イベント効果が大きい」と分析する。
丹後地域は基幹産業の繊維(丹後ちりめん)が低迷し、過疎化が進んだ半面、日本海に面した海岸線を擁して山陰海岸国立公園、若狭湾国定公園に指定され、天橋立に代表されるような風向明媚な自然景観や海の幸に恵まれている。また、京都と結びついた歴史上の伝説、文化、古墳群なども点在。こうしたことから観光地としての魅力度を高めようと、各市町では地域の景観や文化的な特性を生かした地道な活動に取り組んできた。
丹後路観光といえば“夏は海水浴、冬はカニ”のイメージが強いが、新しい観光資源も続々誕生しつつある。その先鞭をつけたのが「鬼伝説」を町のイメージに、ユニークなまちづくりを展開している大江町。毎年10月に行われる「酒呑童子祭」や、「日本の鬼の交流博物館」は全国的にもすでにおなじみだ。
岩滝町に93年秋オープンした府内初のクアハウスも新名所としてにぎわっている。同町では3年間にわたる泉源掘削の結果、高温泉を掘り当て、そのかいあって町内への観光客数は93年の約4万人から94年は20万人強へ一挙に5倍となった。
このほか、小野小町ゆかりの地として知られる大宮町には昨春、京都府の丹後リゾート構想の一環として「大宮ふれあい工房」がオープン。陶芸、染色などを実体験できる工房やスポーツ施設などを備え、隣接の国民年金健康センターと併せて、多世代交流の拠点となっている。


テーマは「人と自然の共生」
丹後の観光振興は、いわば“むらおこし”的な地元の努力を中心に進められてきた。それだけに各地域の有機的な連携が欠かせないが、その核となる役割を果たしているのが丹後観光キャンペーン推進協議会だ。京都府、丹後地域2市11町、観光団体・企業など113団体で組織され、87年に「もういちど丹後」をキャッチフレーズにスタート、今年で10年目を迎える。
同協議会の今年のテーマは「人と自然の共生・心豊かな観光地づくり」。千葉・幕張メッセで4月開催の「旅フェア’96」への出展参加を皮切りに、電化・高速化によって近くなった丹後路の観光PRや、趣向をこらしたイベントを企画している。 「古代の丘のあそび 丹後’96」(5月25、26日)丹後町・古代の里をメインステージに世界各地の古代の音や日本のさまざまな自然の音を演出、同時に古代の里〜銚子山古墳(網野町)〜味土野(弥栄町)〜古墳公園(加悦町)など古代史回廊ツアーを実施。
「天主堂で聴く聖なる調べ」(6月22日)木造天主堂としては日本で2番目に古い宮津カトリック協会の「聖ヨハネ天主堂」献堂100周年を記念する公開イベント。
「丹後ワールド冒険隊」(8月下旬)丹後半島の自然、動植物、文化遺産を子ども達と訪ねるアドベンチャーツアー。
「国際ビーチクリーンアップin丹後 はだしのコンサートスペシャル」(9月8日)丹後半島各地の山・川・海でクリーンアップ作戦を展開し、日本三大鳴き砂の一つ、琴引浜(網野町)を舞台に拾ったゴミが入場券となる恒例の「はだしのコンサート」の開催、など新しいイベントを加えて丹後をアピールする。
そのほか、京都府や地元市町などが協力して今年は誘客推進事業として、秋には丹後地域の自然、歴史・文化、産業をテーマにして、誘客イベントの実施が予定されており、その中でイベント列車やパスポート事業などの誘客の取組も計画されている。こうしたイベントは地域の知名度を高めることができて、地域住民にとっても観光拡大復興を通じてまちづくり意識を高めるほか、地域特性を生かしたリゾート地としての丹後の魅力を高める上でも効果があると期待されている。


