1995 DECEMBER
NO.242
MEDIA STATION



高度情報化で
ビジネスチャンスをつかもう

−近畿ブロック技術・市場交流プラザ 京都大会を開催−
近畿各府県の異業種交流団体が集まり、異業種交流のあり方や取り組みの現状などについて情報交換を行う「近畿ブロック技術・市場交流プラザ 京都大会」(主催:京都府、中小企業事業団、京都府異業種交流会連絡会議)が11月14日(火)、京都市上京区の京都ブライトンホテルに福井県を含む7府県から関係者約250名が出席して開かれた。
本大会のテーマは「高度情報化の現状と将来性〜高度情報化でビジネスチャンスをつかもう!!〜」。
マルチメディアをはじめとする情報化が急速に進展、いまやインターネットは世界で7000万人の利用者があるといわれており、中小企業が積極的に事業展開を図るためには情報化の最先端を知り、経営の合理化や新分野を開拓していくことが求められている。そこでマルチメディアなどの推進上の課題、中小企業が取り組める分野の可能性を探ろうと、基調講演に続いてパネルディスカッション、情報化推進・融合化開発の研究事例の発表が行われ、きたるべき高度情報化の時代にどのように対応していけばよいのか、出席者一同、熱心に耳を傾けた。




基調講演

「高度情報化社会と事業機会:米国と日本」
今井賢一氏(スタンフォード大学教授 京都府中小企業総合センター所長)

ビジネスの武器としての情報は、これからの事業展開うえでの不可欠な存在であり、情報ネットワークが経済社会を動かしていくことになるだろう。米国は次の時代の情報ネットワーク化に向けて激しい主導権争いをしている。それに対して、日本は立ち遅れが指摘されているが、たんに追いつくことよりも追いつき方が問題になる。
これまでの社会は、科学が発明し、産業が応用して製品をつくり、そして人間が製品に適応していくというパターンだった。つまり、モノをつくり、それを販売するためにマーケティングをするという発想に立っていた。しかし、21世紀はその逆で、人間が欲求するものを科学が研究開発し、産業がこれを製品化していく時代といわれている。情報のネットワーク化によって人々が何を欲しがっているかを探り、技術がそれに適応していくために研究開発を行い、そこで新しい市場が生まれるという流れに変わっていくだろう。
従来、マーケットが存在していて、その機能を効率化することがネットワークの目的だったが、今日ではむしろネットワークによってマーケットを広げ、それがニューマーケットを生み、さらにお互いのマーケットが融合し合っていく。マーケットの融合、例えば米国アップル社の事業をみても、まずテレコムとコンピュータと家電が融合し、90年代に入って家電事業がエンターテイメント分野ともドッキングした。このように技術だけでなく、マーケットも「融合」が大きなコンセプトになり、21世紀にはパソコンがテレビの代わりをするなどいろんなモノの融合が進んでいくのではないか。
かといって、それは何か巨大な市場が生まれるというのではない。個々の小さなマーケットが無数に発生するということで、それをいかにネットワークするかが重要になってくる。
“戦略は構造に従う”という言葉がある。マーケットや企業の動きというのは歴史的につくられた一種の社会構造に規制されていて、即、米国のまねをしても成功するものではない。ハード面についていえば、日本企業のシステムは改善・改良を施し、良いものを安くつくる技術を生み出す上では強力だった。これに対しソフトのほうは発想の飛躍、万人の能力を結集したからといってできるものではない。むしろ個人の才能に負うところが大きく、日本企業の組織には向かないし、そうした構造は簡単には変えられないだろう。
やがて日本は世界でも類のない超高齢化社会を迎える。その間に“everywhere computing”―社会のあらゆるところにコンピュータが組み込まれていくだろう。したがって、だれもがいつでもどこでもコンピュータを使えるような仕組みをつくっておく必要がある。政府は向こう10年間に社会資本の充実を図るため630兆円という巨額を投資する計画だが、道路や港湾、空港の整備と同様に、きたるべきコンピュータ社会への対応も忘れてはならない。
なぜ日本に優れた家電製品が生まれたかというと、企業とユーザー、モノをつくる側と使う側がお互いに意見交換し合ったからだ。コンピュータも皆で使うことによって進化していく。米国のシリコンバレーに学ぶべき点は、それぞれの企業が手づくり精神でまずやってみて、それが次の開発につながったということだ。将来、海外へ日本語でファックスを送ると、向こうでは英語に訳されて出てくるという時代がやってくるだろう。その場合も皆で利用してこそだんだん改善されるわけで、それが夢の実現へとつながっていく。
これからの産業の形成、事業機会について、繰り返していえば、何か巨大市場が登場するというのは幻想にすぎない。投資規模も何兆円でなく、何億円という小さなマーケットによるネットワーク型産業社会に変わっていくだろう。
それらの構成要素であるモノとサービスとソフトをどう組み合わせ、そしてそのインターフェースをどうするか。大企業については、アウトソーシングの手法や分社化が構造変革のポイントになるだろう。中小企業については、ネットワークによって異質なものが直結したり、重なり合ったり、あるいは組み替えられたりしながら、技術の融合とともにマーケットの融合が起こってくるだろう。これからはそうした視点で新しい市場をとらえていかなければならない。




