ノボペン
【のぼ・ぺん】
(一般名)
(英:NOVO Pen)



 ノボ・ノルディスクファーマ社が1988年にリリースした、カートリッジ交換型のインスリン注射器。グッドデザイン受賞。

 それまでは、病院での注射で行われているように、ガラス製またはプラスティック製の注射器を使い、バイアルから吸引することによる注射が、DM患者がインスリン製剤を注射する際の唯一の方法であった。しかし、旧来のようにガラス製注射器で注射をする場合、一般家庭内で瀕回に利用するには、毎回の煮沸消毒が必要となるため、日常生活を送る上ではやや非現実的である。また、1回のみで使いきるプラスティック製のディスポーサブル注射器(シリンジ)でも、1日に数回の注射が必要な場合には、少なくとも注射回数と同じ数を持ち歩かねばならず、やはり使い勝手が悪い。それだけでなく、いかにも「注射」然とした道具一式を持ち歩くことは、DM患者にとって精神的・心理的にも抵抗感が大きく、「薬物中毒患者」的な印象を与えてしまうことも否定できなかった。ノボ社にとっても自社のインスリン製剤の普及を図る上で、こうした「インスリン注射」に関わる様々な問題を払拭することが不可欠の課題とされていた。これに対し、ノボ社が出した回答が、この「ノボペン」である。

 それまでの注射器は、再利用のため注射針と本体こそ分離していたものの、ピストンと薬液を充填する部品は完全に一体化していた。しかし、ノボペンでは、ピストンと注入薬液を装填する部品を別体とし、その代わりバイアルを細長く変形させ、底にあたる部分を可動式のゴム栓で「蓋」をする形のガラスカートリッジを新たに設計。この「ゴム栓可動式バイアル」にインスリン製剤を装填し「ペンフィル」として供給することとした。これにより、注射針、注射器、薬液がそれぞれ分離することになり、衛生的かつ取り扱いの簡便な「注射システム」である「ノボペン」が完成したのである。

 さらに、このノボペンでは画期的な取り組みが行われている。周囲からの視線や、何よりも患者自身の注射に対する抵抗や違和感を減らすため、この新しい注射器をその名の通り「ペン」としてデザインしたのである。それまで「注射」は、「病院で医師や看護士にしてもらうもの」「人目を避けてするもの」であったが、ノボペンはそれらの既成概念を正にコペルニクス式に覆した。「非日常」の象徴でもあった「注射」を、「日常」である「ペン」としてデザインすることで、「注射」を「社会生活の場で自分自身でするもの」「人前でも気にせずするもの」へと変換することに見事に成功したのである。もちろんそこには、医師や看護士の免許を持たない一般人に「医療行為」を解放することに伴う強固な抵抗が存在した。しかし、DM患者の「日常生活の中で普通に『注射』ができるようになりたい」との切望は、同時に時代の要請でもあり、ノボは、新たなデザインと新たな製剤供給システムの構築により、それに応えたのである。また、アルミとプラスチックで構成されたシャープでミニマルなデザインは、清潔感や先進性を表すものであり、注入時に「カチカチ」と小さいながらも確実な感触によるフィードバックがあることは、患者に大きな信頼性を与えるものであった。

 ノボペンは、最初期型のNovoPen、二代目であるNovoPenII、NovoPenIII(いずれも150単位製剤)を経て、現在ではNovoPen300、NovoPen300 Demi(いずれも300単位製剤)として提供されている。各モデルの大きな変更点としては、初代は予め注入単位を設定するための機構が存在せず、ピストンの押し込み1回につき2単位の注入とされていたのに対し、二代目からはダイヤルによって注入単位の設定を行うようになったこと、二代目はプラスチック製であったのが、三代目で再び金属部品を多用するタイプに戻ったこと、四代目にあたる300ではペンフィル製剤の容量が300単位(3ml)のものに変更されていること、小児用に0.5単位刻みの注入量設定ができる機種(NovoPen300 Demi)が追加されたことなどが挙げられる。以下、年表。

1980年  ノボ薬品株式会社設立
1984年  日本ノルディスク株式会社設立
1988年 ペン型インスリン注入器「ノボペン」、および専用カートリッジ製剤「ペンフィル」発売
1990年 ノボ薬品株式会社と日本ノルディスク株式会社が統合、ノボ ノルディスク ファーマ株式会社発足
1993年 ペン型インスリン注入器「ノボペンIII」発売
1994年 ペン型インスリンシリンジ製剤「ノボレット」発売
1998年 ペン型インスリン注入器「ノボペン300」、および専用カートリッジ型インスリン製剤「ペンフィル300」シリーズ発売
2001年 超速効型インスリンアナログ製剤「ノボラピッド注」発売
2002年 新しいディスポーサブルタイプの注射器として、インスリンプレフィルド製剤「ノボラピッド注フレックスペン」発売
2003年 「フレックスペン」ならびに「イノレット」がすべてのインスリン製剤で販売開始され、フルラインアップ化が完成。