1996 march
NO.245
MEDIA STATION



中小企業支援へ
機運高まる株式市場改革

株式の店頭市場が元気だ。公開企業数の制限枠撤廃など規制緩和を追い風に、昨年は過去最高の規制緩和ラッシュにわいた。しかし、株式市場の改革は進められているものの、中小企業への資金供給はまだまだ厳しい。活力ある成長企業が自在にビジネスを展開できるための舞台づくりが求められている。

拡大する店頭市場
昨年、店頭市場に新規公開した企業は137社にのぼり、前年より30社多い過去最高を記録した。今年2月には累計で700社を突破、この5年間で約2倍に膨らんでいる。
週3〜5社に限られていた新規公開枠が昨年4月に撤廃されたのを機に、1日に3社公開されることも珍しくなくなった。この1月からは適債基準(社債を発行する際に満たされなければならない基準)も撤廃され、店頭企業も新株引受権付社債(ワラント債)の発行が可能になったことにより、資金調達面での上場企業との差があまりなくなった。地方の中堅企業では知名度向上を狙って、地方の證券取引所よりも“全国区”の店頭市場を選ぶケースが増えているという。
ところが、米国の店頭市場であるNASDAQは、昨年の規模公開企業が767社というから、日米の開きはまだまだ大きい。
この差の原因の一つが「公開基準」だ。米国の公開基準のハードルは低く、公正・透明なんに対し、日本の場合は決められた基準(形式基準)より格段に厳しい基準(実質基準)が設けられていた。これまで建前の店頭公開基準は「準資産2億円以上」「経常利益2、000万円以上」にもかかわらず、三和総合研究所の調査では、実質的には純資産で基準の3倍以上、経常利益にいたっては最低でも10倍の2億円という“影の基準”があり、経営基盤の弱い中小企業にとって店頭市場への門戸を閉ざされた形になっていた。
 一方、NASDAQは純資産200万ドルという基準を満たしていれば、累積赤字を抱えていても公開できる。「成長企業が最初から黒字であるはずがない」という発想がそこにはある。さらに日米比較をすると、NASDAQ公開までの平均年数が5年程度なのに対し、日本の店頭公開までの年数は約32年(昨年公開した企業の平均)。―に登場してくる企業が必ずしも成長企業ではなく、過去の蓄積に安住しているだけの企業も少なくない。


資金調達の道 広がる
今日、大企業主導の産業社会が行き詰まりを見せるなか、斬新な経営手法や独自技術で次代を切り開く中小企業への期待は大きい。その舞台づくりの一つが昨年7月、店頭市場に設けられた特則銘柄として株式公開する店頭登録特則銘柄制度(第2店頭市場)。現行の基準との最大の違いは、売上高に占める研究開発費の割合を3%以上とし、利益基準を撤廃したこと。つまり、事業の新規制や成長性が見込める企業なら、赤字経営でも株式公開によって資金調達ができるようになったわけだ。
ただ、赤字会社となると株価を算出すること自体が難しく、投資家の不安もある。公開価格の決定方法は、証券会社があらかじめ投資家に“いくらなら買うか”と聞き取り調査して決める「ブックビルディング方式」を導入する。制度発足後、公開価格の決定方法など細かいルールが確立されていなかったこともあって、特則市場への第1号登録企業はまだ出ていないが、「96年3月期決算をベースに、株価や株の流通性を見きわめたうえで今夏から秋にかけて数社が公開するのでは」(東茂三・大和証券京都支店公開引受第一部長)とみている。
新技術や新企画を適正に評価する目利きもなかなか難しい。技術力がビジネスにどう結びつくのか、株式公開にあたって行われる証券会社の分析力が問われてくるが、通産省の新規事業法の認定企業や、昨年4月施行の中小企業創造活動促進法に基づく都道府県認定の研究開発事業なども審査の一つのモノサシになる見通しだ。一方、公開をめざす企業にとっては「技術力だけでなく、はっきりした利益計画を持っているかどうかがポイントになってくる」(堀貴男・同公開引受第一部課長代理)。
また、全国の各証券取引所でも今年1月から上場基準を緩和し、相次いで新市場を創設。大阪、京都両証券取引所は、上場に必要な株式数を100万株以上(通常銘柄200株以上とハードルを低くして、経常利益が1円以上あれば上場できる「特則市場」をスタートさせている。このように中小企業と株式市場の距離は急速に縮まりつつあり、背景には新産業を育てたい経済界の熱い期待がある。
その半面、投資家保護の観点から「企業はいままでより詳しい事業内容や業績のディスクロージャーが求められる」(同)ことになり、情報開示が不完全だと投資家から見放され、市場が先細りになることもあり得る。投資家もこれまで以上に、自己責任をもって投資することが必要になるだろう。