パネルディスカッション
「高度情報化の現状と将来性」
コーディネーター:波多野 進氏(京都学園大学経済学部教授)
    パネラー:石黒憲彦氏(通商産業省情報政策企画室長)
         古寺重実氏(BBCC〈新世代通信網実験協議会)マーケティング部長
         中西秀彦氏(中西印刷叶齧ア取締役

波多野--今日の高度情報化の流れ、現状をどう認識していますか。

石 黒--何か得体の知れないものが押し寄せてくるかのようなセンセーショナルな議論があるが、情報化というのはあくまでビジネスを展開上の道具であるとクールに受け止める必要がある。要は、それをこれからのビジネスにどう生かすかだ。中小企業にとってはインターネットなど情報ネットワークを活用することによって営業力をカバーすることができるし、たとえ企業規模は小さくてもグローバルなビジネス活動ができる可能性も出てきた。ただ、その際、人間同士がコミュニケーションを図るとき共通の言語が前提となるように、コンピュータの世界も情報処理をどう標準化していくかが大きな課題になってくる。

古 寺--現在、195社の賛同を得ていろんなアプリケーションづくり、一例をあげるとNTTをはじめ重電、印刷、通信販売会社がジョイントして電子カタログを用いた通販のプロジェクトを進めている。そういう意味では、我々の協議会は異業種交流の場ともいえる。将来、敷設される光ファイバーなどインフラ整備を最大限活用することができるよう、アプリケーションの開発を推進していくことが我々の使命だと考えている。

中 西--この10年間、印刷業務のシステム化をテーマに、ワープロで入力すると活字で出力される機械の開発など試行錯誤を繰り返してきた。中小企業は大企業と違って、リストラの名のもとに人員を削減することも、新たな人材を確保することも難しい。結局、活版職人をコンピュータ部門に配置転換して指導し、従来の手仕事中心の会社からコンピュータ企業に生まれ変わることができた。情報化ということで大上段に振りかぶるのでなく、とにかくできることから始めてみることが大事だ。

波多野--今後ますますグローバルな視点からビジネスを考えていかなければならなくなる。高度情報化について指摘されている日米の格差をどうとらえていますか。

石 黒--日本がバブル時代に米国は深刻なリセッション下にあって、各企業とも大胆に人員削減を進める一方で、徹底して情報化投資を行った。日本では雇用問題に関して米国のようにドライに割り切ることができないし、特にホワイトカラーの仕事は“あうんの呼吸”で物事を運ぶ面もあり、業務がなかなかマニュアル化しにくいといった特性がある。情報の入手方法も、新聞が共通のスタンダードになっていて異質性が少ない。裏返していえば、大衆市場の基盤がしっかりしている。その意味で米国と同じような形でのマルチメディア市場は形成されないのではないか。かといって日米の情報格差は即、競争力格差を意味しないが、米国の自動車業界の急回復ぶりを見るとコンピュータの使い方がうまいなとつくづく思う。

