●インスリン抵抗性
【いんすりん・ていこうせい】
(一般名)
(英:Insulin Resistance)
[類→インスリン抵抗性改善(薬)



糖尿病(高血糖症)の発症、すなわち血糖値が高くなる原因としては、

 1. インスリンの自己分泌が不十分
 2. インスリンの自己分泌は十分なのに、インスリンが十分効果を発揮できない

の2つが考えられる。このうち2.の状態を「インスリン抵抗性がある」といい、2型DMの発症原因の多くが、このインスリン抵抗性によるものと考えられている。

このインスリン抵抗性について、分子生物学レベルで見ると次のようになる。通常グルコースは、グルコース輸送担体4型(Glut4)と呼ばれるタンパク質によって、血液中から細胞内へ吸収され、グリコーゲンへと合成される。Glut4は血液中にインスリンが存在するときにだけ細胞の内側から表面上へ移動して、細胞への糖の取り込みを促進し、インスリンの作用がないときには働かない。この現象はインスリンによるGlut4の「トランスロケーション」として知られている(ただし、運動直後に限っては、インスリンの作用が無くてもこのGlut4のトランスロケーションが起こっており、強力にグルコースを細胞内に吸収できる)。したがって「インスリン抵抗性がある」とは、インスリン刺激を受けても細胞中のGlut4が細胞膜上へ効率的に移動しない状態のことである。

また、骨格筋の血流の減少などもインスリン抵抗性が出てくる要因のひとつと考えられている。

一般に、こうしたインスリン抵抗性が出てくる原因としては、

1. 遺伝
2. 肥満
3. 運動不足
4. 高脂肪食
5. ストレス

などがあるが、2.の「肥満」がなぜインスリン抵抗性を惹き起こすのかについてのメカニズムは徐々に解明されつつある。

基礎代謝を上回る栄養が継続的に細胞に取り込まれ、脂肪細胞が膨らむと、インスリンの働きを向上させる物質(アディポネクチン)が出なくなり、その一方でインスリンの働きを悪くする物質(TNA−αや遊離脂肪酸)が分泌される。これらより、肥満がインスリン抵抗性を惹き起こすと考えられており、2型DMで肥満を伴っている場合、先ず食事療法や運動療法で肥満を解消するように指導されるのは、このインスリン抵抗性を解消することを狙っているからである。

また、4.の「高脂肪食」も、これを摂取することにより脂肪細胞の膨張を促すことが原因であるが、特にハンバーガーなどいわゆるファーストフードに多く含まれる「飽和脂肪酸」はインスリン抵抗性を来たしやすい。また油脂については、リノール酸を大量に含む紅花油の摂取はインスリン抵抗性を来たしやすいが、魚油はインスリン抵抗性の発症を改善する傾向がある。この事実から、2型糖尿病の予防にとっても食事の内容には十分気をつけるべきであることが分かる。

また、食事量に応じた適切な量のインスリン注射を行うことが推奨される1型DM患者にとっても、インスリン抵抗性を惹き起こさないための努力は必要である。例えインスリン注射の調整によって血糖が正常の範囲内に収まっていたとしても、基礎代謝を上回る大幅なカロリーオーバーの食事を続けていると当然ながら肥満となり、その結果としてインスリン抵抗性が高まってしまう(=2型DMを併発してしまう)ので、血糖値だけでなく体重の管理も非常に重要である。なお、風邪を惹いて熱が出た場合や体調が悪い場合(シックデイ)には、一時的にインスリン抵抗性が強まるので注意が必要である。

参考: http://www.dm-net.co.jp/kankosin/toy81/01.htm
http://humpty.nih.go.jp/kiban2/ronbun/kasaoka02.htm
http://www.sankyo.co.jp/medemiru/life/dm_pro/insulin/insulin01.html