1996 FEBRUARY
NO.244
MEDIA STATION



ビジネスに
インターネットをどう活かすか

〜ホームページづくりを通して〜
インターネットのブームが続いている。昨今、ホームページ開設の新聞記事を見かけない日がないことが、それを物語る。将来にわたってどうなっていくかが大きな関心事だが、一過性のブームとしては終わらず、むしろ本番はこれからだとも。インターネットを本当に身のあるもの、役立つものにするにはどうすればよいか。ホームページを開設した企業の事例を通して考えてみた。




トップが自ら陣頭指揮

(株)ホンダベルノ平安(京都市右京区)

中谷眞人社長は個人的な興味から昨年夏、INET(プロバイダー=京都市)に加入して自宅でアクセスしていた。「自動車ディーラーでホームページをつくっているところはないので、機会があったら是非やってみたいと思っていた」という。その後、インターネット利用研究会にも入会し、HTML(ホームページ編集プログラム用言語)を使えばできることは知っていたが、よりいい物をと専門家に依頼して、1月中旬にホームページを開設した。
 ホームページの内容はいわゆる電子カタログで、取り扱っている車の全機種(11機種)はもちろん、従来のカタログ内容すべてを掲載しようと当初は考えていた。しかし、それではページ数が多くなるし、ダイヤルアップに時間がかかりすぎると費用もかさむので、利用者に嫌がられるのではないかと、編集を行い割愛したという。
 基本ターゲットは、INETに加入できる範囲の京都市周辺。だから英語バージョンはつくっていない。いまのところEメールは中谷社長個人宛てで、カタログ請求があれば営業社員が出かけていくという形での対応になる。
さて、その反応は―「正直のところまだない。この1月中旬に開設したばかりなので、1カ月間にどのくらいのアクセス回数があるか、早く数字が知りたい」。新車発表会などではチラシのほうが客の動員には効果的とはいえ、ホームページの利点は、形を一度つくってしまえば印刷広告のようにそのつど原稿から作成する手間や経費が削減できることだ。たとえば、車の場合だと4年ごとにモデルチェンジがあるが、その機種だけ新しい情報を入れ換えていけばいい。もっとも、いまはホームページをつくったという話題性だけが先行している面も否めないようで、「新聞広告にインターネットのアドレスを入れて、ホームページを持っているので見てください、とPRをしよう」と中谷社長は思っている。
ネットワーク社会に向けて、その手段であるインターネットは社会生活に直接、かつ深くかかわってくる可能性を秘めている。同社では、それだけの人がホームページを実際に見てくれるのか、「ホームページのコンテンツ(内容)の一部を社内でつくるというような、新しいメディアを利用しての仕事の幅を広げていけるよう社員を啓蒙していく」方針だ。






関連商品・業種とのリンクも

株)サン・クロレラ (京都市下京区)

同社は健康食品・クロレラの業界最大手。通信販売の形をとり、宣伝媒体は折り込みチラシや雑誌、テレビが主体だが、昨年11月下旬から業界に先がけてホームページを開設した。インターネットをビジネスに活かそうという動きが高まるなかで、「いったいどのように活用できるのか、問いかけの意味合いもあった」と本社営業部の今井健二課長はいう。
 ホームページのカラー基調は健康をイメージした鮮やかなグリーンで構成。会社案内と商品を掲載し、現在、アクセス回数は1日平均で14、5回。画面上ではEメールで注文を受ける体裁をとっていないので、即販売には結びついていないものの、反応はまずまずとみている。
 同社の場合、売上高に占める広告宣伝費のウエートは30%に近い。その点、さきのホンダベルノ平安と同様に「他の媒体に比べるとコストは安い(今井課長)というメリットが挙げられる。
 半面、実際にホームページを開設してみて出てきた課題は二つある。一つは、同社の顧客はアレルギー体質の子どもや成人病予防の対象となる中高年がメインなので、ターゲットがパソコン利用世代とは必ずしもマッチしていないという点。もう一つは、消費者へダイレクトに販売していることから特定の顧客に単品レベルで割引できないこと、つまり電話に代わってインターネットでわざわざ注文しても“特典”が提供できないということだ。
 したがって、インターネットをビジネスのツールとして活用するというより、いまのところは企業の広告塔の域を出ていない。しかし今後、家庭内へのパソコンの普及に拍車がかかり、ネットワークの網の目が緻密になっていけば、「問題点の検討改善とともに、健康というコンセプトのもと、他の健康食品やフィットネスクラブなど関連業種ともリンクしていく方向で仕掛けをしていきたい」(同)と考えている。