「投資育成」の制度も
日米市場の公開基準

特則銘柄 米国NASDAQ
京都証券取引所 店頭
純資産 3億円以上 2億円以上 200万ドル以上
上場株式数100万株以上10万株以上
公開株式数50万株以上50万株以上10万株、流通市場価値100万ドル以上
株主数100人以上50人以上300人以上
利益額 最近1年間において経常利益を計上していること。
その他の条件 ・企業化後15年以内
・直前事業年度の新規事業の売上高が総売上高の20%以上
・新規事業にかかる研究開発費が総売上の3%以上
・研究開発費が売上高の3%以上
・主たる事業内容に新規制
・将来性があること
・マーケットメーカー2社義務付け


積極的な企業運営を行うためには自己資本を充実させ、財務基盤を強化しなければならない。株式公開といかないまでも、企業の発展ステージに応じて経営を側面からサポートしていく「投資育成」システムがある。公的な投資育成機関である大阪中小企業投資育成(株)では、資本金1億円以下の企業に対し、増資新株や転換社債、ワラント債の引き受けを行っている。
同社は85年度からベンチャー企業、85年度から設立企業、91年度からは設立後5年以内のスタートアップ期の企業も対象に投資。63年に設立以来、30余年間に投資した企業は833社(うちベンチャー企業20社、設立4社、創業期5社)、投資額は約400億円にのぼる。
投資育成制度は株式公開への橋渡しを一つの狙いとしているが、公開を義務づけるものではない。「公開をめざすのはいいが、規模拡大のみを追わず、成長発展の礎となる技術力や人材など内実のある企業づくりも中小企業にとっては現実的な生き方」(森下修吉・大阪中小企業投資育成業務第二部長)という。公開にこだわらず長期の安定株主として支援するのが、この制度の役割だ。
現在、新規事業育成の動きが高まり、株式市場では特則市場創設という一つの答えが出されたが、金融機関の融資体制や制度融資の充実、ベンチャー企業を認める風土づくりなど、新規事業育成にはさまざまな要素が絡み合っている。特則市場はあくまでその第一歩であり、中小企業にとっては資金をあおぐにしろ、株式市場で調達するにしろ、まず一定の技術を確立することが先決になる。京都では産学交流が本格化しつつあり、産・官・学がそれぞれの特徴を生かした支援のあり方を考える、それこそベンチャー精神を発揮して議論が高まっていくことが期待される。


NASDAQ
米国証券業協会(NASD)の管理運営によって取引される株式店頭市場。1971年から移動したが、市場への登録条件の緩和やベンチャー企業の増大で新規公開企業が相次ぎ、市場も急ピッチで拡大。かのマイクロソフトも名を連ね、いまやニューヨーク証券取引所と並ぶ取引が行われている。95年の登録銘柄は5、122、うち新規登録は767銘柄に上がる半面、登録廃止銘柄も547を数えた。優良企業も業績不振企業も混在しているのが実態で、ハイリスク・ハイリターンのマーケットであるという位置づけがしっかりとされている。


大阪中小企業投資育成(株)―利用の条

投資の区分投資の種類対象となる企業
一般投資
  • 増資新株引受
  • 転換社債引受
  • 新株引受権付
    社債引受
  • 業績―最近2年間の配当実績が1株当たり年5円(額面50円換算)以上、もしくはこれに見合う利益をあげており、今後も相応の利益計上が見込まれること
  • 業歴―設立後2年以上
  • ベンチャー
    ビジネス
    投資
    (最近2年間、売上高に対する試験研究費の割合が3%以上であること)
  • 業績―原則として1株当たりの税引前利益が年5円(額面50円換算)以上
  • 業歴―設立後10年以内または現事業進出後10年以内
  • 設立・創業期投資
  • 設立新株引受
  • 業歴―設立時もしくは設立5年以内
  • 経営者―事業経営に関する知識等、その経営力が認められること
  • 事業の将来性―事業計画に妥当性が認められ、将来成長発展する見込みがあること

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