オールシーズン型の観光に対応
経済規模が比較的小さい丹後地域にとっては、経済に占める観光セクターの役割には大きいものがある。観光関係者が目下、力を入れようとしているのが、海、高原、温泉などの自然と「丹後王国」をテーマにした歴史・文化を生かしてオールシーズン型とし、京阪神からの週末型と滞在型のいずれにも対応できるようにすることだ。
そのためには観光資源をいかに組み合わせ、どう新たな魅力を盛り込んでいくか。「点在している観光スポットを点から線、線から面へと広がりを持たせ、丹後のインパクトのあるイメージをつくることが課題」(同)という。
その手法の一つがイベントであり、歴史上の伝説を生かした丹後七姫や伝統祭事との連係プレーのほか、各種コンサート、トライアスロン(宮津市など)、ドラゴンカヌー(久美浜町)、映画祭(大宮町)、マラソンなど若者を呼び込む話題づくりにも取り組んでいる。丹キャンがまとめた小冊子『丹後王国への旅』には多種多彩のイベント・祭りを紹介、“丹後はイベント王国”と胸を張るる。
また、近年高まりつつある自然とのふれ合いを求めたグリーンツーリズム、体験型観光といった都市住民のニーズに対応、体験実習館(竹・わら細工、藤織りなど)を備えた「世屋高原家族旅行村」(宮津市)や、農林漁業が体験できる「てんきてんき村」(丹後町)、「大宮ふれあい工房」…。こうした取組は観光振興としてまた、地域おこしの事業として軌道に乗りつつある。
一方、観光産業は交通・宿泊・飲食・土産品販売などが絡み合った複合産業といわれ、他産業への波及効果も大きい。昔から丹後といえば丹後ちりめんが有名だが、シルクをテーマに機織り体験などを盛り込んだツアーによる観光客の誘致とともに、伝統産業のPRや復権策も検討している。
現在、国内観光は円高や不況の影響を受けて停滞気味だが、長期的に見れば余暇時間の増大から観光需要は着実に伸びてこよう。
京都府は「観光」を21世紀を牽引する産業と位置づけ、96、97年度の2ヵ年で観光産業振興ビジョンの作成を計画している。「一過性の観光開発ではなく、地域のコンセンサスを得ながら産業政策の、また地域活性化の視点からビジョンづくりに取り組んでいく」(同)方針だ。
MEMO

丹後 インフォメーション
丹後地域は2市11町(舞鶴市・宮津市、大江町・加悦町・岩滝町・伊根町・野田川町・峰山町・大宮町・網野町・丹後町・弥栄町・久美浜町)からなり、面積1、182平方キロ、人口約22万3、000人。

●「丹後王国」論
門脇禎二・元京都府立大学長の説によると、4世紀中頃から竹野川流域を中心に独自の王権体制が存在、5世紀代に最盛期を迎え、6世紀中頃に大和の支配下に入った。

●伝説のふるさと
大江山の鬼退治伝説(大江町)
山椒太夫伝説(宮津市)
浦島太郎伝説(伊根町・網野町)
羽衣伝説(峰山町)
・丹後七姫
 安寿姫(宮津市・舞鶴市、如意寺、安寿姫塚)
 乙姫(伊根町、浦島神社)
 小野小町(大宮町に墓碑)
 羽衣天女(峰山町・乙女神社)
 静御前(網野町・静神社)
 間人皇后(丹後町、聖徳太子の生母)
 細川ガラシャ夫人(弥栄町幽閉地)

●丹後11湯
夕日ヶ浦温泉(網野町)木津温泉(同)浅茂川温泉(同)岩滝の温泉(岩滝町)由良浜温泉(宮津市)宮津羽衣温泉(同)伊根温泉リゾート(伊根町)久美の浜温泉郷(久美浜町)丹後温泉(丹後町)おおみや小町温泉(大宮町)弥栄あしぎぬ温泉(弥栄町)

●丹後ちりめん
 亨保5(1720)年、峰山の森田佐平治が西陣から技術を持ち帰ったのが始まりで、以来、機業は丹後地域の経済・文化の中心となる。現在では、ガラス繊維なども使用して新しい織物を生産する一方、総合産地化(織り―染め―商品化)をめざしている。




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