次なる段階に向けて

京都電子計算(株)(京都市中京区)

官公庁や企業におけるシステム開発を受託している同社は、ユーザーのホームページを立ち上げるための環境づくりを支援する立場にある。技術者集団の企業ということで、会社自身のホームページ作成にあたってはコンピュータのテクニカルスキルよりも、コンテンツづくりや画面のデザインなど内容面で苦労したという
 「インターネットで情報発信するにはページの出来ばえが肝心。独自の光るもの、“いい内容だな”とユーザーの関心を引くものでなければ本来意味がない」と情報技術部の小山 正弘課長。ホームページづくりで得た教訓は、情報システムとコンテンツの担当者をそれぞれ分けたほうがよい、ということ。技術がわかることと、インターネットをビジネスに活用することとは全く違うからだ。
 いまやショッピング・モールから地方特産品まで、オンライン・ショッピングへの参入は引きも切らないが、果たしてその内容は消費者の気持ちをつかむものになりえているのかどうか。現況は「ユーザーは本当に必要があって利用しているのではなく、ちょっと試しにといった“遊び”感覚の段階。だからこそ多くの方に当社のホームページをアクセスしてもらうために、どのようなサービスができるのか考えているところである。組織的、継続的により良いサービスを提供するためには、企業内でオーソライズされている必要があり、このあたりを詰めている段階。 個人的にはパソコン利用、活用方法などについて、初心者向けの相談受付や回答などをホームページを通じてサービスできないか考えている」と小山課長。というのも、インターネットはまだパソコンマニアがユーザーの中心で、消費のプロである女性ユーザーが増えなければビジネスは成り立たないという声もある。結局、「インターネットが従来の通販にとって代わるか否かは、素人でも気軽に利用できるようになるかどうかにかかっている」(情報技術部のシステムエンジニア、中村 光郎さん)。
 そして、インターネットへの取り組みを考えあぐねている企業に対して、小山課長はこうアドバイスする。「よそがやっているからうちもやろう、という発想だけでは期待どおりの成果は得られない。ただ、インターネット自体はあくまでも一つのツールにすぎない。だからメリットのみを追求することにこだわらず、大いに楽しんで活用することも大切。それはネットワーク社会が次なる段階に入ったときのために、という意味もあるのです」―。


日本電子工業振興協会によると、昨年1年間の国内パソコン出荷台数は激しい価格競争が需要を刺激したのが前年比70%増の511万台と過去最高を記録。世帯あたりのパソコン普及率は前年の8・2%から、昨年末時点で11・6%に上昇した。インターネット・ブームはまだ序章。これからが本番といわれるゆえんだ。  中谷眞人・ホンダベルノ平安社長は「ホームページはインターネットをやっている人にしか行き渡らない広告だが、これからパソコンやデジタル回線がもっと安く普及し、一般的になったら…と展開を楽しみにしている」と期待をかける。ホームページで情報発信するにあたっては、何をしたいのか、だれに向けて発信するのかを前もって明確にしておくことだ。コミュニケーションの手段としてとらえるか、新しいマーケットの武器ととらえるか。そのためには、まずインターネットを実際に体験しながら可能性を調べることが先決。あとは企業が持っているリソースを把握しておけば、状況や目的に応じたいろいろな用途への可能性がおのずと見えてくるのではないだろうか。


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