古 寺--先ほどいった通販を例にあげると、ユーザーは主婦になる。ところが主婦はパソコンのキーボードをたたくことにはほとんど慣れていない。米国と比べてマルチメディアの基盤が立ち遅れているのは、ネットする媒体としてのCATVの普及率や、家庭市場へのパソコンの普及が遅れているためだ。しかし、国内のパソコン市場はこのところ急膨張しており、数年後には日米の差はなくなるかもしれない。ソフト面では日本としてのオリジナリティーをどう発揮していくかが課題になるだろう

中 西--これは仮設だが、集団で田植えをするコメ文化と欧米の狩猟文化との違いではないか。日本では情報の入手も横並び、取り組み方にも画一的で勤勉というか、まじめすぎる面がある。狩猟は一発勝負、獲れることもあれば獲れないこともある。米国人は好きなものには貪欲だが、嫌いなものには見向きもしない。日本人は皆で同じ新聞を見たがる。コンピュータの世界は1人の天才、個人の強力なイニシアチブによって前へ進むことが多い。もっと自由な発想、究極的には“まじめさからの脱却”が必要だと思う。

波多野--高度情報化社会はいってみればニッチ市場の集まりともいえる。それぞれは小ロットだが、半面、いろんな事業展開の可能性をもたらすことになる。マーケットに対する概念や見方も変わってくるのではないか。

石 黒--例えばインターネットの特徴は、草の根レベルで広がっていること、そして世界中に直接アクセスできるという特徴がある。このことは日常生活のさまざまな分野に潜在市場があることを意味していて、それを開拓できるかどうかはインターネットやパソコンの活用の仕方いかんにかかっている。ただ、業務内容の見直しをしないまま、情報システムだけを入れようとすると宝の持ち腐れになってしまう。

古 寺--我々の実験プロジェクトにも中小企業の方が参加されているが、通信カラオケなどエンドユーザーの立場から盛り上がっている分野も少なくない。

中 西--情報化というと大企業の世界のことなんだという考えもまだ一部にあるようだ。しかし、いまではインターネットが同窓会の案内に利用されている。ポケベルもまさか高校生まで使うとは、開発された当時は思ってもみなかっただろう。このように需要は予想もしないところから起きてくるもので、頭を働かせてそれを見つけるのが中小企業の役目だと思う。

波多野--経済のグローバル化と高度情報化のなかで、中小企業はどう生きていくのかについて提言を。

石 黒--過去にも中小企業はおう盛なバイタリティーで技術なりノウハウを蓄積してきた。今回も国が考えているより速いスピードで現場の方が先行していくのではないか。実際の活用にあたっての場づくりが我々の課題だと考えている。

古 寺--エンドユーザー側から改善すべき点などをどんどん提案していただきたい。将来ビジョンを持つことも必要だが、とにかく導入してやってみる、使ってみることです。

中 西--京都は伝統技術の宝庫、これをどう情報化の流れに乗せていくかが大きなテーマになる。目下のところネックは通信コストが高すぎること、あとは“中小企業魂”でやるのみです。

波多野--高度情報化社会に向けて問題点は2つある。一つは中西さんが指摘されたように通信コストの問題、もう一つは標準化システムについて実態を反映したものにするため、いまは市場に任せていてもいいのではないか。情報化は社会の変化とともに進展していく。幸い京都の中小企業にはいろんな蓄積があり、実りある異業種交流を通じてその財産を企業活動に生かしていただきたい。



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